エピローグ:美しすぎる、大団円。❸

この流星雨は毎年8月中旬に観測されている。もちろん、当時のように光が降り注ぐ、とまではいかないが、今でもたくさんの流れ星を観測できる。ちょうどグラストンベリーの夏祭りに重なる時期でもあり、その祭りは「星祭り」とも呼ばれるようになった。

 そして、この現象は凜の勲功を称えるため、「トリスタン流星群」と名付けられている。


この一週間後、慶次の死の知らせがカフェにも届いた。赤ん坊を抱いたヌーゼリアル(エルフ)人の女が訪ねてきたのだ。それは慶次の愛人だった娼婦で、リックへの遺言を慶次から託されていたのだ。事実を知ったリックは激しく泣いた。

「そうか、あの時の光は慶次さんのものだったのか。」

凜はつぶやく。達筆すぎて読めない文章をゼルに解析してもらった。それを読んだ凜はかすかに笑む。

「リック、君は今日から『義之よしゆき』を名乗れってさ。慶次さんらしいや。」

 慶次はリックにいみなをつけてやる、という約束を忘れてはいなかったのだ。

「武田義之ですか⋯⋯。リックのくせにカッコよくて生意気です。」

ゼルが苦情を言った。


「義?」

リックが泣きはらした顔をあげた。凜は遺言状を彼に渡した。

「うん。『義』というのは法的に正しいという意味よりも、生き方としての正しさだと思うよ。漢として、人間として『正しく』生きろ、ってことじゃないかな。」


エルフの女はカフェにそのままいついてしまった。彼女は慶次亡き今、どう育てようか悩んでいたのだ。正式な妻ではなく、子供の認知もなされていなかったので、公的な扶助を受けづらかったのだ。その子もリックに託されていたのだ。男の子であった。リックやヘンリー、そして実際に育てたのはアマンダさんだが立派に育て上げた。後に「前田虎次郎利景」という名を凜に贈られ、それを名乗ることになる。


 さて、「元老院セネート」も「幕府ワイルドハント」もその役割を終えたために解散し、再び「円卓」として王都に戻ってきた。今回の分裂騒動の元凶とされたハワードは王に隠居を命じられる。ただ、それと引き換えに円卓の間の天井を飾るフレスコ画にその姿を描きいれてもらうという栄誉を勝ち得た。それは、「ドM」の影響下にあった、という彼の必死の言い訳に国王が答えた結果である。


 凜は晴れて執政官コンスルになったが一期でそれを返上した。凜はその勲功により「大公爵」の位を授かり、「護国卿ロード・プロテクター」の称号を授かる。これは「富国卿ロード・プロバイダー」宝井舜介=ガウェイン、「救国卿ロード・セイバー」不知火尊=パーシヴァルにつぐ快挙である。


凜のその後の歩みについてはここでは取り上げない。彼は惑星にとどまることを良しとせず、フェニキア人とともにレーサーとして銀河を旅してまわったとも、ヌーゼリアルで王となったシモンの執政を手伝ったともいわれるが、この惑星にそれを裏付ける資料は存在しないからだ。


 その仲間たち、マーリン、メグ、リック、トム、リーナ、ロゼ、ジェシカの7人は「グレイト7」と呼ばれ、後世では様々なエンターテイメントの題材とされている。それは、リックの「その後」によるところが大きい。

 

さて、リックは聖槍騎士団を後にし、かつてヘンリーが在籍していた近衛府へと移った。やがて時は過ぎる。


星暦1599年。


圧倒的な権力基盤を近衛府に構築したリックは選挙大戦で再び護法騎士団を降し、2期目の執政官への就任を決めた。彼は近衛府を核に、正統十二騎士団アポストルを統合、円卓の名を廃し、統合幕僚本府、略して幕府とした。そして凜の先例に倣って北の軍都イグレーヌに幕府を開いたのである。


しかし、国王アーサーはその幕府に「ワイルドハント」の愛称を許さず、「ロイヤルヘッドクォータ」との名をのみ許した。また、リックの「士師」の就任を認めなかった。彼は「士師ジャッジ」を自称していたが、許されたのは「将軍ブレトワルダ」という称号である。


 『武田リチャード一世ウインザー義之』。これが将軍としての彼の名であった。彼は5年後に引退すると、将軍職を息子のエドワード仁之まさゆきに譲った。こうして、その職が選挙によってではなく、血統によって譲られることを示したのだ。

騎士団は反発したが、隠居してなお院政を敷いていたリックは、騎士団長もまた世襲制にしたのだ。彼らは漢字の姓名と、受け継がれる爵位を与えられ、徐々に取り込まれていった。


 ただ、血統による地位の相続や襲爵を国王は認可しなかった。そのため、「騎士」とは別個に「武士」という地位を幕府は新たに創設することになった。


その後も選挙大戦も続けられたが、それは円卓に座す十二の騎士団を決める、という趣旨に変更された。もちろん、銀河系では今でも広く愛されているバトル・コンテンツである。技制度が取り入れられてから、惑星外からの志願者も大幅に増えたことも大きい。


こうして、スフィアの歴史は『中世』が終わり、『近世』である封建制度時代に入ったのである。


 この事態は、国王にとっては予定の範疇の歴史の進展であったため、あえて阻止しようとはしなかった、しかし、彼の後に出る将軍に暗愚な者が出るときのために「士師」の名をあえて許さなかったのである。


 一方、リックは自らを凜の後継者であると称し、二代目の将軍であると公言していた。「初代」はあくまでも凜である、としていた。それで、今日でも凜は「トリスタン卿」、あるいは「護国卿」という正式の呼称よりも「初代様」という言い方の方が庶民には馴染みが深いのである。


 リックは自らの血統の保護のために御三家を作り、主都グラストンベリー、副都ポートランド、南の軍都ヴィヴィアンにそれぞれ領主として自分の息子たちを配した。それぞれ武田テューダー家、武田スチュアート家、武田ランカスター家である。


 無論、リック自身は有能な政治家であり、同時期にアマレク共和国の大統領に就任したラムセス26世クレメンスと共に大繁栄の時代を築いた。このラムセス26世こそ、アトゥム・クレメンスとして同じ釜の飯を食らい、共に戦った仲間なのである。


 そして、かつての「トム」の傍らに偉そうにたたずむ男、彼こそがルーク大伯爵、かつて呂布奉先として彼らと戦った男なのである。


 一方、アーサー王は凜の要望だった「巫女制度」を導入した。宇宙港と惑星砲を司る「聖剣の巫女」。ナノマシンによる大気・気象システムを司る「聖玉の巫女」。聖杯システムによる生産を司る「聖杯の巫女」、空間瞬間移動システムを司る「聖鏡の巫女」。そしてキングアーサーシステムを司る「聖櫃の巫女」である。


 5人の乙女が5年任期で務める。5人のユニット名は交代するごとに変更されるのだ。そのユニット名が「時代」の名を表すようになった。また、彼女らは王の代弁者であり代行者であるため、王権の象徴とみなされた。それで、将軍よりも上座に置かれるのである。


 さて、彼女らの居城でもあるティンタジェル城の円卓の間には、士師だけが手にすることのできる剣が台座に突き立てられていたのだ。それが「レガリア」の刀剣だったのだ。その号だけが伝えられている。「アロンダイト」である。


 それから400年、曲がりなりにも惑星スフィアは平和を楽しんできたといえよう。

 しかし星暦1999年、再び危機は訪れる。王都キャメロットの上空をおびただしい数の真っ黒に塗られた宇宙戦艦の艦隊が覆ったのである。その艦隊旗艦から現れた男は地球人種テラノイドであった。


 そう、彼らの故郷「地球」よりの使者だったのである。彼らは圧倒的な軍事力でこの惑星に「友好」を迫ってきたのである。狙いは、重力制御回路のバイタルチップを銀河で独占的に生産するスフィアの産業である。

 

 凜が開発した超長距離瞬間移動システムによって、さらにスフィアに富が集まってきていることを聞きつけた彼らは、それを奪いに来たのである。

 

 幕府内は「攘夷」か「開国」でもめにもめた。

 そう、これが、「幕末」と呼ばれた動乱の時代の始まりだったのだ。


(終わり)


長らくのご愛読ありがとうございました。


「惑星スフィアシリーズ」第四作(シリーズ最終) 「ワイルドハント!-幕末の黙示録」へと続いていきます。この作品でも凜の同僚の熾天使として登場する「鞍馬光平=ランスロット」が主人公の幕末アクション作品の予定です。


その前にシリーズのエピソード1に当たる「シリーズ第1部」「娘連れ狼無頼譚」を連載予定。クトゥルフ神話をモチーフにした魔獣を狩りながら銀髪幼女の義妹を連れて旅するお話の予定です。


また、シリーズ第二部にあたる「はるかかなたのエクソダス」は「なろう」にて完結しております。よろしかったらぜひ。


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