第242話:熱戦すぎる、決勝戦(アウェー)。②

スキル『松の廊下』。」

空間が直線に限定される。そこに、ロゼは「ゆらり」という姿勢で立っている。完全に脱力しているのだ。

「拳風斬。」

パーセルの拳から放たれる重力の刃をゆらりゆらりと交わす。ふざけているようにしか見えないが、体幹の軸は一切ぶれていないのだ。

 おのれ、パーセルは完全に自分を見失っていた。格下と見下した相手からポイントを得られていないことが焦りにつながる。自分に課していた圧勝、というノルマがかえって彼の動きの枷になっていた。


 これはいかんな。見ていたルイも感じる。

「絶技、トルネードギガントボム!」

そう、よけきれないほどの巨大なパンチをお見舞いすればいいのだ。パーセルの拳には竜巻がまとわれ、一直線に突進する。


 ロゼはジャンプする。それも竜巻に吸いこまれるようにまっしぐらにパーセルに向かって。もらった、パーセルはそう思っただろう。しかし、ロゼは竜巻にはまきこまれずその表面をらせんを一つ描いてかわすと、パーセルの右上からフック気味のパンチを彼めがけて振り下ろした。それがきれいにカウンターとしてパーセルのほほからあごにかけて撃ち抜かれる。コークスクリュー気味に入りインパクトの瞬間、強く握られた拳を振り抜いたのだ。


 ふわりと着地するロゼと対照的にパーセルはそのまま直線コースの端に激突し、そこで動かなくなった。

猫パンチミッキー・ロークだ。ありえないほど綺麗なカウンターだな。」

凜も思わぬ結末に絶句する。

「中堅戦、勝者、ロゼマリア・ジェノスタイン地位。」

観客は思わぬ番狂わせに大興奮する。

 ロゼは貴賓室のジョーダンに手を振る。父は娘以上にガッツポーズを繰り返していた。 

 しかし、3ー2で地上戦は落としてしまう。


 続く空戦。聖槍は2ー1でリードしている。

空戦の副将戦はトムであった。

「トム、どうしますか?大将戦の凜に花を持たせますか?」

リコが軽口をたたく。

「いや、今日は決勝だぞ。それに⋯⋯。」

トムはリコの頭を撫でる。

「優勝したら、兄貴のインタビューを受けなきゃいけないんだ。あまり、カッコ悪いのはゴメンだ。」

「ですね。先程負けたばかりですしね。」


 地上戦の大将で出たトムはサイモン・ドゥルガー・ペンテコステ上天位に僅差で敗れたばかりなのだ。

「大体、5年前に凜はすでにヤツに勝っていたんだぞ。これ以上、俺だって負けてたまるか。」


 対するのはオスカー・スターウッド・ジークバーン天位である。

普段は大型飛行戦闘機である能天使エクスアイを操っている空戦部隊を率いている。


トムは救世偃月鎌デリバラーを構える。

「ジークバーンって呂布ルークさんより強いかな?」

「さあ、位階は彼の方が上ですが、私はルークさんの方が強いと思います。」


ジークバーンの武器は銃とミサイルである。スキルではなく武器として持っているのである。


 空戦は地上戦よりも対戦者同士の接触が少ない。大型の武器で戦うのはその少ないチャンスを生かすためだ。空戦用のスキルも空間を限定する舞台技シーンズ、相手を捕まえる枷技チェインズで相手を捉えてからのフィニッシュブローなのである。


 あるいは空戦技術を駆使して相手の背後を取り、一撃を加える。これがいわゆる「ドッグファイト」と言われる戦闘機時代からの戦闘技術なのである。


 試合が始まる。トムとしては負けたところで後ろに控えている凜に託せばいいので気楽だった。

 ジークバーンの背には「ミサイル」が積まれており、シュールに思える。


 最初はいわゆるドッグファイトが展開する。相手の力量を理解して、次の手を打つためである。トムはどうしても背中を取られる。

(さすが、上手いな。⋯⋯年の功、ってやつか。)

しかし、呂布ルークのような圧迫感プレッシャーは感じなかった。

ジークバーンもトムの死角を突こうとするがほぼ想定内であった。いつも修錬でゼルもリックもここぞとばかりデスサイズの死角をつき続けるのだ。


デスサイズほど小回りの効かない武器もなく、鋭く振られた時の破壊力も甚大な兵器もまた少ない。いわばフィニッシュブローとしての武器である。

それはジークバーンのミサイルもまたしかりである。武器の形は違えど戦闘のスタイル、つまり相手の動きを封じ、強力なフィニッシュブローで仕留める、という形は一緒なのだ。


ジークバーンの銃はマシンガンであり、無限リロードのスキルがかかっている。

攻撃だけでなく弾幕を張って防御も可能だ。


「出でよ、ホルスの子ら。イムセティ、ケベフセヌエフ、 ドゥアムテフ、ハピ!」

トムの周りに4体のガーゴイルが現れる。

「散開。」

4体のガーゴイルは別々の軌道を描いてジークバーンに襲いかかる。

(くそ、別々の動きか。これが、団長のおっしゃった『次世代型』の騎士か。)

ジークバーンは両手に持ったマシンガンで弾幕を張って防ごうとするが、それをかいくぐって彼のミサイルに取り付く。


ガーゴイルは高熱を発する。

(自爆する気か。)

ジークバーンはやむなくミサイルを1本パージすると。それはガーゴイルとともに爆発した。ジークバーンはトムがガーゴイルでミサイルを潰しにかかってきたことを理解した。

「仕方ない。くれてやるわ。」

ジークバーンはトムに照準を向けミサイルを放つ。ミサイルもガーゴイルと同じように別々の軌道を描いてトムに襲いかかる。

自分の「意思」で操る技スキルとは違い、「兵器」であるミサイルはプログラムに従って攻撃できるのである。


トムはガーゴイル全てでミサイルを受けきる。ただ、ジークバーンも手持ちの技を組み替え、攻撃を立て直す。


磁気の嵐セフィーロ。」

トムは枷技チェインズで拘束に成功する。

トドメだフィニッシュ!」

トムが救世偃月鎌デリバラーを振りかぶった瞬間、ジークバーンの腹から槍が突き出しトムの身体を貫く。


「まだ甘いな、小僧。」

ジークバーンは狙っていたのだ。拘束を完了し、フィニッシュブローのために大きく振りかぶったその一瞬を狙いすましていたのだ。


しかし、「有効な攻撃」とはみなされなかったのだ。

(なに?)

そして、そのままトムのフィニッシュブローが有効とされ、ジークバーンの敗北が決する。


「おい、どういうことだ?」

観戦していたハワードが尋ねる。

「なぜ、今のが無効なんだ?」


これは「天使」という特殊な兵器を使っているからこその現象であった。これは競技であるため、実際に攻撃が当たっているわけではなく、そのビジュアルなのだ。


リックは最後の技を相手を拘束するだけでなく、厚い防御としても活用していたのである。それで攻撃は当たったかに見えるがダメージ0の判定がされたのである。


「これが『肉を切らせて骨を断つ』です。」

リコがVサインをした。

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