第180話:傑作すぎる、続編。①

[星暦1544年9月8日。北の学都ウインチェスター。選挙大戦コンクラーベ第4戦。 「天狼の牙フェンリルズファング騎士団」(ホーム)対「聖槍騎士団」。]


空戦を取り、カウントをタイに戻した凜たちの旅団だったが、次の団体戦トゥルネイで再びビリーとあい向かう。


今回は「天狼の牙フェンリルズファング騎士団」がホームであるため、彼らが用意したシチュエーションでの戦いになる。通常、奉納試合は1チーム五人だが、選挙大戦(コンクラーベ)では七人編成となる。


「貨物列車か⋯⋯」

正直、ビリーにとってもっとも有利な設定である。空間は限定され、攻撃のルートも限定される。つまり、槍や大剣のような武器は不利なのである。

しかも、猟師ハンターである鎮守府の系譜を引く騎士団にとって銃こそが主武器である。

無論、凜たちも銃を扱う教練は受けているが、その練度には天地ほどの差がある。


フラッグを守るキーパーはマーリン。凜が一人ディフェンスで残り、五人がオフェンス、というフォーメーションということにした。音声限定サウンドオンリーの交信は許可されている。当然、相手のフォーメーションは知る由もない。


ゼルが憑依ポゼッセオしたリックをキャップにトム、ロゼの三人一組スリーマンセル)でで正面突破のチームアルファ、ジェシカとメグのコンビで屋根から攻めるチームベータとした。


「恐らく、ビリーはあなたとの一騎打ち、しかも自分の有利な状況での勝負に持ち込むつもりでしょう。」

マーリンの予想に凜も頷いた。


試合が始まる。しかし、ビリーの作戦はさらに度肝を抜くものであった。

ジェシカからの交信が入る。

「こちら、ベーター。相手チームと交戦に入る。員数は1、2、3⋯⋯何!?六人だと?」

なんと、ビリー自らキーパーを務め、ほかのメンバーを攻撃に全振りして来たのだ。

「ジェシカさん、捕獲縄キャプチャーには気をつけてください。」


凜は敵襲に留意しながら慎重に進んでいるはずのリック(ゼル憑き)に連絡する。

「ゼル、相手はビリー、一人だ。一番奥まで敵はいない。ただ罠には注意してくれ。三対一だ。仕留めてくれ⋯⋯とまでは言わないが、なるべくヤツを足留めしてくれ。」

「アラホレサッサー。」


どちらも3対1である。凜は転移ジャンプすると、メグとジェシカの加勢に回った。恐らく、ゼル憑きのリックでさえ、ビリーには敵わないだろう。そしてもしメグとジェシカが破られれば、恐らく合流して車両の内外から攻撃を受けることになる。それだけは避けるべきだ。

凜が屋根の上に出ると、すでに銃撃戦になっていた。持てる武器は3つと決められている。相手は銃、捕獲縄、そしてプラスアルファであろう。


ジェシカとメグは自らの「心地光明クラウソラス」と「美慈麗久オルトリンデ」をエサに捕獲縄キャプチャーを使わせたのだ。

「凜、残りの捕獲縄キャプチャーは3つだ。」

防戦一方のジェシカが注意を促す。

一人が凜目掛けて捕獲縄キャプチャーを投げる。凜は矢で撃ち落とした。

「気をつけろ。やつはうちの大将ビリー並みの腕前だぞ。」

「残念だがそれ以上だ。」

凜が矢の束をつがえ、放つ。それはあたかも自らの意思を持っているかのように襲いかかる。

追跡矢チェイサーか、厄介だ矢のくせに。」

「そりゃ元祖ミサイルだからな。」

現代兵器のミサイルの語源は「矢」なのだ。


凜の加勢で一気に状況は逆転する。ゼルによる補助がないため、一度に操れるのは10本程度だが、それでもジェシカとメグの攻撃に連動されると効果は抜群であった。

当初は数的優位を嵩に攻撃的であったが、やがて、三人のコンビネーションに2人まで減らされると退却を開始する。


一方、さらにリック(ゼル)たちは苦戦していた。彼の跳弾を自在に操るスキルギャンブラー」に苦しめられていたのだ。すでに跳弾でロゼはやられ、C3を持つトムとリック(ゼル)がなんとか踏み応えていたのだ。それでも、「当たらない」算段を立てるのに精一杯だったのだ


団体戦トゥルネイ」は旗を取るか、キーパー以外の相手を全滅させるかで勝負が決まる。ビリーは戻って来た二人を呼ぶと、一人にキーパーを交代させ、もう一人に盾でキーパーを完全に防御させると、凜に呼びかけた。

「やい、トリスタン!もう一度二人で決着をつけようぜ!」

凜が前に出る。凜は再びリックを抜けたゼルと合流した。

「リック、みんなでフラッグを固めてくれ。ここで俺が倒れても、時間いっぱい守りきれば俺たちの勝ちだ。」

そして、残りのメンバーに自陣に戻ってキーパーの守備を全員で固めるように告げた。


再び、二人の決闘の形になる。フラッグを守る二人を背にビリーが立つ。凜は霊刀「天衣無縫ドレッドノート」を構えた。

「三式・飛燕トニー。」

速度、旋回に全てをかけるフォームに替える。ここは列車の車両である。弁慶ベンと相対したように、ほぼ直線勝負なのだ。

「お前の斬撃と俺の銃撃、どちらが速いか、勝負だ。」

ビリーが煽る。

「本気で行って良いですか?」


凜の問いにビリーがいらついたように答えた。

「まさか、手加減してくれ、と俺が言うとでも?」

「では尋常に、勝負。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る