第69話:ロボすぎる、スポーツ。2


彼らがリーナにリンクすると初めて、そこにゼルが立っているのを見ることができたのである。

「あれ? この誰?」

「私はアザゼル、凜に宿る『有人格アプリ』です。わたしはずっとここにいました。皆さんの目に見えていなかっただけで。」

ゼルが自己紹介する。


「え? こんな感じになるの? これってホログラム映像?」

皆、興味津津でゼルの周りに群がる。ゼルに手を突っ込むものもいる。しかも手つきが怪しい。

「皆さん、『お触りはあきまへんでー』。」

ゼルは「化肉」(マーリンのように肉体を付けること)をしていないので、触ることはできない。

「ねえ、みんな。ゼルの外見より機能を見せてもらったほうがいいと思うよ。」

リーナに呆れたように言われ、皆ハッと気がついたようだ。


「嫌です。」

ゼルはあっさりと断る。

「私はチンドン屋じゃありません。この銀河系数多に存在する有人格アプリの最高傑作の一つなのです。それは、私の歌を聞いてもらえば理解わかります。」

そう言うと、背中からマイクを取り出す。慌てたマーリンと凛がゼルを抑えた。

「ゼル、ダメだよ〜。どうどう。」

「離してください。私の歌でみんなを黙らせてやるのです。」

ゼルはイヤイヤをする。

「うん、そうですね。あなたの歌だと(物理的な意味で)みんな沈黙しちゃいますから。凜、早く。」

マーリンがゼルを抑える。そして、凜を急かした。


「ええと、歌やダンスが得意な有人格アプリを出しますね。来たれ、ブエル!」

マーリンがゼルのマイマイクをとりあげている間に、凛はブエルを召喚する。

「むぐむむむ、むぐうぐー(私だって、歌は得意です)。」

マーリンに抵抗するゼル。

「でも、なぜマーリンさんはゼルを触れるのかしら?」

この状況で気がついたのはリーナだけである。


床に召喚陣が描かれると、ブエルは「ベティ・ブー◯」のチアリーディング扮装で現れたのだ。

 「前回、『赤パン裏声ネズミ』の扮装で味を占めやがりましたね。」

ゼルが毒付く。


「おお。」

ただ、観衆オーディエンスの反応は悪くは無かった。


「ブプッ・パ・ドゥップ」

得意のネタから入る。

「んふ、ブエルよぉ。今日は『一人チアリーディング』をやっちゃいます。ミュージック・スタート!、」


 そして、ブエルは5人のベティ・◯ープに分かれると、一階の実験場のマリオネットを動かし、一緒になってチアダンスを踊り始める。

  曲は、アブリ◯・◯ヴィーンの「ガールフレン◯」であった。ボンボンを振りながら、タワーを作ったり、ラインダンスを踊ったり、マリオネットに上に放り上げられたりとアクロバティックで見事な構成であった。

皆、大盛りであった。

「すごい、何が凄いって、 この作業をたった『一人』でやってのけるのが凄い。」

最後の決めポーズを終えると拍手喝采であった。


「とりあえず『らき☆す○』のオープニングで無くて良かった⋯⋯。」

凜のホッとしたところは間違っている、とマーリンはツッコミを入れようかどうか迷っていた。有人格アプリのデモに興奮気味の観衆に、

「そりゃそうです。一人で宇宙戦艦を稼働させることだってできますからね。」

ゼルは少し寂しそうに説明した。


「ねえ、ゼルのコピーとか取れないのかな?」

マシューの申し出にマーリンは直ぐに断った。

「残念ながら、それはできない相談です。一応、銀河連盟での譲渡禁止技術の一つですからね。それに、彼女のスペックは現在でも銀河系最高レベルなのです。地下の生体コンピューター程度では動かせませんよ。」


「そんなものか。」

マシュー・オズボーンは少し考えてから凜に提案した。

「ねえ、凜。うちのチームに来ないか?」


「え?」

あまりに意外な申し出に凜もマーリンも言葉を失う。

「いや、その、なんだ。凜はガイアとの友好を深めたいのだろう? スポーツで交流なんてとてもいいと思うんだ。今シーズンだけでいいから。⋯⋯キミからも有人格アプリの話も聞いてみたいし、ダメかな。」


「ゼル、色々問題がありそうだけど、どうなの?」

凜は思わずゼルに尋ねた。

「そうですね。とりあえず、今年は『祭り』のシーズンだけ確保できれば問題ありません。それこそ、プロチームですと問題になりますが、アマチュアの大学リーグであれば問題は無いのではないでしょうか。」

凜はあっさり断ってくると思っていたため、おや、と思ってしまった。


「リーナからもお願い。ねえ、いいでしょ?」

リーナに首をぎゅっと抱かれ、たわわな胸を背中に押し付けられると、凜も冷静な判断を欠きそうになってきた。


「そうだね。2、3試合くらいなら大丈夫⋯⋯じゃないのかな。考えさせてよ。」


「大学リーグはテレビ放送も入り、プロチームの試合並みに人気があるのは事実です。これを機にガイア諸国が求めて来た『交換留学生』の制度の設置に役立つと思います。」

ゼルの意見は妥当なものに思えた。



宿舎であるホテルにリーナを連れて戻ると、ロナルドとリズが娘を待っていた。

「今日のお兄ちゃん、超カッコよかったんだよ。」

リーナは録画してあった。動画を見せた。

「それでマシューが、お兄ちゃんにチームに入らないか、って誘ったんだよ。」

ロナルドは乗り気だった。

「「それ、すごく良いアイデアだね。凜、ぜひともトライして欲しい。これは何よりも良い宣伝になるよ。⋯⋯手続きなら心配ない、僕に任せてくれ。」

とんとん拍子であった。マーリンも苦笑を隠さない。

「どうやら裏口入学も出来そうですね。よかったですね、凜。」


こうして、2週間の訪問の予定を無事に終え、凜は再びガイアを後にした。

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