第249話:世紀末すぎる、大作戦。①

[星暦1554年11月30日]


「わるいな、わざわざ見送ってもらってよ。まあ、副大統領のついでだろうけどな。」

 ケビンとジーンは予定通り大統領専用機の出発と共に帰国することになった。ルイが惑星外へ逃走したことを陳謝とともに伝えらえたケビンは頭をかいてこういった。

「まあ、さすがにあんなバケモノを捕まえておく力はこっちにはないんでね。」

 手ぶらで帰るのは正直悔しかったが仕方がなかった。凜としても、ルイが「ドM」の依代になるとは想像もしていなかったのである。二人は握手を交わす。

「またいつでも遊びに来てくださいね……、という時代になったらいいですね。」

ケビンは神妙な顔つきの凜の肩をぽんとたたく。

「まあ、そりゃお前さんの仕事だがな。ま、俺は楽しかったよ。じゃ、またいつか。」


 そして、旅団のメンバーもメテオ・ストライクに備え、それぞれの道へと別れることになったのだ。

 

 リックは聖槍騎士団の空戦隊の指揮官に任じられた。

 メグはヴァルキュリア女子修道騎士会に復帰し、星組の隊長に任じられた。来るメテオ・ストライクの実戦部隊の指揮が任されることになる。メグには隊長機である主天使ドミニオン「アスタロット」が与えられた。アスタロットはヴァルキュリアの象徴とも言える機体で、名実ともに「エース」とみなされた証でもあった。


 トムは帰国せず、伝令使杖騎士団に復帰し、空戦隊長に任命される。そして隊長機である主天使ドミニオン「マルコシアス」が与えれる。もちろん、自分の「アヌビス」の方が強力なのだが、それは国の許可がないと戦闘には使えないのである。選挙大戦は「競技」なので使用できたのである。


 リーナとロゼも帰国せず、幕府の幕僚として凜と共にとどまることになった。彼らは連絡将校として、惑星内外の国との連絡や調整の任務も課されたのだ。


 そして、その日は近づきつつあった。小惑星デストロイヤーはますます近づきつつあった。また多くの小惑星群が惑星公転軌道上に近づいてきていているのである。


 フェニキアやアマレク、ヌーゼリアルの疎開も始まっていたが、そのほとんどが富裕層や貴族階級であった。


[星暦1557年1月30日]


そして、その日はやってくる。

「小惑星群がついに惑星公転軌道上に到達しました。」

この時点でハワードら「元老院」の作戦が始まるのである。というのも彼らは移動砲台であるため、なにもぎりぎりまで待つ必要はなく、公転軌道に到達した小惑星群を惑星に先回りして破砕すればいいのである。


今回はエネルギーの補給などのバックアップをフェニキアが担当してくれることもあり、進発式が盛大に行われた。派遣部隊の総指揮官は「護民官トリビューン」たるハワード・テイラーJr.上天位が務めているが、実際に前線で指揮を執るのはサイモン・ドゥルガー・ペンテコステ大天位である。


 そして、ルイ以外の残された六人の英雄も全員、前線へと向かったのである。

 彼らの作戦名は『怒りの日ディエス・イレ』であると発表された。


凜とマーリンは顔を見合わせる。

「どうですか?この作戦名は。」

ゼルの問いに二人とも苦笑する。

「確かに、意気込みは伝わってくるけど今ひとつだねえ。」

「ええ。直球すぎて、不安を煽ってどうするのかと。」


アンが屈託なく尋ねる。

「ねえ、凜はモーツァルト派、それともヴェルディ派?」

凜は少し考えたが

「んー。ヴェルディの方がキャッチーだよね。まあ、どっちも出だしイントロしか知らないけど。」

怒りの日ディエス・イレ』とはクラッシックでは有名な鎮魂歌レクイエムのテーマでもあるのだ。


こうして、惑星中の宇宙港を次々と強力な大出力エネルギー兵器を載せた戦闘艇が進発する。さらに、バックアップとして多数の天使が投入された。


 一方、同時期に軍都イグレーヌにかつてのメンバーたちが久しぶりに再集結する。「幕府ワイルド・ハント」としての作戦が始まるのだ。


凜が周りを見回しながら言った。

「我々の作戦開始時期は星暦1557年7月7日とする。およそ一ヶ月ほどの作戦だ。まあ主役は惑星砲だけどね。ただ、破片が大気圏を突き抜けて降り注ぐ可能性が高い。それ故のバックアップの指揮をみんなにお願いします。ぼくたちは幕府という、いわば一つの防空騎士団になるわけだね。」


 凜はしばらく見ない間に、みなの表情や立ち居振る舞いが頼もしくなっていることに気づく。5年間、毎日顔を合わせていたからこそ、日々の成長に気づきもしなかったのかもしれない。でも、あの苦しかった修練と戦いの日々があったからこそ、大事な作戦を任せられる頼れる指揮官として成長してくれたのだ。


アトゥム・クレメンスと配下の伝令使杖カドゥケウス騎士団、マグダレーナ・エンデヴェールと配下のヴァルキュリア女子修道騎士会、その他にも幕府、元老院の所属を問わず地方騎士団がそれぞれ、防空する座標を割り当てられる。


これまで2年近く、重力子バリアを展開したり、落ちてくる高速の隕石を迎撃したりするための、多くの修練を積んできた。これも、凜が「士師」として準備を積んで来たことが実になったものだ。


国王は国難に備え、敢えて国民を一箇所に集める、ということをしなかったし、旅行や長距離移動を禁ずることもしなかった。

「自分がここでなら死んでもいい、そう思えるところにいてくれればいい。もちろん、死なせやしねえよ。一人も⋯⋯、いや猫の子1匹たりともな。」


 国王の言い方は乱暴と言えば乱暴ではあるが、国民の混乱を抑える働きにはなった。多くの人が移動して、あるものは家族で、思う人と、自分のいたいところで、「その日」を迎えることになったのだ。


もちろん、警備の騎士の命令に従うことが絶対条件ではあるが。


「さあ、人事は尽くした。あとは天命を待つのみ。」

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