第222話:ニンジャすぎる、準決勝(ホーム)。①

[星暦1554年11月3日。聖都アヴァロン。聖槍騎士団・(ホーム)対黙示録騎士団」


 聖都アヴァロンの闘技場、「救国卿記念闘技場」は満員の盛況ぶりであった。しかも、観衆のほぼ全部が聖槍騎士団の応援であった。今回は聖槍騎士団がホームゲームであることもあるが、黙示録騎士団はホームタウンを持たない上に、家族の観戦を禁止するなどファンが付かないようにしているためでもある。黙示録騎士団の任務の特殊性によるものであった。


「テロリストもスパイも扱いはそうは変わらないな。まあ、どちらもただの暴力装置だが法的根拠を持つか持たないかの差しかないのだ。」

リックが偉そうに開設をする。

「そうですよ。家族大好きなリックと違って、彼らはハードボイルドなんです。彼らは任務中に死んでも家族にその最期すら知らされないのです。よく言うでしょう?『死して屍拾うもの無し。死して屍、拾うもの、無し。』ってね。」

ゼルの説明にリックは首をかしげる。

「意味は分からんことはないけど、なんで同じこと2回言うの?」

ゼルは片まゆをあげる。

「わかってないですね。2回目は少しためてから『拾うもの無し』って言うんです。さあ言ってごらんなさい、リピート・アフター・ミー。」


「ゼル、下らん事言ってる場合じゃないよ。出番なんだから。」

凜にせかされ「二人」はフィールドへ向かう。

 第1ゲームの地上戦はリックが先鋒を務める。もうこの頃までに、リックとゼルのコンビネーションはかなり完成の域に達していたのだ。


 相手は「甲賀」の「芥川七之助」と紹介された。無論、データはない。

(さて、どう来る?)

開始の礼を交わすと「芥川」はその姿を消す。もちろん、登録名は本名ではない。光学迷彩をかけ、音もなく移動する。

(まさに忍者だな。)

リックは自分の武器「カンナカムイ」を構える。それはジョイントすると長槍になる小槍と杖に分かれており、杖には直刀が仕込まれている。


(……来る!)

リックは自分の背後に音もなく現れた「刺客」の一撃を仕込み杖で防ぐと一閃して反撃する「刺客」はそれを避けると再び姿を消していく。

「見えないと思うのか?」


 ゼルは基本的に量子レーダーで探知するため光学迷彩は効かないのである。

しかし、「刺客」は分身する。量子分身、量子もつれの原理を利用した超科学忍法である


(量子には量子か。スキルのコールもしないとは。

忍者ニンジャとはいえ、テレビというものをわかっておらなさすぎる。)

ゼルが呆れたようにつぶやくがリックは苦笑を浮かべた。

「でも師匠ゼル、『影分身』なんて術名を言ったら各方面から何を言われることやら⋯⋯。」


そして、刀を持ったニンジャたちが次々に襲いかかる。「量子もつれ」を利用した分身のため、実質的な攻撃が可能なのだ。

(ゼル、少しやばいんじゃ?)

リックの動悸が高まる。

(リック、少し目をつむれ、こちらは居合で対抗する。)


 ゼル(リック)は背を丸め、仕込み杖を構えた。十分にニンジャを引き付けると杖から刀を抜くと次々にそのニンジャたちを斬りふせる。この仕込み杖はさやにレールキャノンが仕込まれていて、抜刀する速度は普通に斬りかかるよりもはるかに高速なのだ。もっとも、重力制御のグローブで抜刀時の衝撃を吸収はしているがかなりリックにも負担がかかる。


「技・座頭☆1イチ

各方面に対する忖度のためにやや「同人誌即売会」みたいな技名になっているのがご愛敬だ。

 再び鞘に刀身を戻す。すると再び忍者が分身してその姿が増える。


(これはきりがなくないか、ゼル?)

眼をつむったままリックが尋ねる。ゼルは余裕があるようだ。

(慌てるなリック。所詮コヤツには補助人格たる有人格アプリは入っておらなんだ。分身は複数作れても操れるのは一人だ。そして⋯⋯)


 リックは跳躍すると何もない空間に深々と刃を突き立てる。するとその空間から刺客本体があらわれた。光学迷彩で隠れていたのだ。

「しかも、分身アバターを操っている間、本体は何もできんのだよ。」


急所を深々と突かれた「芥川」が苦しそうな表情で尋ねる。

「なぜわかった?」

ゼル(リック)は舌を出す。

「それは私の飯のタネです。教えるわけがありません。」

ここでリックの勝利が確定した。

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