第151話:すべりこみすぎる、昇格。❷
「リーナ、ちょっと良いか?」
ダグアウトを出たリーナを待っていたのはメグであった。
「少し、お茶に付き合わないか。」
珍しいメグの誘いにリーナはコクコクと首を縦に振った。
(メグさん、いったい何の用だろう? ダメ出しかなあ。)
リーナはやや緊張しながらリーナに付き合った。
祭りの客で混んだカフェのカウンター席で二人は並んで座った。うつむいたままのリーナにメグが話しかける。
「今日は、残念だったな。」
「はい。あと、もう少しなんですけどね⋯⋯。あたし、少しおっちょこちょいなところがあるから。」
メグはリーナの敗戦を咎め立てることはなく、そのまま世間話に移っていった。ただ、若い女の子同士の「ガールズ・トーク」というよりは「
「ところでリーナ、あなたが武術の模範とするスタイルは誰なのだ?」
不意にメグが尋ねた。
「え⋯⋯、ジェシカ
リーナは凜の戦闘スタイルに憧れてはいたものの、
メグはわが意を得たり、という表情を浮かべた。
「であろうな。しかし、クリスの操者であるあなたは女性だが、クリス自身はパワータイプの男性をモチーフにしている。エルダー(ジェシカのこと)の槍技はしなやかでスピードのあるもので、まさに
リーナは絶句してしまった。言われてみればそうだった。確かに柔軟性が乏しいクリスに無理な動きをさせていたのでは無いだろうか。でも、男性の身体を経験した事がないリーナには、すぐに身につけられるものではない。
「ではどうしたら良いのでしょう?」
リーナは身を乗り出すように尋ねた。メグはそこで初めてにやりとする。
「これだ。」
メグはリンク先を見せた。リーナがそれに繋ぐとそれはメグの所有する
それはグレイス・トワイライト・レイノルズの奉納試合の「全集」であった。
「
まさに、目から鱗な提案にリーナの声が弾む。
「わかりました。やってみます。ありがとうございます!」
リーナは席を立つと真っ直ぐに官舎へと戻って行った。
(しかし、何百とあるのですね。これだけの試合をこなした
明日の作戦に合わせて相応しい動画のピックアップを担当したティンクも半分感心し、半分呆れていた。
[星暦1554年3月30日。王都キャメロット。]
(ティンク、なんだか今日はいけそうな気がするの。)
翌日のリーナはまさに「劇的に」違っていた。
(……あると思います。)
ティンクも驚きを隠さない。
「……?」
順調に勝ち星を重ねるリーナの試合を見守る凜とジェシカが顔を見合わせる。
「動きが変わったね。……しかも、ずいぶんと良い方向に。」
これまでリーナはクリスを安易に動かし過ぎていたのだ。まるで非力な挑戦者でもあるかのように、先の先を取ろうと躍起になってしまっていた。それが焦りと相手に付け込まれる隙を与えてしまっていたのだ。
しかし、今回は違っていた。まさに泰然自若として構え、槍の柄を使った防御や攻撃を巧みに取り入れていたのだ。
「なるほど、重力補正がされているとはいえ、パワーの差は存在するからな。とりわけ、槍にプラスしてあの
凜のつぶやきにジェシカもふっと笑った。
「これは予想外ね。まさか、わたしにとって一番近いところに答えがあったとはね。……あれは、グレイスのスタイルよ。彼女の変な癖まで周到にトレースするとはお見事ね。」
「なるほど、だからこその平騎士相手にこの横綱相撲⋯⋯。無双すぎますね。今朝、急に
ゼルも驚いていた。
ついにリーナとクリスの
「おめでとう!」
皆口々に祝福する。
「メグ⋯⋯でしょ? リーナに良いアドバイスをくれたの?」
祝福の輪に加わっていたメグに凜が尋ねる。
「そんなことはない。エルダーと凜の指導の賜物であろう?」
メグはとぼけてみせる。恐らく、リーナを指導していたジェシカを慮ってのことだろう。
「そうだね。リーナのして見せた動きの基本はジェシカさんやメグにも共通した
簡単に見破られてメグもいたずらっ子のような笑顔を見せる。
「さすが、凜。見ただけでよく分かったな。ただ、これほどすぐに成果が出るとは私も予想だにしていなかった。もしかすると
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