第84話:魅惑的すぎる、太もも。③

「リーナ、リーナ。」

誰かに呼ばれ、リーナは意識を取り戻した。

(何が起こったのかしら?)

機体ギアと接続のためカプセルに入っていたが、突然、その接続が切れたのだ。その遮断シャットダウンの衝撃のためにリーナは気を失っていた。カプセル内では身体を接続コードが繋がれた全身をスーツのよようなもので覆われるため身動きもとれない。そして、カプセルも電源が切られてしまったため、開けることすらできないのだ。


「ティンク?」

普段滅多に表に出てこない同居人が呼んだのだろうか、リーナはティンカーベルの名を呼んだ。

「よかった、リーナ。無事だったのですね。」

ティンクはリーナの反応に喜んだ。

「いったい、何がどうなっているの?」

リーナの問いにティンカーベルはあまりはっきりと答えられるほど情報を有しているわけではなかった。

「わかりません。誰かが機体ギアを使って、リーナをカプセルごと拉致したようです。」

「お兄ちゃんは?」

「わかりません。」

「そう。」


リーナはため息をついた。

「ティンク、外部との通信は、できそう?」

「いいえ、部屋の壁からは、恐らく電波が飛ばないように防護処理が施されています。また、リーナも試合中の不正防止のためにピアス(式ルーター)を外したままですので、外部との交信は不可能です。」


 そこにルイが部屋に入ってくる。ルイはカプセルの蓋を開ける。視界にいきなり光が入ったリーナは目が眩んだ。

幹部セフィラ知識ダァト。お迎えに上がりました。」

ルイは丁寧にリーナの拘束を解くと着替えを渡した。

「あなたはこの前の⋯⋯」

リーナは前回拉致されそうになった時のルイのことを覚えていた。

「ルイさん⋯⋯でしたよね。」

ルイは無表情に答える。

「ええ。」

「この間はごめんなさい。あなたのことを思い出せなくて。たしか、孤児院で一緒だったはずなのよね。」

しかし、ルイの答えはリーナの予想の範疇ではなかった。

「ええ。あなたが施設を出た後、私はフランクリン・バネットの養子になり、ルイ・リンカーン・バネットとなりました。」


(え⋯⋯?)

リーナはそのような話は初耳であった。フランクには奥さんとの間にニ男一女の三人の子供がいたのだ。養女を取ったという話は聞いたことがない。しかし、リーナはその事実との齟齬そごに食いつくべきではないと判断した。

「⋯⋯あなたのことはルイ、と呼べばいいのかしら?」

「ええ、そう呼んでいただいて差し支えはありません。幹部セフィラ。私は今。この組織では『ザ・タワー』と呼ばれる準幹部パスの一人です。」


先回、思い出せなかった自分に対して、物凄い形相を見せていたルイが今回はまるで落ち着いているのでリーナは拍子抜けしたが、その反面ホッとしていた。

「ごめんなさい。私がインストールされた時に、押し出されてしまったあなたの記憶の一部に彼女がいたのですね。」

ティンカーベルはリーナに恐縮した。


「彼らの狙いは私で間違いありません。彼らがずっと追ってきた物、銀河系航路図が私と共にあるからです。なんとかしないと。きっと、彼らも急いでいるはずです。警察や軍、そして凜様はリーナを取り戻そうとするはずです。そして、それまでに彼らは私をなんとしてでも手に入れようとしてくるはずです。」

ティンカーベルも焦りはするものの、できることはあまりない。


そして、リーナはルイたちによって幹部たちの元へ連れて来られた。

その部屋には長いテーブルが置かれており、そこに何人もの大人が座っていた。一番上座に座る男が口を開いた。

「初めてお目にかかる。私はこの『ノアの方舟』(シカリオンの正式な名)を主宰する『王冠ケテル』だ。ミス・メアリーナ・アシュリー。あなたの身に宿る精霊、ティンカーベルの助けを我々は必要としている。


あなたには2つの選択肢がある。一つは、あなたが我々の仲間となって、人類の救済に力を貸してくれる、ということだ。そうすれば我々はあなたを11番目の幹部セフィラとして迎えたい、そう願っている。そのためにはティンカーベルのデータを我々に提供して欲しいのだ。


それが嫌なら、ティンカーベルをあなたから抽出させてもらいたい。そうすればあなたはすぐに家に帰ることが出来るだろう。ただ、その場合、あなたの記憶は再び失われることになる。そう、あなたの敬愛する『お兄様』トリスタンの記憶もね。


あなたはどちらを選ぶのかね? 我々にはあまり時間が残されていない。すぐにお返事をいただきたい。」


リーナは首を振る。恐怖で身が竦んだ。

(どちらも⋯⋯いや。私はパパを裏切りたくない。お兄ちゃんも裏切りたくない。でも、大切なものも失いたくない。)

少女特有の潔癖さが彼女を突き動かしていた。しかし、ティンカーベルはリーナにささやく。

(リーナ。ここは大人しく従ったふりをしてください。時間を稼ぐのです。⋯⋯時間さえあれば。)


リーナは

「少し、考えさせてください。」

そう述べるに留めた。


「では、今だけは仲間と見なしてもよろしいのですな。幹部セフィラ知識ダァト』。我々はあなたを歓迎します。」

王冠ケテルは笑顔を浮かべた。



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