第123話:戦隊すぎる、復帰戦。❷

ブルーはジェシカやロゼを狙って矢を放つが、凜の矢にことごとく撃ち落とされる。

「これが噂の『空前絶後フェイルノート』か⋯⋯。」

射手の世界では伝説の逸物を見てブルーは唸る。


「ピンク、援護だ!」

ブルーに促されてピンクが手榴弾のピンを外した。

「良いわね? 行くわよ!」

そういってジェシカの背後をめがけて投擲する。しかし、放物線を描いたそれを、凜の矢が射抜いた。

「グリーン!」

「了解、グリーメラン!」

グリーンはブーメランを投げる。しかしそれも凜に落とされる。

ブルーは今度は連射を始めた。

「ブルーチェリー、連続撃ち!」

しかし、矢は座標を決めるか的を追うかなので凜の矢の束の餌食にしかならなかった。


完全に戦局は膠着し、残り時間が1分を切る。

「ピンク! ゴメンジャー・ストームだ!」

ついにレッドが必殺技の発動を命じる。

ピンクがラグビーボール状の爆弾を蹴り出す。

「ゴメンジャー・ストーム・キーーーック!」

イエローがそれを受け、グリーンに蹴る。

「ブルー!」

グリーンはブルーに蹴る。

「レッド、トドメだ!」

ブルーはレッドに蹴り出す。


レッドが凜たちを見ると、凜が二人を後ろに下げ、自分が前に出ている。そしてその手には大砲のようなものが握られていた。

「フィニッシュ!」

そう叫んで凜たちに向けて蹴り出した瞬間、それは彼の足元で爆発したのだ。


「なぜだ?」

パイロットスーツの全機能が停止したレッドが倒れた。

凜の手元で銃口からプラズマ状の光がパチパチと音を立てていた。


「マーリン卿。なんだ、今のは? 私は初めて見たのだが?」

ピットに詰めていたメグがマーリンに尋ねた。

「ええ、私も見たのは久しぶりですよ。あれが⋯⋯。」


その数十秒前

「『天下無敵ジャガーノート』を発動してください。」

「ええ、こんなところで?」

ゼルの要請に凜が苦笑する。

「 それ、僕の『対艦兵器』ですけど。『対人』で使ったら人倫にもとらない? それに、こう言う切り札は物語の終盤あたりまでは取っておかないと。」


ゼルは首を振る。

「もちろん、最大規模ではありません。最小規模です。たまには虫干しもしないといけません。それにあちらの技、かなり大技なので。」

虫干しと言われ、凜もやや気を悪くする。

「人の兵器を『客用布団』呼ばわりしないでくれ。で、あちらさんの必殺技どのくらい強力なの。」

「『ビックリドッキリメカ』程度は。」

「そりゃ、大変だ。」


凜は両手に『天衣無縫ドレッドノート』と『空前絶後フェイルノート』を構える。

「では、僭越ながらこの私が召喚コール致します。」

ゼルが召喚を始める。

「I have a 天衣無縫ドレッドノート。I have a 空前絶後フェイルノート。nmm 、天下無敵ジャガーノート。」

二つを合わせると巨大な銃が現れる。口径は100mmはあるだろう。バズーカ砲にも見える。その赤と黒で塗られた砲身は金で装飾が施されており、まるで手の込んだ天体望遠鏡のようにもみえるだろう。これが凜の持つ最強兵器、「天下無敵ジャガーノート」である。


新エクスカリバーと同じ転移砲だが、こちらは恒星の極一部を砲身に転移させて発射する、というとんでもない代物で望遠鏡に似た見た目から「スターゲイザー」とも呼ばれている。莫大なエネルギーを必要とする核融合炉を使わず、恒星の一部を空間ごと砲身に転移させる、という転移兵器である。無尽蔵に高エネルギービームを撃ち放題、というもので転移させる物質量で艦隊ごと消滅も可能だ。

当初、惑星防御砲の方式の候補にもあげられていたが、悪用を恐れてお流れになったという経緯がある。


ただ、有害な宇宙線も併せて排出するので、滅多なところでは使えないという欠点がある。「最小威力」であるにもかかわらず5人まとめてノックアウトしてしまった。

「やや盛り上がりにかける初登場だな。」

凜がぼやいた。


「蟻塚団」を撃破した「魁」は1周のアドバンテージを得て、一気に5位に躍り出た。


トップ争いはパゴットの「紅空団クリムゾン・へーベラー」とハートマンの「鬼軍曹アーミー・サープラス・スペシャル」に絞られた。

「紅空団」が華麗なコーナーワークからの立ち上がりで「鬼軍曹」を交わす。すかさず、「鬼軍曹」の両肩についた主砲が火を噴いた。それを華麗に避ける。

「×(バツ)ーウイングなんざブタの餌だ!」

ハートマンが吼える。

「うるせ〜な。後ろからパンパンパンと。」

レッド・マックスも負けてはいない。


「『鬼軍曹』⋯⋯どこかで見たデザインなんですよね。」

マーリンはモニターを見ながら頭を捻る。無限軌道の上にロボットの上半身が乗り、さらに両肩に二門の主砲を置き、両手には機銃がついているのだ。

「ガン・タ○クだよねえ。あれ。」

「おお、それです、それです。」

マーリンは腑に落ちたといった顔をする。


戦局は最後までもつれる。最後のカーブで2機のラインがクロスし、膨らみ過ぎた「鬼軍曹」は上半身が後ろ向きになってしまう。

「この勝負、もらった!」

再び、並んだ「紅空団」と「鬼軍曹」。

「そうは行くかーーー。」

最後の直線で「鬼軍曹」が後ろに向かって砲弾を放つ。なんと、その反動で「紅空団」の前に出る。そして、そこがゴールであった。

ミーンマシン」は何とか7位に入り、復帰戦を無事に終えることが出来た。


ジェシカは表彰式から戻るハートマンとすれ違った。

「おめでとうございます。ハートマン曹長。」

ジェシカが敬礼と共に祝福する。

「ありがとう、ビジョーソルト。次は本戦ファイナルで会おう。」


「ところで、曹長はなぜ、レースの世界に飛び込まれたのですか?」

ジェシカがふと尋ねるとハートマンは大声で笑った。

「いや、恥ずかしい話だがな、ワシが除隊して家に戻ってみたら、妻も子供たちもどこにもいなかったのだよ。

ワシのような乱暴者は家にいなかったからこそ我慢できたが、ワシがずっと家にいる人生など御免蒙る、ということらしい。しかも、除隊の時にいただいた金もそっくりなくなっておってな。⋯⋯人生とはまさに戦場だな。どこまでいっても理不尽なことだらけだ。」

そう言って去っていった。その背中は死に場所を探しているようにも、生き場所を求めているようにも見えた。


ゼルが言った。

「皆さんも、ご家族との接し方には気をつけましょうね。ひーーしっしししししししし。」


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