第244話:サーカスすぎる、回避行動。❷

副将のジェシカが護法騎士団の副将と引き分け、最後の大将同士となる。

大将はハワード・アレックス・テイラーJr.であった。


「さあ、これで終わりにしようじゃないか。」

ジュニアが勝てば、護法騎士団の優勝。凜が勝てば優勝決定戦となる。

ジュニアとしてはここで自らの手で勝利を決めたいところだろう。


「さあ、つぎの執政官コンスルにふさわしいのはどちらか、決めようじゃないか?」

相変わらず上から目線の物言いに、凜はかえってホッとしてしまった。

(そう、これだよこれ。)


 とはいえ、ジュニアもずっと凜を意識してきたのだ。油断したとはいえ、かつて自分を「敗北寸前」まで追い詰めた男である。

(そう、動きだ。やつの動きを止めればいいのだ。)


蒸着フルアーマード。」

ジュニアの天使が起動し、完全装備化する。背中には翼が生え、多数のギミックがついていそうな槍を手にした。


「いやいや、普通にカッコいいじゃないですか。むしろわたしは好きです。」

ゼルが素で褒めたので凜はずっこけそうになった。

「確かに、一周回って昭和の臭いがきつそうだな。」


「はい。だから私にはドストライクですが。⋯⋯それは置いておいて。アヌビスのコピー技術がわりと進歩している、ということではないでしょうか。無理にアヌビスの力を引っ張りだす代わりに、武器の収納に特化させれば安全ですし。」


呑気に構えているうちにジュニアの「怒涛の」攻撃が始まる。機銃が唸り、ミサイルが次々と着弾し、強力なビーム兵器が浴びせられる。ジュニアの出した結論は「飽和攻撃」であったのだろう。あっという間に凜のいた辺りは爆音と閃光で満ち溢れ、爆煙が立ち込める。

 瞬間移動の移動先を与えねばよい、というある意味清々しいほどの攻撃であった。また、空戦と違い、フォームチェンジで華麗に躱す、という訳にはいかない。


煙が排出され、視界が回復すると、凜が何もなかったかのように立っていた。

「すごい攻撃でしたね。一歩も動けませんでした。」


(くそ、判定もつかないか?)

ジュニアが歯噛みする。通常の重力バリアの場合、実際のダメージは受けないものの、「見なしダメージ」がついてポイントとして加算されるはずだが、それがされなかったのだ。

「普通のバリアではない、ということだ。こっちは最強の天使のコピーだというのに。」


 これも凜の「空間断層バリア」であり、ルイとのガイアでの戦闘で使っただけのものだ。凜の指揮下で現在建造中の紋章式惑星砲の基礎原理でもある。ジュニアの放ったミサイルも銃弾もすべて「重力子世界アストラル」へと飛ばされているのである。

「凜、この映像を国民への説明に使う気満々ですね。」


ただ、普通の相手ならここで「はあはあ」と息切れするとろだろうが、ジュニアはそうではない。

「いやいや。これくらいはまだまだ序曲に過ぎんよ。」


スキル無限発射サウザンドランチャー

マーリンもカドゥケウスから伸びる蛇を盾に一歩も動かないことが多いのだが、ジュニアの場合はミサイルや銃弾がそれに当たるのだ。


「凜、おそらく相手の弾切れを待っても無駄でしょう。」

ゼルの言う通りである。しかも、ミサイルはしつこく凜に追いすがる。


「さあ、どうだ?」

ジュニアが高らかに言い放つ。彼にとってあの5年前の御前試合でかかされた恥は決して安いものではなかったのだ。

(あの日、俺をおちょくり、笑い者にしたヤツを絶対に許せない。)

「さあ、圧倒的な我が正義の鉄槌を受けるがいい。」


「流石にこれはきついですね。」

「ゼル、華麗に避けてくれ、『板野サーカス』並みの回避行動を頼む。」

「ええっ?」

ゼルは凜の無茶振りに一瞬顔を強張らせる。ちなみに「板野サーカス」とはサーカス団の名前ではない。とある超時空要塞の作画の話である。


 ただ、「演出」しようにも敵は当てに来ている。かなりの被弾があり、ゲージがごっそり減らされる。

「ゼル、あまり上手じゃないな。」

凜の非難にゼルは珍しく感情をあらわにした。

「アニメと一緒にしないで欲しいです。あんな風によけられるのはアニメだけです。」


「さあ、トドメといこうじゃないか。技・英雄の凱歌。」

ジュニアのスキルは実は一種類だけで、名前を細かく変えているだけである。


「じゃあこっちも行くとするか。技・『チョットマッテ』。」

ちなみにこの『チョットマッテ』は木村〇哉のセリフではなく、アメリカの爆撃機につけられた名前である。(実在しました。)


しかし、ジュニアの武器は発動しなかった。

「何?」

勝利の確信に満ちていたはずのジュニアの表情が歪む。

「絶技・零式ジーク!」

逆に凜の絶技でライフをゼロにされたのはジュニアのほうであった。

「なぜだ?」

凜の必殺技に膝を屈したジュニアが抗議の声を上げる。しかし、買収の利かないAIレフリーには通じない。


「勝者、棗凜太朗=トリスタン。試合終了。セットカウント2ー3。聖槍騎士団。」

これで、1勝1敗。プレーオフのトーナメントにもつれ込むことが決定したのである。メグが引き揚げてきた凜に尋ねる。

「凜、最後のジュニアの技はなぜ発動しなかったのだ?」

凜は笑顔を見せた。

「ああ。あれね。僕は空間を司る熾天使セラフだからだよ。ジュニアの技は収納空間に大量の兵器を詰め込んでいたわけだ。だからスキルでその出口を塞いだだけだよ。まあ、言葉は汚いけれど、『ふんづまり』を起こした、ということさ。」


 決着は再度、トーナメントにゆだねられる。ここで、ルイと最終決着をつけねばならないだろう。凜はすぐに気持ちを切り替えた。

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