第223話:ニンジャすぎる、準決勝(ホーム)。②

次鋒のロゼも勝って早々に第1ゲームのリーチを決めた。

中堅はリーナである。


凜は緊張した面持ちのリーナに声をかける。

「リーナ、貯金はあるから気楽にいこう。そして、この地上戦デュエル傀儡マリオネットを得意とする「甲賀」が主体のようだ。相手は歴戦の勇者とはいえ、傀儡マリオネットの使い方に限ればリーナだって負けてはいない。だから自信を持って。」


リーナは顔を上げる。

「うん。そのかわり、いつものおまじない。」

リーナのリクエストに凜はリーナを後ろからハグする。こうしてもらうのが彼女のルーティーンなのだ。ただ、背の高さは二人とも変わらない。


「ティンク、いくよ。」

「凜分」をチャージするとリーナはダグアウトを出る。ティンクにもリーナの心の昂揚が伝わって来た。

「はい。私とて、プログラムではありません。有人格アプリは『情報生命体』なのです。ちゃんと、成長するんですから。」


 開始の礼を交わすと、ティンクが操るリーナとリーナが操るクリスは背中合わせに立つ。かつてリーナがクリスの背の後ろに隠れるように戦っていた頃とは見違えるようである。


 対戦相手は「山中三太夫」である。


その手に手裏剣が現れると次々に投擲する。重力を操れるこの時代の戦闘スタイルと、忍術はかなり相性がいいのである。

 リーナが操るクリスは軌道を見切って刀で手裏剣を弾き飛ばし、ティンクが操るリーナは軽快に宙に舞うとそれを華麗に避ける。

 ティンクは元操船アプリであるため、空間把握能力が極めて高いのだ。


「こっちも行くよ、スキル『新世界』。」

リーナとティンクの技は息のあった多重攻撃である。繰り出される攻撃はまるで猛獣の群れが獲物をめがけ次々に襲いかかるかのようである。もとは凜が転移ジャンプを繰り返しながら行う攻撃を参考に二人で分担して行っているのである。


二対一の攻撃に堪らず「山中」もスキルを発動させる。


「土遁、強隷武ゴーレム。」

足元の石畳が次々と剥がれ、それが合わさって巨大な人間の形を取る。いわゆるゴーレムである。

「ねえ、これって後で元に戻すのタイヘンじゃない?」

リーナは思わずつぶやいてしまった。ただ、この石畳はきちんとプログラム管理されているので問題はない。



「山中三太夫」はゴーレムを盾に二人の攻撃をしのぎ、反撃を試みる。しかし、訓練されているとはいえ、自分と同時にゴーレムを動かすのは限度がある。徐々にリーナたちに押されていく。


 しかし、「山中」の真の狙いは「クリス(リーナ)」の足止めであった。ゴーレムががっちりとクリスを捉える。

「しまった。これが狙いだったのね。ティンク!」


「絶技、土遁、爆雷撃。」

細かい土の粒子が空気中に舞う。リーナは天使を展開しているため、それを吸い込むことはないが、何をしたいかは理解した。

「ティンク、粉塵爆発よ。上へ逃げて!」


 リーナ(ティンク)は垂直に跳躍を繰り返し離脱を図る。すると下から爆風が迫る。

「なるほど、クリスを倒せば本体同士なら勝てると見たわけですね。」

クリスは「破損認定」を受け、使えなくなった。ティンクはリーナを呼ぶ。


「リーナ、帰って来て、you have a control !」

「I have a control 。お待たせ、ティンク。」

ティンクはリーナの身体のコントロール権限をリーナに返す。そこに山中三太夫が迫ってきた。


「出でよ、気炎万丈ティソーナ百錬製鋼コラーダ!」

リーナの両腕に二振りの剣が現われる。ギブソン家の「守り刀」、かつて凜もデビュー当時に使っていた二振りだ。


決勝トーナメントに進出を決めた時、リーナがアンにお願いしたのだ。

山中の武器も短めの忍び刀のため、かなりの近接戦になる。

(小娘が、これで終わりだ!)

 勝利を確信して攻め込む山中だったが、リーナは斬撃を交わすと逆撃を食らわす。

「リーナはロボフトの名選手なのです。つまり近接戦闘はいちばんの得意なのです。」

 アメフトをロボットにやらせるロボフト。身体同士の激突、格闘技を超える接触コンタクトは日常茶飯事である。

リーナは落ち着いていた。彼女は逆に攻め込んでいく。ロボフトがVR方式の操作法だったのが良かったのだ。今度は山中が後退する。まさか自分が剣技で遅れを取るとは思っても見なかったのだ。


絶技勝負だが、ただ今のリーナにはクリスがない。

「絶技、土遁、隕石岩メテオストーム!」

闘技場の石畳が次々と剥がされ、上空へと舞い上がる。相手がやりたいことは容易に想像がつく。


(どうする?あれが降り注いで来たらとても避けきれない。どうする、お兄ちゃんなら、どうするだろう?⋯⋯ニンジャ⋯⋯そうだ!でも、やったことない。)

リーナが思いついたアイデアを引っ込めようとしたその時、

(リーナ、良いアイデアだと思う。やって見よ!私が一緒だよ!)

ティンクが励ます。


「これで終わりだ!」

リーナに向けて石飛礫つぶてが雨霰と降り注ぐ。

「絶技、F35 雷撃二式ライトニング2!」

リーナのコールも轟音にかき消される。土煙があがり、リーナが瓦礫に埋め尽くされたかに見えた。


「勝ったか。」

山中が勝利を確信して開始戦へと背を向けた瞬間、気炎万丈ティソーナ百錬製鋼コラーダの二刀が彼の背を貫いた。

「何⋯⋯だと。仕留めたはず……。」

信じられない、といった表情で山中が振り向く。


「空蝉の術よ⋯⋯。ニンジャならお馴染でしょ。」

「くそ、量子分身の応用⋯⋯か。」

先程まで自分たちが披露していた技がこんな形で帰ってくるとは思わなかったのだろう。リーナは残像だけ残して跳躍ワープしていたのだ。


「やはり、土煙はいただけませんね。相手に付け入る隙を与えます。」

マーリンが感慨深そうに言った。


 聖槍は第一セットを三ゲーム連勝でとった。

慶次はダグアウトの奥でどっかりと座ったままである。彼をどう使ってくるか。そこが勝負の行方を分けそうであった。

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