第241話:熱戦すぎる、決勝戦(アウェー)。①

 そして、プロローグにつながったのです。では、プロローグの続きをお楽しみください。


[星暦1544年11月24日。選挙大戦最終決戦ファイナルオブファイナル。王都キャメロット。]


天空の魔女ソルシエール・ドゥ・シエルか⋯⋯。」

ジョン・ハイアット・ニールセンは呟く。確かに、あの空戦戦技には自分でも敵わない。しかし、地に足をつけた「地上戦デュエル」なら、まだ付け入る隙はあるだろう。


 しかし、その読みが甘いことに気づく。いや、彼女の師、グレイス・トワイライト・レイノルズがその二つ名を譲った理由を思い知ったのだ。

(隙がない。)

 ニールセン自身は攻めあぐねていた。強化系「スキル」だけでも仕留められると思ってはいたが、どうやら限界のようである。

 彼としてはアウトレンジからの速攻でダメージを重ねていきたいと思っていたものの、メグは大剣をふるってなおも近接戦闘インファイトを挑んでくるのだ。


(近接戦闘インファイトならもう少し小回りが効く武器エモノを使えばいいのに……。)

 しかし、それは彼の愚痴に過ぎない。メグは大剣の幅広い刀身を使って防御し、大きく薙いで距離をとってさらに攻撃する。この薙ぎが強力で、人位レベルの騎士なら剣を弾き挙げられて「バンザイ」状態にされてしまうだろう。


 ニールセンはそうならないよう細心の注意を払いながら攻防戦を続けた。

メグは典型的なパワープレーヤーであり、相手の動きを追い込んでから必殺技を発動するタイプである。


「技・トライデント。」

ニールセンの背後に青と白のツートンカラーに染められた戦闘ドローンが複数現れる。ニールセンはマーリンの戦法をよく研究しており、今回の技システム導入とともに取り入れたものだ。それは見事な連携でレーザー攻撃を展開する。レーザーそのものに殺傷力はないが、当たればダメージの判定を受けるだろう。


「最新型だな。複数同時攻撃とはな。」

メグはこの攻撃で少なからずも被弾する。

(いや、待てよ。凜やトムのように頭の中に有人格アプリでもいない限り、複数攻撃、しかもあれだけの数をこなすのは不可能だ。)

メグは考え続ける。


(よし、追い詰めた。)

ニールセンは勝利への手応えを掴んだ、そう思ったその時、メグが一機のトライデントを落とす。するとトライデントたちの動きがぴたりと止まった。

「何?」

ニールセンが驚く。メグはすました顔で攻撃を続ける。


(驚くことはない。何しろ、自分が動きながら操作できるのは一機。つまり、他の機体はあらかじめプログラムされたフォーメーションに従っているにすぎない。要は彼が操る「隊長機」を見極めればいいわけだ。では、こちらのターンだ。)


禁断の庭アンジャルダン・ランテルディ。」

地面から伸び盛る植物がニールセンを絡め始める。

(まずい。)

ニールセンは跳躍して逃れようとするが、伸びてきたツルに足を取られ、体勢を崩す。

「エクセルシオール!」

メグの技が決まり、勝利が確定する。


 中堅のロゼも対戦相手はハンス・リバティ・パーセル、天位騎士である。そして、同じ拳闘使いであった。

「負けてもともとや。悔いのない一撃。それだけや。」

きっとお母ちゃんも見てはる、ロゼはそう思っていた。そう、自分の拳は家族をつなぐための絆やったんや。もう、どんな壁も怖いことあれへん。全部ぶちしばいたる。そう念じて目を開ける。


 護法騎士団の騎士のいちばん怖いのは見た目だけや。犯罪者と渡り合う立場にある以上、見た目でなめられたらアカンからや。よってからに、どっちかって言うと見た目怖い方が実はやりやすいねん。目え見てみい、実は犬みたいに優しそやねん。


 「参る。」

パーセルの繰り出す拳が見える。ロゼは自分の精神状態がさざ波もたたないほどに落ち着いていることに気づく。

「感じろ、考えるな。」

ネコ科のDNAが組み込まれているからこそ、本能に従えば従うほどに動きにキレを増す。


「ええ動きやな。若いころのショーンを思い出すわ。」

腕を組んだまま父親のジョーダンがつぶやく。長女のマチルダは勉強もダンスもできる自慢の娘だった。しかし、ロゼだって、今や銀河系でも人気のコンテンツ、選挙大戦で人気選手なのだ。

「これはこれでええのかもしれへん。せや、需要ってのは落ちてるもんやあらへん。掘り起こすもんや。」

ジョーダンの眼がきらりと光る。これは彼の眼が猫のような構造になっているだけではないようだ。


 遊ばれている。パーセルはそう感じていた。圧倒的なパワーで相手を委縮させる、それが彼の持ち味だったがそれが効かないのだ。世間知らずの小娘め。

スキル勝負に持ち込んで目にものみせてやる。

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