第243話:サーカスすぎる、回避行動。❶
[星暦1544年11月24日。
第3セットの
そして第4セットの
「リーナ、パパとママが来てるけど、緊張してる?」
凜の問いにリーナは首を振る。リーナとしては、回復した記憶が頭の中で新たな神経接合をもたらしているため、それにティンクが対応するのに精一杯のようであった。
「大丈夫。怖くなんかないよ。お兄ちゃんはいつも約束を守ってくれる。だから、私はなんにも心配してないの。だから一緒に戦おう。お兄ちゃんがついていてくれれば、私はきっと無敵になれるから。」
「問題ない。
リックが説明する。
有力な騎士を多数抱える護法騎士団はいわゆるプラトーン方式を採用している。ルイを中心にすえたアウエーチームとハワード・ジュニアを中心にしたホームチームを交互に使っているのだ。
ただ、この2チームは固定化されているため、結束が固い、のはいいことなのだが互いに対してライバル心があったり、相手を下に見たりすることもある。
無論、その互いに対する対抗心も強化のもとになってきた。
「竜騎士リンドブルム大公ジュリアン、
魔法陣から白い甲冑のロボット騎士がせりあがる様は圧巻ですらある。
「護法女神アストレア、
一方、護法騎士団側のロボットは騎士団を象徴する女神の名を持つロボットで、曲線を多用した優美なモデリングである。
「いやなのが出てきたな。」
リックがつぶやく。カンファレンスでも説明したのだが、ある意味「最強」の敵なのである。
試合が始まると「アストレア」はすごいスピードでリンドブルムの死角へと回りこもうとする。
「歩いていない。」
アストレアの放つエネルギー弾を剣で弾きながらリーナが言った。その声は明らかに不満そうであった。それもそのはずで、女神は床まで届く長いスカートを履いておりその下は脚ではなく重力ホバー装置なのである。
「『脚なんて飾りです』を地で行ってるなあ。⋯⋯まあ、実際そうなんですけどね。しかも『偉い人』がそれを解っているのですよ。」
不思議そうな顔をするアンにマーリンは説明してやることにした。
「人間が動物よりも強いのは『身体』ではなく、武器という『道具』を使える
「でもあれじゃ『アストレア』じゃなくて『メデューサ』じゃん。」
アンも呆れて言ったが、マーリンは感心したようにいう。
「そう、それです。彼らの狙いは『弾幕』を張ってリンドブルムとの距離を一定に保ちたいんですよ。ロボットの剣術勝負ではリーナには敵いませんからね。」
「むー。」
リーナも頬を膨らませる。なかなか剣撃の距離に踏み込めないからだ。それだけ、重力ホバーの機動力と、それを巧みに操る
勝負は膠着し、大技勝負にもつれこむ。
アストレアの持つ砲門が開かれ、エネルギーが砲身に充填される。これがアストレアの持つ必殺技フィニッシュ・ブロー、「
一方、リーナは盾を背負い、両手で剣を構えると切っ先を地面すれすれに下げる変則的な下段―地摺り下段―に構える。そこからゆっくりと刀身が円を描き始める。
「円月⋯⋯殺法?」
無論、なにが起こっているかわかっている人は見ている人の中でもごくわずかだ。
「なに、あれ?」
アンが息を呑むようにいう。マーリンは人差し指を唇に当て、静かに見ているよう促した。
「円月殺法」は一種のカウンター剣法である。刀身が円を描いている間に、痺れを切らした相手が切りかかるのを待っているのだ。
(な⋯⋯なんなんだ?)
一方、初めて見るアストレアの
「何をしている?さっさと撃て。」
指示が改めて来てようやく我にかえる。そう、下だ。円を一回描ききり、刀身が下がりきったところを狙えばいい。
しかし、先に動いたのはリーナであった。一周した切っ先が下がりきる前に刀身を閃かせるとアストレアに渾身の斬撃を浴びせる。
アストレアの操者は驚いてトリガーを引いたが、予期せぬリーナの挙動に狙いを逸らしてしまう。それが致命的な失敗であった。
これで、2セットずつのタイとなり最終戦のトーナメントに持ち込まれる。
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