第251話:世紀末すぎる、大作戦。③

「元老院軍に告ぐ。全艦、宇宙港へ帰投せよ。」

ここまでやってきて、手柄を譲るのは正直癪にさわる。しかし、もう皆限界だった。責任は仕留めきれなかった自分にある。ペンテコステは全艦隊に帰投を命じた。


[星暦1557年7月7日。北の軍都イグレーヌ上空の宇宙港ヨコスカ。]


 一方、「幕府」側の作戦はここからが本番である。幕府側は元老院側の作戦名「怒りの日ディエス・イレ」に合わせて「歓喜の歌アンディーフロイデ」という作戦名をつけた。やはりゼルには不評だった。私案の「ダイダ□ス・アタック」が却下されたのを恨んでのことであった。


「惑星砲エクスカリバー起動。相転移陣、投射ドロー。」

凜の指令をオペレーターが復唱する。


「ここはやっぱり『撃てファイエル』と言いたいですよねえ。」

ゼルがからかうが凜は眉を少しあげるに留めた。

「まあ、確かに一度は言ってみたかったかもね。でも、実際にビームも砲弾も撃つわけじゃないから。」


ゆっくりと虚空に紋章陣が投影される。それに先陣した「元老院軍」がすでに砕いていた小惑星の破片が当たると、まるで吸い込まれるように消え去っていく。きっと空気があればメリメリと音を立てていたであろう。


「すげえ。」

モニタリングしていたリックがつぶやく。ゼルはすかさず檄を飛ばす。

「感心している場合では無いですよ、リック。紋章陣で取り逃がした奴がまもなく突入します。」

「わかってるよ。」

 リックが駆る主天使ドミニオンが飛翔を開始する。リックが率いる聖槍騎士団、そして地方騎士団の混成部隊は落ちてくる隕石を次々と落とす。火花が散り、砕けた塵が真っ赤な雲を作り、その中を稲妻が走る。空から焼け焦げた臭いが降りて来る。そして煙が空を満たしていく。


 人々は息を呑んで空を見つめていた。まさに、「怒りの日ディエス・イレ」に直面したかのような恐れに満ちた表情である。


1週間ほどで、ほぼ小惑星のかけらで満ちた宙域を過ぎたのか隕石の降下がほぼ終了する。

 そこに思わぬ申し出があった。


「我々も共に戦おう。」

イグレーヌを十兵衛や慶次ら英雄たちと、元老院軍の幕閣たちが訪れたのだ。休養から復帰した元老院軍も幕府軍の作戦に参加を申し出たのだ。

「ええ。戦力はいくらあっても困りませんから。それに、ここはみんなの惑星です。一致団結して、絶対に守りぬきましょう。」

凜は快諾する。


 彼らは宇宙空間でかけらをさらに破砕し、紋章陣へと流し込んでいく手伝いをする。もうしばらく実戦をつんでいるだけに、その働きは大きかった。フェニキアも高性能のレーダーによって小惑星のかけらを見つける任務を果たしてくれたのだ。


 やがて、巨大な「小惑星」を一つ残すだけとなった。

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