第246話:超絶すぎる、最終奥義。②

「最終絶技・零式ジーク64、『神風カミカゼ』」


 10本を超える矢が次々と放たれる。それは美しい軌跡を描きながらルイに襲いかかる。しかし、ルイはその拳で次々と矢を落とす。

「効かないですよ。この程度ではね。軽いんですよ攻撃が。このOMG粒子化したこの拳の前ではね。」

しかし凜は矢を放ち続ける。


(確かに粒子変換された高エネルギーの矢だけど⋯⋯。『神の粒子』(ヒッグス粒子)に変わっているんだね。だから『神風』か。もっとも、並みの天使ならあっという間に装甲がぼろぼろだろうな。

 でも、最強の「OMG粒子」に変わったこの拳の敵ではない。『神の粒子』を超えたからこその『OMG粒子』だからな。」

そう、ルイは凜の技「OMG拳」を再現したのだ。


「でも、全ての矢が彼を攻撃するわけではないのだな。」

戦局を見つめるメグが呟く。

「そうです。この絶え間ない攻撃はただの陽動に過ぎません。この攻撃の本質は足元にあります。」

マーリンが注意を促す。気づかぬうちにフィールドの真下に大きな紋章(魔法)陣が描かれていた。それは光の矢が描いたものだ。


「軽いんだよ。この程度の攻撃では。さあ、そろそろこちらの出番ターンといこうじゃないか。」

ルイが拳を握ったその時、異変が起こる。足元がぐらついたのだ。地震の振動に似たそれは徐々に強さを増していく。

「何かを召喚したのか?」

ここでシャルが気づく

「しまった。嵌められた。」

「どういうことだ。」

シャルは苦虫をかみつぶしたような顔で説明する。

「『神の粒子』のくせに軽すぎるのだ。粒子が軽いというのは『不安定』である、ということ。そして、この光の魔法陣が『トンネル』だとしたら。」


マーリンの声が昂る。

「見てください。これが物理世界最強の攻撃『魔法』ですよ。」


凜が宣告する。

「『真空崩壊ヴァキューム・ディストラクション』!」

その瞬間、紋章陣の底が破れ、光が溢れでる。そのエネルギーがとてつもなく強い。


シャルが叫ぶ。

クソヤロウガッデム、やりやがったな。」


「真空崩壊?」

メグの問いにマーリンが答える。

「ええ。これは空気がない、という真空ではなく、理論物理学における真空なんです。真空というのはエネルギーが安定した状態をさします。いわば床に置かれたボールのように動きがない状態のようなものです。しかし、もしその床が2階の床だとしたら?実はエネルギーは0ではなく、1階の床に対して位置エネルギーが存在することになります。

 それが『の真空』です。つまり、二階の床が抜けたらボールは下へ落ちます。エネルギーが発動するんです。わたしたちの身体もそんな電子という粒子で構成されています。もし、物質界の底がぬけたら、わたしたちの身体も空気もすべて爆弾のように爆発してしまうでしょう。それが『真空崩壊』です。」

マーリンの説明は続く。

「その引き金をひくのが『神の粒子』たる『ヒッグス粒子』です。本来持つべき充分な質量をもたないヒッグス粒子が安定を求めて相転移するために、トンネルを掘り始めます。それが 「トンネル効果」です。凜の紋章陣はそれだったんですよ。トンネルで強度を失った『偽の真空』は崩壊をおこし、ルイくんの身体すべてが爆弾化して爆発をおこしたのです。」


 爆発的な光はやがて収束し、消えた。紋章陣によって一瞬のうちに重力子界アストラルへと転送されたからである。そこには気を失って倒れているルイの姿があった。

「天使で保護されていなければ、いや、あのマスティマでもなければ間違いなく中の人は死んでいたでしょうね。逆に言えば、ルイ君は正体マスティマを現したのが早すぎたのですよ。凜が遠慮会釈なくこの技を使える相手は限定されますからね。」


「勝者、棗凜太朗=トリスタン。」

そして、本日2度目の対戦になる大将のジュニアは凜によってあっさりと倒される。


試合終了ノーサイド。勝者、聖槍騎士団。」

優勝は聖槍騎士団。ついに、惑星スフィアに存在する108の修道騎士団の頂点に立ったのである。


「勝った……、のか?」

凜は元の姿に戻る。ダグアウトから飛び出したきたチームメイトたち、スタッフたちともみくちゃになる。

「ついに、やりましたね。凜!」

マーリンと抱き合う。

「まあ……なんだ、本当はここからが問題なんだけどね。いやいや、でも、今はありがとう。」

 こんなに苦労するとは思わなかった。でもここまで苦労したからこそ、喜びもひとしおだった。


観衆の大歓声の中、ヘンリーは隣のアマンダと抱き合った。

「アマンダ、俺と結婚してください!」

「え?なに?ハリー、何か言った?」


 必死で考えていたタイミングでのプロポーズだったが、大歓声にかき消されて彼女の耳に届かなかった。


 凜たちは表彰台へと招かれる。そこにはラドラーやグレイスたち円卓のメンバーに迎えられる。

「よくやったな、トム。」


トムはラドラーに声を掛けられ思わず涙をぬぐった。

「はい。なにがなんだかわかりません。とにかく、やるべきことはやりました。」


グレイスもメグと抱擁する。

「師匠より先に優勝するやつがあるか。よくやった。メグ。」

「はい。団長先生マム。」

メグも涙がとまらない。


 選手の一人一人の首にメダルがかけられる。そしてマッツォから凜が優勝の大杯を受け取ると拍手と歓声があがる。


 表彰式で一番高いところに上った凜たちは大杯を掲げた。金色の紙吹雪が舞い、テープが投げ入れられ、祝福の花火が打ち上げられる。


これからはしばらく祝勝会やらなにやらで忙しくなるだろう。


しかし、その翌日に出された発表に惑星スフィアの住人たちは度肝をぬかれたに違いない。執政官のマッツォを後ろに立たせ、ハワードは重々しく宣言したのだ。


「円卓は今日本日をもって解散する。」

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