第87話:やらしすぎる、テングサ。3
「トリスタン!」
ルイがガンソードをぬくと凜に切りかかった。凜はその斬撃を受け止める。しかし、今度は看護師を務めていた医療用マリオネットが後ろからいきなりルイを押さえつけたのだ。
「なに?」
驚くルイに
「どう、この動き? この基地のシステムは全て、僕の支配下にあるんだよ、すでにね。」
ブーネは得意そうだ。
「悪くないね。」
凜が褒めると「
眠ったままのリーナを凜は抱き上げる。まもなく基地のアラートが鳴り響いた。基地を制圧したいのは山々だったが、リーナの危機を救うことが優先だったため、周到な準備はできなかったのだ。
「ブーネ、長居は無用だ。退くよ。」
「
凜たちの足元に
「トリスタン!」
血相を変えたルイが銃を彼らに撃ち込んだが、すでに凜たちは姿を消していた。
「くそ、追いかけてやる。飛空艇を出せ。」
気炎を上げるルイに
「落ち着け、ルイ。もう遅い。そして、しばらくすれば軍や警察が大挙して押し寄せて来るだろう。
[新地球暦1841年11月3日 惑星ガイア]
[スフィア時間:星暦1553年1月18日]
マスコミ向けに、凜がリーナを奪還したことを発表した。そして、画像も公開される。
さらに、凜が知らせた座標に基づいて軍と警察が
抵抗もなく、拠点が無人であることを知らされると、凜は突入部隊を指揮するライアン・フリッツザーンに進言する。
「ライアン、恐らく、彼らは本拠地に固執することはないでしょう。だからこそ、
凜は警告していたが、一部の軍人や警官たちは残された物品をあさり始めた。彼らの多くは特殊作戦執行部のような専門の特殊作戦部隊ではないため、そこまでプロに徹することができない者たちも混ざっていたのだ。
「きっとやつらは慌ててここを棄てていったに違いない。
もちろん、彼らの大半は証拠品を得るためであったが、ポッケに「ないない」するための者たちも少なくなかったのだ。そして、敵がもういない、という緊張感が解けてしまうと彼らの自律心を抑えるたがは容易に外れてしまったのだ。
「ケビン、ひょっとすると、これは大掛かりな『ゴキブ●ホイホイ』なのではありませんか?」
ゼルの忠告にケビンの顔から血の気が退いた。
「ダメだ。これは罠だ。全員すぐに引きあげろ!」
ケビンが無線で絶叫する。しかし、目先の欲にくらんだ者たちの耳に、その指示は届かなかった。
その時だった。爆発が起き、その建物が崩壊を始めたのだ。脱出できた者も多かったが、数十名の軍人や警官が建物の下敷きになってしまった。
「くそ、こんなしょうもないブービートラップに引っかかるとは。」
ケビンは無線のマイクを地面に叩きつけた。
「ケビン、無線を壊す前に、救助を要請してください。」
ゼルは悪魔のように冷静であった。
「凜、組織の方は放っておいてもいいのか? リーナ一人の命と引き換えに大勢の人が危険にさらされるわけなんだが。」
ケビンが尋ねる。
「今回はリーナの救出が最優先だった。それが騎士道だからね。みんなのために一人の
組織の方はブーネが回収したデータの詳細を解析してからでも遅くはないだろう。でも今は、やつらの本部と思われる拠点を潰したんだ。これは君の手柄であり、ザック・ブラッドフォードの手柄でもある。」
そんな理不尽な、ケビンはそう抗議したかったが、『文化の差』としてあきらめることにした。
やがて、報道陣も現場に近づくことを許され、テロリストの拠点が壊滅したことが報道された。
その日は、大統領選挙の投票日でもあったのである。ザック・ブラッドフォードは予定されていた最後の演説を諦め、事件現場、そして救出現場に駆けつけた。
基地は派手に崩壊しており、組織を潰したわけではないものの、その光景は国民の安心を抱かせるに十分なものであった。
そして、その中で陣頭指揮するブラッドフォードのその姿は、国民に好意的に受け入れられたのだろう。思いの外僅差ではあったが、ブラッドフォードの再選が決まったのである。
[新地球暦1841年11月8日 惑星ガイア]
[スフィア時間:星暦1553年1月23日]
「我々は厳しい選挙戦に勝った。そして、次の戦いが始まった。それは我々人類が存続するための戦いだ。それはこれまでの戦いなど問題にならないほどタフで、ハードなものだ。そのために今度は全国民、そして惑星の全ての民、そして公転軌道を共にするスフィアの民と一致団結しなければならない。
騎士の試合の終わりは「ノーサイド」という。戦いが終わったら、その結果に従い、勝者は驕らず敗者に手を差し伸べ、敗者は卑屈にならず勝者の手を取って立ち上がろう。もう、我々は敵味方ではない。
我々の愛する家族、我々の愛する国、そして我々の愛する
「ありがとう、凜。」
ザックの勝利宣言を聴きながらロナルドは凜に握手を求める。
「では、これで、私の提案が受け入れられる、ということですね。」
凜もようやく訪れた交渉のめどに安どの笑みを浮かべた。
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