第192話:てんやわんやすぎる、ウエディングベル。②

司会者が次に 紹介したのは「ヴィントハウスブラザース」である。ちなみにヴィントハウスはリックの本名である。


 彼らがケイジに引率されてかわいらしい衣装で登場すると参加者は大いに盛り上がった。彼らが披露したのは「ジャクソ●5」の「ABC」だった。


「ありがとう、リック。忙しいところ、わざわざ来てくれて。」

ダンスパーティが終わり、「ハネムーンに出かける段」に差し掛かったブライアンが見送りの列にリックを見つけると近づいて来た。リックが敬礼するとブライアンも笑顔で答礼する。


「立派になったな、リック。あの海賊事件の時、キツイこと言ってすまなかった。それがずっと気になっていたんだ。お前もすぐに家出同然にいなくなってしまったからな。でも、選挙大戦コンクラーベで戦っているお前の姿に励まされているよ。これからキツイところと当たるだろうが、頑張ってくれ。お前は俺たちの村の誇りなんだ。」


 ブライアンの言葉にリックは涙が出そうになった。あの時の絶望感は決して忘れられない。弱い、ということがあれほど辛いことだとおもい知らされたあの日の事件こそが、リックの原動力であったのだ。


「ありがとう、ブライアン。俺もようやくあの時に兄貴に言われた言葉の意味が分かるようになってきたんだ。故郷の名に恥じないよう頑張るよ。」


ブライアンは新婦と共にいくつも空き缶が下げられた浮上自動車エアカーでハネムーンへと旅だって行った。


 ダンスパーティが終わり、1日家族と過ごしてからリックはアヴァロンへの帰路についた。

「ところでリックは養子に行かれたのか?」

帰りの道すがら、ケイジが尋ねる。弟妹たちと名字が違っていたことからそう思ったのかもしれない。

「いや、違うんだ。『ウインザー』は俺が勝手に名乗ってる『騎士ネーム』なんだ。昔、地球にあったヨーロッパの王室の家名を頂戴してね。」

 これはリックの『中二病』の拗らせ加減を見事に表しているのだ。


「……左様か。」

 ケイジはかつて自分が前田家に養子に出されたことを語った。受け継がれる名前、その重みを語りたかったのだろうか。しかし、リックは全く別のことを考えていた。


「ケイジさん、俺に、その眷属語ハイエンダーズの名字を考えてくれないかな?」

訝しげに見つめ返すケイジにリックは頼んだ。

「凜は間違いなく天下をとる。その時、凜みたいなカッコいい名字が欲しいんだ。ねえ、ケイジさんの時代の強い戦士とか、いなかったの?」


 ケイジはあっけにとられた顔をしていた。彼はリックがチームの戦力分析係であることを知っていたし、各騎士団の戦力を分析した上でそういったとは思えなかったからだ。

「そりゃいたさ。それこそ掃いて捨てるほどな。しかし、それがしでなくても凜殿に頼むのが筋ではないのか?」


「うーん。でも、俺はケイジさんがいいな。凜に貰うと、一生あいつに頭が上がんない気がして、それもいやなんだ。で、どんなすごい奴らだったの?」


「聞きたいか?」

ケイジは嬉しそうに話しを始めた。

「おお、月が綺麗だねえ。」

ケビンが宇宙港から見える故郷の惑星ほしを見やった。

「そうですね。そして、今現在、普段我々が月と呼んでいる惑星ほしにいる、という事実をお忘れなく。」

ケビンに「巻き込まれて」月へ降り立った、ジーン・マクファイアがぼやくようにつぶやいた。


ケビンとジーンはスフィア王国政府から「短剣党シカリオン」と呼ばれるテロ組織への対策の協力を請われ、スフィアへ渡ったのだ。


短剣党シカリオン」は大統領選挙の後、活動が沈静化したと見られていた。しかし、それは組織の活動範囲がスフィアとその周辺に移ったに過ぎない。現に、スフィアのラグランジュポイントを周回する小衛星ベルトの周辺で海賊行為が活発化しているのだ。


これまで短剣党と戦ってきたガイアの政府に協力を要請するのは自然なことであった。また、「選挙大戦」の観光資源化を進めて来た円卓にとっても、ガイアからの観光客の受け入れのためにガイアの諸政府との連携を求め始めていたのだ。


「スフィアへようこそ、ケビン。」

凜の姿を見つけるとケビンは大げさに嘆いてみせた。

「やれやれ、疫病神が見えるようになってしまったよ。わざわざのお出迎えどうも。」

二人は挨拶の握手を交わした。


「ケビン、なんで出迎えがグレイスじゃないんだ?という顔をしていますね。」

ゼルがケビンの心情を言い当てる。

「彼女は選挙大戦コンクラーベ中ですから、忙しいのですよ。」

 グレイス率いる「ヴァルキュリア女子修道騎士会」は決勝トーナメントに進出したものの、いきなり優勝候補筆頭の護法アストレア騎士団と当たることになったのだ。


「いいね、是非生で観戦したいね。」

ただ、決勝トーナメントの緒戦のチケットは発売とほぼ同時に売り切れソールドアウトしており、すでにSNSではチケットを求める声が嵐のように吹き荒れているのだ。


「しかし、ここはグラストンベリー、キミのホームとは随分離れているじゃないか?」

ゼルはVサインをする。

「それは配慮無用です。わたしは『どこでもドア』を持っているので大丈夫です。」

「まあ、短剣党シカリオン対策は伝令使杖カドゥケウス騎士団に任せているのでね。その本部がここにあるんだ。団長のラドラー卿に紹介するよ。」



トムも久しぶりにメンフィスに帰省する。ただ、あいかわらず、養家の人間はトムに無関心であった。屋敷に自分に部屋も割り当てられてはいたが、正直居心地が悪いだけだった。 狭いがカフェ・ド・シュバリエの部屋の方が落ち着くのである。ただ、狭いといっても3部屋を占有しているためいささか説得力には欠けるかもしれない。


親しい友人がいるわけでもなく、単に形式的に顔を出したに過ぎないのである。出不精にもほどがある宿主にリコが見かねて提案する。

「兄さん、どこかに出かけませんか?」

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