第239話:結束しすぎる、仲間。①

 ただ安穏ともしていられない。最終セットまでもつれ混んでしまった。第2戦の結果がいずれにしても、最後のトーナメントは行われるだろう。そこで最後の決戦となるのだ。おそらく、自分は副将としてその場に立つことになる。

「マスティマ⋯⋯か。」

ルイは呟く。自分の中に秘められた力。そのほとんどはルイにも明らかにされていないのだ。


[星暦1554年11月20日、王都キャメロット]


「リーナ、その、記憶が戻った、ということだけど。」

ケビンとジーンがリーナに面会を申しこんで来たのだ。二人がこの惑星にいられる期限が次週の決勝まで、と決まったからである。そして、ガイアを代表し、リーナの父親でありアポロニア連邦の副大統領でもあるロンが招かれていた。彼が乗って来た政府専用機で二人もまた帰国することが決まったのである。


ルイのこの惑星における行動は全て合法的であったため、「別件」での逮捕は難しく、テロリストである「ザ・タワー」と同一人物である、という証拠を得なければならなかった。


しかし、ルイはこの惑星の「警察組織」である護法アストレア騎士団の庇護下にあり、捜査の協力すら受けられず、「ナベリウス」の協力がなければ全く仕事にならなかったのである。


「すまんな。俺たち、結局なんの助けにもなってやれなくてな。」

頭をかくケビンにリーナは

「そんなことないです。おかげで、私が直接狙われることもなかったですし、ホームシックにならなくてすみましたしね。」


でも、きっとリーナはホームシックにはならなかっただろう。ジーンはそう思った。逆に、ジーンもこの惑星に来てよかった、とも思っていた。

国ではスフィアは「絶対王政」で人々は抑圧され、搾取されている、と習っていたが、実際にはきわめて治安の行き届いた国で人々は大抵幸せそうだったのだ。


「私の記憶が正しければ、というか、証拠写真はないんですけど、ルイの背中の真ん中に大きな傷跡があります。でもきっと彼は結構修羅場をくぐっているから、どう残っているかわからないですけど。」


「なるほど、それは重要な証言、だな。」


[星暦1554年11月22日、王都キャメロット]


最終戦前夜。国王によって来賓を招いた晩餐会が催された。

とりわけ、正統十二騎士団アポストルの幹部クラス、武器ギルドの役員クラスが出席するのだ。惑星内外の政治家や商人たちが招かれ、商談や人脈づくりが行われる。


 リーナはそこで養父母のロンとリズと再会した。

「少し見ないうちに、すっかり綺麗になったね、リーナ。父さんはとても誇らしいよ。」

ロンはリーナを抱きしめた。

「ありがとうパパ。最近は選挙が忙しくごめんね。」

ついでリズともハグを交わす。

「でも、いつもテレビで観ているからあまり会っていない気がしないわ。パパったら、あなたの試合、全部録画して暇さえあれば何度も観ているのよ。」

「ありがとう。」


リズは抱擁を解くともう一度、リーナの両手を握る。

「リーナ、あなた、記憶が戻ったのね。」

再会したばかりのリズに言い当てられ、リーナは驚く。

「ええ。先週、突然、戻ったの。でもどうして分かったの?私、まだ何も言っていなかったのに。」

リズはもう一度リーナを抱きしめる。

「わかるわよ。だって私はあなたの母親ですもの。すぐに分かったわ。あなたがあなたが初めて家に来てくれた頃と同じだったから。」


リーナは思わず涙ぐむ。

「ありがとう、ママ。私もあなたの娘で本当に良かったわ。離れていても絆は変わらないのね。」

「そうよ。それだけは忘れないで。私たちがあなたのいちばんの味方なんだから。」


ただ、いつまでもお互い親子の再会の感動に浸ってはいられなかった。次から次にリーナを訪ねてガイアの人々が群がる。ロボフトのプロリーグやモデル・芸能事務所のスカウト、自伝出版を勧める者、スポーツウエアの代理人など枚挙にいとまがなかった。

(医療関係者はいなかったですね。)

今勉強していることに誰も関心を払われなかったことに少し落ち込んでいるリーナにティンクが声をかけた。

(私も同じです。芸能事務所から声がかかりませんでした。)

そこに神妙な顔でゼルが現れたのでリーナは必死に笑いを堪えるはめになる。


「やあ、リーナ。」

ルイが声をかける。リーナは一瞬ビクッとなったが、しっかり目を見つめた。

「ルイ、あんたはなんでフランクおじ様の姓を名乗っていたの?まさか、あなたがあの飛空艇事故に関わったんじゃないわよね。」


ルイは、リーナのこれまでとは違った目線に思わずたじろぐ。それは、彼の最も後ろ暗い任務の一つだったのだ。

「あんたが何をしたいのかは知らないし、問わない。でも、私はあなたと一緒には行けないし、行くつもりもない。それだけは覚えていてリメンバーイット

「リーナ?」

リーナはそれだけ言い残すとルイの側を立ち去る。

「よかった。もとのきみに戻ってくれたんだね。そう。一緒に帰ろう。あの思い出の丘に。僕たちがあるべきところへ。」

ルイの目はどこを見つめているのだろうか?ルイは控え室へと引き返す。

「時は⋯⋯満ちた。」

シャルが呟いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る