第240話:結束しすぎる、仲間。②

[星暦1554年11月23日午前、王都キャメロット]


「みんな、聞いてほしい。」

最後のカンファレンスで凜が立ち上がる。


「よくここまでみんな頑張ってくれました。とても感謝しています。


 メグ、あなたは王族であることと自分の運命を切り拓くことをずっと考えていたね。きっとまだ答えが出てはいないと思う。それでもあなたは一歩ずつ進んできた。生まれながら大きな責任を負う義務からあなたは目を逸らさず、鍛錬に鍛錬を重ねてきた。今日はその集大成の一つだ。でも、これはゴールではなく、あくまでも通過点に過ぎない。だから、気負いなく、今まで積み重ねてきたものに誇りを持って戦って欲しい。」


メグは凜と握手する。

「ああ、いつか凜が歌ってくれたよね。いつか振り返れば、己が進んだ距離に気がつくと。そう、時には振り返ってもいいのだ、凜はそう気がつかせてくれた。そしてまた、愚直に進んで行けばいい。私の道を誇りを持って進む。明日はその心意気をお見せしよう。」


 凜は続ける。

「トム、キミは望まない仕方で大きな力と、それに伴って大きな責任を負わされた。キミの手に余る力はキミを追い詰め、悩ませてきた。キミの責任をキミが背負うために必要な自尊心を周りは与えてはくれなかった。それでも、キミは歯を食いしばって進んできた。

今のキミの翼は大きく、力づよくなっている。だから皆に、キミが守るべきアマレクの国の民に示して欲しい。我が翼の元へ集えと。」


トムも凜とがっちりと握手する。

「ああ。そうだな。俺は弱い人間だ。ずるいし、すぐ逃げ腰になる。でも、俺はここで学んだよ。俺は嫌われているわけじゃない。ただ、恐れられているだけなんだと。だから、俺はみんなを避けるんじゃない。自分から手を差し伸べなければいけないんだ。

だから、俺は示す。俺の4枚の翼、それは『闇を切り裂く光の翼』。それは『傷つきし者を包み込む癒しの翼』。そして弱き者を救う『守りの翼』。そして迷いし者を未来へと導く『力の翼』だ。今の俺はこう呼ぶだろう。『俺たちは仲間だ』と。」


凜はロゼの肩に手を置いた。

「ロゼ、キミは幸福そうに見える、という大きな不幸を抱えていたね。それはだれにも理解されないし、とても軽く見られていた。それはキミと家族の絆を揺るがすものだった。


 でも、キミは敢然と立ち向かった。自分が自分であるために。お父上と相向かった。それは、他の人から見れば小さいことかもしれない。ささいな出来事に見えるかもしれない。

でも、そうじゃないんだ。ロゼ。キミは渾身の一撃で目の前の大きな大きな壁をぶち破ってきた。人知れず磨いてきた拳が、そこにあったからだ。さあ、もう一撃だ。」


ロゼは肩に置かれた手に手を重ねた。

「せやな。ウチはみんなみたいになにか背負ってるわけやなし。ただのワガママやもんなぁ。でもな、それでもええねん。ウチも分かっとるんや。ずっと、みんなでここにはおられんこともな。だから、明日、ウチは刻んだるねん。ウチが此処にいたことを。ウチが大好きな仲間とここにおったことをな。」


そして、リックに手を差し伸べる。

「リック、キミには大きな夢がある。でも、それは誰もが一緒だ。リックがすごいのは、一人ではそこにたどり着けないことを知っていた。そこが、普通の少年とは違うところだ。キミは野望のためなら人をあてにすることも利用することも裏切ることもいとわない。


 でも、キミは変わった。曲げられないもの、自分の欲よりも大切なものがあることが認められるようになった。それは大きな進歩だと思う。そして、実はそれこそが、キミの夢への扉を開く鍵でもあったことを。

大人になることはつまらない人間になることじゃない。道は一本ではないことを知ることだ。何遍でも周り道をすればいい。目的地さえ見失わなければきっと、そこにたどり着く。少なくても一番近くまで行ける。だから、明日は『諦めない』、という姿を見せて欲しい。」


リックもがっちりと凜の手を握った。

「そうだな。どっちかというお俺は『転んでもただでは起きない』がモットーだけどな。まあ、斬り込み隊長として十分に引っ掻き回してやんよ。」

ゼルが涙ぐむふりをする。

「うむ。キミは転んでばかりなのです。キミの人生が漫画化されるとすればきっと連載は『コ□コ□コミック』でしょう。ギャグ寄りですから。」


凜がたしなめる。

「ゼル⋯⋯伏せ字が不適切だ。」

「そっちかよ。」


凜はリーナの前に立つ。

「リーナ、キミほど激動的な人生を送ってきたティーンはなかなかいないかもね。

 今、僕たちが相対しているルイは、キミの記憶にいるルイとはもはや別人だろう。彼の天使の名は『マスティマ』。マーリンの『メタトロン』やトムの『アヌビス』と同じ智天使ケルブだ。彼がどこで投入されるかで戦局は変わってくるだろう。


きっとキミにとって辛い戦いになるかもしれない。でも、信じて欲しいんだ。僕たちが深い絆で結ばれた仲間なんだ。きみは決して一人じゃない。」


リーナもほほを赤らめながら答える。

「うん、わかってるよ。お兄ちゃんは、あのリン様よりももっと強いことも、今、直面している危機がとてもまずいことも。だから、ルイにもわかって欲しいの。」

ゼルが首を振る。

「残念ですが、その可能性は限りなく低いです。」


カンファレンスルームに一人たたずむ凜にマーリンが近づく。

「仮眠はいらないのですか?」

「ああ、緊張して眠れないからね。ありがとう、マーリン。付き合ってくれて。君のおかげでなんとかここまで来られたよ。」

「はい、私も楽しかったです。ニート稼業もいいですが、たまには外に出るのもね。ただ、帰ったら1000年はロムりますからね。」


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