第11部:それが私のPRIDE―決勝トーナメント初戦&準々決勝編!―

第191話:てんやわんやすぎる、ウエディングベル。①

一次リーグが終わると一週間の休みが出る。ただ、それは休息の時と言うよりは備えの時なのである。リックは一次リーグの動画とデータのまとめに入っていた。

「一回戦は大宰府。波乱さえ起きなければ準々決勝は鎮守府だろう。戦力を計算すれば準決勝は黙示録アポカリプス騎士団。決勝は恐らく護法アストレア騎士団。はっきり言って、勝てる気がしない。」


データを見ればみるほどそう思えてならない。一次リーグでぶつかった衛門府も強豪だったが、それとは比べものにならないほどの強豪なのだ。祭りの奉納試合で彼らとぶつかるとその強さを実際に肌で感じることができるのだ。


「強さ⋯⋯か。」

リックも決して弱いわけではない。一次リーグの成績から、リックも選挙大戦後に準天位への昇格が決まった。叔父のヘンリーが30代を過ぎてやっと得た地位に20歳そこそこですでに手が届いたことになる。しかし、これはゼルの憑依ポゼッセオのおかげでもある。これがなければ未だ人位のままだったかもしれない。


「リック、お前宛に封書が届いているぞ。」

ヘンリーがリックに封筒を手渡す。今どき封書なぞとはなんだろう、そう思って裏の差出人を見ると、かつての兄貴分だったブライアンからであった。それは彼の結婚式への招待状であったのだ。


 添えられたメモ書きには選挙大戦コンクラーベで多忙だとは思うが、出席がかなわずとも祝いのメッセージの一つでも貰えると嬉しい、というものであった。日時は今週末の日曜日とあった。


「ちょっと、顔だけでも出してくるか。」

鎮守府とのアウェイのゲームは来週の週末だ。日曜だけなら、故郷のミーディアンの村へ帰省しても差し支えはないだろう。ゼルを通して旅団長の凜に出席の可否を尋ねると、快くに許可を出してくれた。


5年ほど前、村が海賊に襲われた時、自分の勇み足で窮地に立たせてしまった兄貴分のブライアン。(7、8話を参照)。それが気まずくて帰省しても連絡を取らずじまいであったが、これでようやく不義理も解消できるかもしれない。


「じゃあ、姉貴(リックの母親)やみんなにもによろしく伝えてくれ。」

ヘンリーに土産を手渡され、彼は店をでた。

この週末を利用してトムやメグも故郷に帰省するようである。


アヴァロンからミーディアンへは周辺の村を巡回する飛空艇バスの定期便が出ているのである。「飛空艇」といっても地上すれすれを飛ぶ低浮上型ローフロートのものである。タイヤの無い自動車

 

 スフィアでは都市間を結ぶハイウエイは須らく「車輪タイヤ厳禁」なのである。舗装を必要としないので維持費もかからないし、たいていそこはグリーンベルトとして植栽や芝生が植えられるのだ。


アヴァロンには地球教の総本山、スフィア大聖堂が置かれているため、各地への自動運航飛空艇の大きなターミナルがあり、リックは自分の荷物と土産物を抱え、そこへ向かった。そして、偶然良く知る後ろ姿と遭遇したのである。


大きな男がベンチに鷹揚に腰掛け、キセルで煙草をふかしていた。

「ケイジさん。どうしたんですか?」

思わぬ再会にリックは声をかけた。


「おう、これはこれはリック。久しいのう。⋯⋯今しがた流れ行く雲の行方を眺めていたのだ。」

 相変わらず人を食ったような答えであった。ケイジはリックの一次リーグの通過を祝うとどこへ行くのか尋ねた。リックが故郷の村へ帰省することを告げると、

「ほう、ではそれがしも付いて行って良いかの? 実は、俺も休暇でな。行くあてもなく、どうしようかと思案をしておったのだよ。」

そう言って豪快に笑った。


リックは一瞬戸惑ったが、快く同行を許した。考えてみれば何度か遊びに連れて行ってもらったが、自分が彼を招待したことなどこれまでなかったからだ。


 しかし、リックはすぐに後悔することになる。「荷物持ち」の男女が一個中隊ほどついて来たからだ。いつもはガラガラのバスがいっぱいになる。



 故郷の村に着くと、そこはまるでお祭りのようであった。ブライアンの結婚式のためだ。ブライアンはリックより三つ年上の23歳である。ずいぶんと早婚に思われるが、ベーシックインカムをはじめとして福祉は手厚いため、結婚はできるかできないかではなく、したいかしたくないかで選ぶ世界なのである。ちなみに筆者はうらやましいと思っている。


 リックが姿を現すと、村中が大騒ぎになった。故郷の英雄の思わぬ帰還に村のみんなは色めきたつ。まあ「オリンピック」のメジャー競技に出場している選手が目の前に現れたら、とイメージしてもらえれば分かりやすいだろう。ただ、リックは戸惑っていた。


「ほう、リック殿は人気者じゃのう?」

慶次は意地悪そうに尋ねた。リックの反応は慶次にとっては意外なものだった。

「困ったな……。」

何がどう困るのか、慶次はリックを試すように問う。

「ケイジさん。今回俺はブライアンの結婚式を盛り上げるために帰ってきたのであって、俺が目立つためじゃない。ごめん、ほんとはケイジさんたちをいろいろ案内してあげたかったんだけど、俺は実家にこもることにするよ。」


「そうか、ではそれがしもリック殿につきあうとしよう。せっかくの休暇だ、暇をもてあそぶのもまた一興じゃな。」

 慶次もリックの家に転がり込んだのだ。リックの実家はリックから「貧乏子だくさん」と聞いて想像していたよりも立派なものであった。

 リックの弟妹たちはいきなり来訪した大男に驚き、最初は警戒心から遠巻きに眺めているだけであったが、あっという間に懐いてしまった。


 遊び相手をねだる弟妹たちに慶次は提案する。

「そうじゃ、みんなでブライアンの結婚式の余興をやろうではないか。」


 結婚式当日、リックは友人代表として登壇し、祝辞を述べた。


 しかし、彼が姿を現しただけで列席者の女性たちから黄色い嬌声が飛ぶ。リックはしどろもどろになりながらもなんとか大役を果たした。

 結婚式の後、披露宴に当たるダンスパーティが開かれる。そこに供される料理を監修したのがリックだったのである。まだ蓄えがそれほど無い若いカップルのために皆が用意してくれた食材を見事な料理に変えていた。

(これはなかなか憎い演出ではあるな。)

コック姿で精力的に働くリックを慶次は目を細めて見つめる。彼の元にステージ衣装を身にまとったリックの弟妹たちが集まって来た。

「さて、兄上殿の活躍に負けてはおられん。次は我らが出番じゃ。」


 

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