第224話:硬すぎる、守り。

[星暦1554年11月3日。聖都アヴァロン。聖槍騎士団・(ホーム)対黙示録騎士団」


 地上戦デュエルをストレートで勝った聖槍は、その勢いのまま『風遁』の『風魔』主体の忍軍相手に空戦マニューバも取る。そして、団体戦へと進んだ。


今回はホームが聖槍騎士団であるため、フィールドはマーリンの「蜘蛛の巣城スローンオブブラッド」である。

 「さて、出番じゃ。参るとするかの。」 

 そして、黙示録側のディフェンスの一人として攻め手アタッカーをむかえたのが慶次であった。


ただ、慶次は一向に戦闘には加わろうとせず、腰を下ろすと煙管をふかしていた。


 ちなみに、惑星ガイアもスフィアも分煙社会となっている。入植当初はどちらも禁煙だったのだが、スフィアの場合はアマレク人が喫煙の習慣を持っており、彼らに支配されている間に、その習慣が地球人種テラノイドにも再び広まり、定着してしまったのである。ガイアにはフェニキア人を通じてスフィアからたばこの苗が持ち込まれ、結局、広まってしまった。悪習とわかってはいても、なかなか完全に断ち切るには難しいようだ。


さて、戦闘中にこんなサボりをしていたら、きっとほかの騎士団であれば驚いて慶次を戦闘に加わるよう命ずるだろうが、他ならぬ「黙示録騎士団」である。見事に無視を決め込んでいた。


 「黙示録騎士団」は謎の多い騎士団である。開基者は解放戦争の英雄「ビッグ7」の一人、ラザロ・ビスコンティである。彼は時の士師、不知火尊=パーシヴァルを敵味方関係なく情報戦や攪乱戦術で支えた男であった。

それで、要人警護、暗殺、諜報、撹乱を含む特殊作戦を請け負う騎士団として主に政治の裏舞台で活躍してきたのである。また、ABC兵器に関しても唯一研究が許されている騎士団でもある。


今回、この団体戦の守備陣は「土遁」の「甲賀」であったため、キーパーはフラッグを岩に閉ざしてしまったのである。「スキル」対「スキル」となりそうであった。


「さあて、どうするかな?天の岩戸にこもった大神おおみかみ天宇受売あまのうずめの踊りでのうても引っ張り出せるかの?」

慶次は行儀悪くあぐらをかき、ひじをついて戦局を眺める。彼の悪気のみじんもないつぶやきを耳にして凜は苦笑を漏らす。スキルによって岩はさらに硬質化されて固められ、多少の攻撃でもビクともしないのだ。


「ダイアモンドを超える硬さのようです。炭素系の多重構造体です。」

スキャンの結果をゼルが告げた。

「『ああ、予感はホンモノ』なんて言わんだろうな?」

凜が戯ける。


(さて、どうしたものか⋯⋯。)

互いにディフェンスが硬い布陣なため、ディフェンダーが少なめであり、この防御を破れば一気に勝利を引き寄せることができる。

「凜、『天下無敵ジャガーノート』」を使いますか?

それは凜の対艦兵器であり、燃え盛る恒星の微小な一部を転移装填して核融合エネルギーを放出するというトンでも兵器である。


「いや、それはまずい。たとえ最小規模でもかなりの高熱が出る。宇宙空間ならまだしも、こんなところで使ったら観客席ごとが丸焼けになる。」

そう、針の頭程度の大きさでも核分裂方式の巨大核弾頭並みの威力が出てしまう。核融合とは、エネルギー放射が段違いなのである。


「では方法は一つしかありません。天衣無縫ドレッドノートの封印を解くべきです。ただ、2戦連続になりますが。同じ技を使うのは物語的にどうかと。」

ゼルはあらぬ方を忖度し始める。とはいえ、それほど有効手段があるわけでもない。凜はため息をついた。


「しかたないか。『神羅万象アレフノート』。」

天衣無縫ドレッドノート」のルーンが光るとその刀身は透き通っていく。天衣無縫は本来重力子金属で作り出され、いわゆる「霊剣」と呼ばれるものである。それを法術回路で物質化させ、定着させたものである。


 凜が立ち上がると慶次も立ち上がった。

凜は慶次を一瞥してからその閉ざされた「岩戸」の前に立つ。

凜が刀をそれに突き立てると、それはやすやすと切り裂かれていく。


「バカな。」

思わずキーパーの声が漏れ出る。人が作り出せるどんな物質よりも硬いはずの物質を易々と切り裂くのだ。


「『霊剣』というのはすべての物質を非活性エネルギー化させるのです。つまり『形状』がなくなります。ひらたく言えば『物質』と呼ばれるものはすべからく『切る』ことができるのです。」


  やがて、岩戸に閉ざされていた旗が露出する。キーパーを斬り伏せ、それを取ろうととした凜に慶次が声をかけた。

「しばし、待たれよ。」

凜が振り向くとすでに抜刀した慶次が構えている。

「それがしも、もうそろそろ働かねばならんのでな。」


凜の手の『神羅万象アレフノート』モードが徐々に解除される。一条の光のようになっていた刃がもとの刀に戻っていった。

「いざ。」

 凜が真一文字に「天衣無縫ドレッドノート」を薙ぐ。慶次は一旦、バックステップでそれを避け再び正眼に構える。


「ほう、なかなかの剣筋ではないか。」

慶次は気合いを込めると斬撃を開始する。互いに切り結ぶが、パワーは間違いなく慶次が勝る。

「⋯⋯むむ!?」

しかし、凜は転移ジャンプを使い、次次に慶次の死角に回り込む。


(来るか⋯⋯?)

凜が現れた所に慶次の斬撃が繰り出される。間一髪、凜もそれをよける。

(さすが⋯⋯わざと死角を作って誘いこみましたか。あまり遊んでいる場合でもないでしょう。)

「四式・疾風フランク⋯⋯絶技、紫電改ジョージ21。」


旗を背にした慶次に凜が「絶技」を発動する。

(高速の斬撃技か。さあ、来るがいい。)

動きは捉えたはずだ、そう思った瞬間、凜の姿が消える。

(何?)

次の瞬間、凜が現れたのは慶次の頭上であった。

(むう。)

 慶次の挙動が一瞬遅れる。慶次ほどの武芸者であろうと「生前」上からの攻撃に直面したことも、それに備えた訓練もしたことはない。「天使」によって重力の鎖から解き放たれたこの時代だからこその攻撃である。


 (しかし、読めぬほどのことはない。)

慶次のモニターに凜の予測軌道が表示される。

(……なに?)

ただ、C3で読んだ軌道と異なっていたのだ。凜がいるはずの座標に繰り出した斬撃を簡単に躱される。

(しまった、一拍、遅らせたのか。)

逆に凜に愛刀「関孫六兼元」を弾かれ取り落とす。鉄扇を抜いたものの、すでに凜の手に旗はあった。


団体戦トゥルネイ」も聖槍がとったのだ。


 「やれやれ、してやられたのう。さて凜殿。先ほどの技、⋯⋯少し、前回の時と違ったようじゃが。」

 慶次は飄々とした体で尋ねるが、少し悔しさが滲んでいた。

 存在を伏せておくために彼ら英雄たちは、全て無試合で人位へ昇格していた。それが実戦経験、特殊な戦い方の習得にやや遅れを生じさせてしまったともいえる。手の内をさらさずに実戦をつみあげていくのはなかなか難しいのだ。


 凜も笑った。

「そうですね。『紫電改二』と言べきでしたね。ちょっと手をいれましたから。」

慶次はさらに尋ねる。

「今のはなぜ、一拍ずれたのだ?」

凜は少し考えてから答えた。

「あ、最後のは『自由落下』だったんです。重力加速をつけずに、惑星の重力だけで落ちたんですよね。それで予測より遅れたように見えたんですよ。まあこれがかの『木の葉落とし』ってやつです。


 『木の葉落とし』とは空戦術の一つで、敵に背後につかれた際、墜落する角度で失速させ、自由落下の速度で相手をやりすごしてから再び姿勢を立て直すという伝説の技である。


 第二次世界大戦で零戦が使った技として有名であるが、実際にできたかどうかは定かではないという代物だ。ようはそれだけ姿勢制御の難度が高いということである。


「それがしが死んだ後の技であったか、それは仕方ないのう。」

慶次は屈託のない笑顔を見せる。

 これで3セットストレートで聖槍のホーム戦勝利が決まったのだ。

「意外にあっけなかったな。」

ロゼの感想にリックは慎重論を説く。

「いや。今回は主力の休養に当てたかったこともあるだろう。火遁・雷遁の『伊賀』、水遁の『戸隠』もまだ出ていない。油断するにはまだ早すぎる。」


そう、黙示録騎士団には余力が存在するのである。凜が


「そう言えば、リック。今日は家族が見に来てくれていたんじゃなかったの?」

「おう、実は次のアウェー戦もなんだよ。王都見物もしたいらしいから。」

それが、騒動の始まりでもあったのだ。

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