第245話:超絶すぎる、最終奥義。①

[星暦1544年11月24日。選挙大戦最終決戦ファイナルオブファイナル。王都キャメロット。]


 ホームアンドアウェイの2試合で双方が1勝ずつのため、プレーオフとして再び「トーナメント」が行われた。


 そして、副将として登場したのがルイであった。そして聖槍は副将のジェシカがルイに挑んで敗れ、大将の凜が登場した。

「ジェシカさん、粘ってくれてありがとう。」

ジェシカは凜の肩に手を置いて言った。

「思いっきり行って来なさい。あなたが、自分で勝利をもぎとるのよ。」

「はい。」

 凜はパラベラム・ゲートを見上げた。


 そして、皆誰もが理解していた。これが事実上の「最後の一戦」であることを。二人は開始線をはさんで対峙する。


「なぜだ?トリスタン、なぜなんだ?なぜ、リーナは貴様を選ぶ?」

ルイが凜に問いかける。

「俺と貴様に、いったいどんな差があるというのだ?」

ルイは、リーナに拒まれたことをいまだに受け入れられないのだ。


 凜は一度息を吐いた。

「そうですね。『見た目』ではないでしょう。少なくとも、あなたの方がカッコいい、と思ってる女性の方が多数派でしょうから。

ところで、あなたは リーナの叫びに耳を傾けたことはあるのですか?デオン・ド・ボーモン卿、いや、ルイ・リンカーン⋯⋯バネット君。」


ルイはサーベルをぬいた。

「無論だ。俺は、リーナのためにあの施設いえを出た。」

会話は試合が始まっても続く。サーベルと刀がぶつかり、激しい金属音を奏でる。

「そうです。そこですよ。あなたがリーナのことを大事に思っていることは知っています。それに容易に想像も付きます。身寄りの無い少年が、誰かを守るという誓いを果たすことがどれほど難しいことかはね。」


互いに切っ先をかわし、鋭い突きや斬撃を繰り出しあう。

「そうだ。俺は自分で自分を守る力が欲しかった。そして、手に入れたんだ。知っているか、トリスタン?孤児は全てを諦めて生きている。ママの柔らかな抱擁もパパの心強い眼差しも、暖かいベッドも、美味しいスープも。でもいつかどこかで自分を待っていてくれているに違いない、とも信じているんだ。その何が悪い?」

そう、かけられなかった愛情を取り戻すための戦い。「少年兵」の多くが抱える心の闇そのものなのだ。凜は叫ぶように言う。

「ええ。誰でも目指すところは正しいのです。でも、あなたは間違いなく道を踏み外しました。だからリーナはあなたを受け入れなかったのです。あなたは、いったい、どこでボタンが掛け違えられたのか。あなたは気づいていながら見ようとしていない。」


「俺は正しい。俺に反対するもののすべてが間違っているのだ。」

もう、ルイには話が通じそうもなかった。


「さあ来い、トリスタン。貴様を倒してすべてを取り返す。」

凜は最初から大技を繰り出した。

「絶技・零式ジーク53。『大和魂ファイティング・スピリッツ』」

ルイは防御に入る。そして、凜の必殺技をかわしたのだ。

「技・蜃気楼の試練。」


「凜の必殺技がかわされた?」


 そう、これまで数々の英雄たちを屠ってきた「零式ジーク」がついに止められたのだ。凜は苦笑いを浮かべた。

「とうとうバレましたか?」


ルイはサーベルを凜に向けると得意げに言う。

「そうだ。貴様の技は高速移動じゃない。相手を『拘束』する技だ。それも意識下に残らない程の一瞬だけだがな。」

 そう、それが零式ジークの本質であった。凜の能力は任意の空間を入れ替えることができる。パソコンでの「移動」について考えてみればわかる。いわば空間を「ドラッグアンドドロップ」していたのだ。つまり、相手を「引っ張るドラッグ」していたのだ。


 空間を切り取ってそのまま元の位置に戻す。その瞬間、それとともに時間も停止するのだ。それが、一瞬の隙、となり、どんな英雄も避けられなかったのである。これが、呂布ルーク慶次ケイジが感じた違和感の正体であった。つまり、「止まっていた」のは自分の方だったのである、


「技の本質がわかれば対策は可能だ。要は『掴まら』なければいいのだからな。」

勝った。ルイはそう確信した。必殺技を封じてやったのだ。


しかし、凜にあまり動じた様子はなかった。

(とうとうばれましたね。「必殺技」の意外な正体ショボさに。)

ゼルがからかう。もっとも、凜自身、この技でここまで「引っ張れる」とは思わなかった節もあった。

(まあ、単純なからくりの方がかえってばれにくいこともあるさ。)


「そろそろ、本気を出してもらおうか?負けてから『あれは本気じゃなかった』など言わないでほしいからね。」

ルイが挑発する。ルイの背中に4枚の翼が顕現する。服装も白い「長衣ローブ」、いわゆる宗教画の天使の格好になる。「試練の智天使ケルブ」マスティマである。


「翅が4枚……、あれが智天使ケルブ?」

観衆がざわめく。

ルイが拳を掲げるとそれは光を放った。

OMGオメガ拳ですか。それが使えるということは……。)


「ではこちらも遠慮なく。」

凜の背中に6枚の翅が顕れた。服装は「真紅」の長衣ローブになる。衣の色は、白でもいいのだが、双方同じ白だと観客に分かりづらいための配慮である。


「どうやらやっと本気を出したようだな。」

ルイが不敵な笑みを浮かべた。

「おい、結界を張れ。もう1枚だ。」

臨席する国王が命じる。フィールドに張られた結界がさらに二重のものになる。


凜は魔弓「空前絶後フェイルノート」を抜いた。その右手に光の矢が顕れる。

凜はこれから繰り出す技の名を告げた。


「最終絶技・零式ジーク64、『神風カミカゼ』。」

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