最終部:そして僕らがつかむもの。―小惑星群襲来《メテオ・ストライク》編

第247話:予定調和すぎる、対立。❶

[星暦1544年11月25日。王都キャメロット。]


円卓ラウンドテーブルは解散された。よって、新たな執政官コンスルの就任はなくなった。」

 その理由をメテオ・ストライクの危機に対処するための「一時的な」措置である、とした。専門性の低い「聖槍騎士団」に世界の行く末を任せるわけにはいかない、というものである。よって、新たな組織を立ち上げ、この国難に全市民の力を集結したい、と主張したのである。


 その、新たなる組織には「元老院セネート」と名が付けられ、正統十二騎士団アポストルによって引き続き構成される、ということであった。その代表者は「護民官トリビューン」と呼ばれることになり、初代「護民官」にはハワード・アレックス・テイラーJr.が就任することになったのだ。そして彼を支えるのが二人の「執政官代理プロコンスル」である。それにはハワード・フィリップ・テイラー、そして、マッツォ・フィーバー・メンデルスゾーンが就くことになった。


 無論、話はもめにもめた。納得いかないラドラーやグレイスはテーブルをたたいて抗議する。しかし、最後は多数決で押し切られた。


「そういうわけだ。貴卿には悪いが、『時勢』というものがあるのだよ。」

執政官としての「当選証書」を受け取りに来た凜にハワードは告げた。


 そう言うマッツォに対して凜とマーリンは笑った。

「やはり、こう来ましたか。うすうす予想はついていましたが。わたしたちが勝った場合の『プランB』とやらが発動した、という訳ですね。」

「まあしょうがない。こちらも粛々と計画を進めていくしかないね。」


「粛々と……だと?」

「若輩」にしか見えない凜とマーリンに笑われ、ハワードがムッとしたように問い返した。


 しかし、凜は不快そうな表情をマッツォに向けたまま続けた。

「もうそろそろ茶番劇は終わりにしないか?マッツォ・メンデルスゾーン。いや、ジム・ハリス、というべきかな?それとも、『モルドレッド・モリアーティ』、そうお呼びしたらよろしいかな?」

マーリンも続けた。

「そろそろ『年貢の納め時』ってやつですよ。『ドM様』」


 議場は静まりかえった。いったい二人がなんのことを言っているのかにわかには理解しかねたからである。それを破ったのはマッツォの哄笑であった。

「ほう?いつから気づいていたのかね?」

マッツォが興味深そうな表情に変わる。凜はつづけた。

「最初からな……と言いたいところだが、あんたが裏から手をまわして僕の仕事を妨害し続けていたのはすでに知っている。ハワード卿を唆していたのもあんただろう?メグの父上の暗殺を画策し、その上ヌーゼリアルの国の混乱に陥れた黒幕はあんただ。ロゼの叔父君をたぶらかしてレース勝負に持ち込んできたのもあんただ。アマレクの総督ゲラシウス卿をたぶらかしてアヌビスをコピーさせたのもあんただ。今回の俺の仕事の障害の裏には、全部あんたの思惑が透けて見えていたんだよ。


 そして、おそらく、いや間違いなくあのテロ組織「短剣党」の黒幕もあんただ。アポロニアの選挙にもかんでいたのだろう。」


マッツォはいすに深々と座りなおした。脚を組み、テーブルの上で指を組む。

「なるほど、よくできた推理だな。ただ証拠はないのが残念だな。この程度で両手をあげてくれるのは『コナン君』までだぞ。」


凜も一回深呼吸した。

「確かに、状況証拠しかないな。でも、あんたに『しか』できないんだよ。通常の人間にはできないこと、それがあんた以外のすべての可能性を否定するんだ。

 まず、レースにピーター・パーフェクトを連れてきたこと。あんたの相棒、『無窮エンドレス』がこの件の背後にあんたがいることを自慢げににおわせていたんだ。そして、ルイのマスティマだ。あれはあんたの天使のコピー

だろ。つまり、あれを持ち込んだ短剣党の幹部の正体もあんただろう。物証はそれだけだ。いや、それだけで十分だ。……あともう一つ。お前の名前だ。マッツォ・メンデルスゾーン。イニシャルを『M』でそろえていただろう。相変わらず芸の無いやつだと思ったよ。」


「どういうことだ、マッツォ?」

ハワードが突然変貌した親友の横顔に問う。こいつは若いころから俺の親友ではなかったか。


マッツォの屈託のない笑みは彼が昔から見知っているものと相違なかった。

「どうもこうも、トリスタンの言うとおりだよ。君の知るマッツォ君はもはや『人間』ではないのだよ。『天使』の身体を持つ、人間をはるかに超越した存在なのだ。先回の選挙大戦でわたしがなぜ柄にもなく執政官の椅子を欲したのか、きみにはわからなかったようだね。」


マッツォは再び凜に眼をやった。

「さあ、どうするかね?君たちは私を追い詰めた気になっているだろうが、ここにいるお歴々は私にとってはただの人質に過ぎないことを忘れていただいては困るねえ。ここはこの世界の中枢だ。ここが破壊されればさて、メテオ・ストライクまでに体制を立て直せますかな?」


 しかし、マッツォの周りの景色が一変する。そこは王立闘技場のフィールド内であった。凜も言い返す。

「そうだね?そういうだろうと思って前もって準備していたんだ。僕が意味もなくべらべらとおしゃべりしているだけとでも思ったのかい?モルドレッド。」


「なるほどねえ。だからここで決着をつけようと?でも良いのですか?お互いが本気を出したらこんな惑星ごとふっとびますがいいのですか?」

マッツォの口調はいつもの、ドM様のものに戻っていた。

マーリンもカドゥケウスをぬいた。そして言った

「だからこの闘技場を使ったんじゃないですか。この闘技場のパラベラム・ゲートは異界への門。さあ、その姿をお棄てなさい。」


 マッツォの姿が変わる。それはジム・ハリス、彼こそが「モルドレッド・モリアーティ」、アーサーとその眷属に対抗し続けた大敵対者である。

「なるほど、フィールド内が重力子界アストラルへ転送されるとはねえ。そのための闘技場でしたか。お見事でした。では、始めましょうか。」


「いやいや、僕一人とは言ってないよ。『ドM』さん。」

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