第152話:すべりこみすぎる、昇格。❸

[星暦1554年4月20日。聖都アヴァロン。カフェ・ド・シュバリエ。]


しかし、驚いたことに、約束にもかかわらず、リーナの位階は上がらなかった。未だに外部操作型の武器に対する偏見のせいである。なにかともったいをつけたいちゃもんをつけられたのである。すっかりしょげ返るリーナに皆、どんな声をかけるべきか考えあぐねていた。


「なんてこった。まあ、凜がお偉いさん方に嫌われてるのがだめなんだろうな。」

リックが言うと。

「そんなことないもん。お兄ちゃんは悪くないもん。」

リーナは抗議の声をあげるも、結局、みなため息をつくしかなかった。


「まあ、コーヒーでも飲んで落ち着け。」

ヘンリーがアマンダと共に、コーヒーを皆に配った。

「よお。」

そこに入って来たのが透さんとナディンさんであった。

「珍しいですね、団長。」


皆が難しい顔をしてコーヒーを飲んでいる姿に違和感を感じたのか透が明るい声で切りだした。

「おう、今日は皆んなに良いニュースを持ってきたんだ。⋯⋯どうした、なんだか通夜みたいな顔して。まあいい。メアリーナ・アシュリー。ここへ。」

「は⋯⋯はい?」

突然、名を呼ばれてリーナはびっくりして顔を上げる。ナディンさんは満面の笑みをたたえて手招きをする。


リーナがつんのめるように透のところへいくと、透も満面の笑みで持っていた書状を手渡した。

「これ、なんですか?」

リーナが不思議そうに見上げる。透が告げた。

「メアリーナ・アシュリー。先日実施された再生医療の論文全国コンペティションにおいて優秀な成績を収められたことに表彰いたします。⋯⋯おめでとう、リーナ。」

リーナが医療科においても優秀な団員であるようだ。

「あ……、ありがとうございます⋯⋯。」

リーナは嬉しかったのだが、複雑な心境であったため、どうそれを表現しようか考えあぐねていた。


「おめでとう。」

皆んなも口々に褒める。

「⋯⋯ちょっと待って。まだ、続きがあるんだよね。」

透さんは勿体をつけた。ナディンさんも微笑むと

「はい、リーナ、おめでとう。」

そう言ってリーナの手に新しい徽章を渡した。

「これは?」

不思議そうに尋ねるリーナにナディンが

「昇格よ。あなたは医療騎士『人位』になったの。これでインターンは無事卒業。あなたも立派なお医者さんよ。」


「人位?」

そう聞いて皆顔を見合わせる。しばらく考えあぐねていたが、ようやくなぜこれが福音グッド・ニュースなのか理解した。


「そうか。つまり、選挙大戦コンクラーベに⋯⋯。」

「出場決定だね!おめでとう!リーナ。」

皆んなどっと沸いた。


(なるほど、団長はこういう事態を見越して『医療騎士』として昇格させた、というわけですね。)

マーリンは感心して透の横顔を見た。とぼけているが、さすがは団長である。修道騎士が主に出場する大会ではあるが、どの分野の騎士であれ「人位」であれば出場は可能なのだ。


(ありがたいね。透さんはこうして僕たちのフォローをしてくれているんだね。)

凜は透に感謝しなければ、そう強く思った。

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