第68話:ロボすぎる、スポーツ。1
[新地球暦1841年2月10日 惑星ガイア]
[スフィア時間:星暦1552年4月25日]
(名門大学なのに、勝手に部外者とゲームなどしても問題は無いのでしょうか?)
ゼルが呆れたように言う。
(ただのトレーニングの一環のつもりだよ。まあ、ホントのところは、僕の無様さを露呈させて、スフィアの騎士など大したことがない、と言いたくて仕方がないだけなのだろうけどね。)
凜は相手の気持ちを代弁してやる。
(で、頼んでいたことは済んだかな?)
ゼルはにやりとする。
(色々調べましたが、ここは一つ意表をついて、旧世界(地球)で行われていた類似のスポーツ、アメリカン・フットボールの技を持ってきました。)
(ホントに意表をつくためなの?)
凜は意地悪そうに尋ねる。
(まあ、機械の動きを数値化するよりも、元となている人の動きをなぞった方が味わいがあります。⋯⋯ごめんなさい。やっぱり、私の趣味です。)
ミニ・ゲームと言っても、試合ではなく「インセプト・アンド・ラン」だ。
ロボフトのルールを簡単に説明すると、ラグビーのボールのような楕円形のボールを相手陣地に持ち込む、あるいはゴールバーの間にけり込む、というものである。
ラグビーと違うのは野球のようにオフェンスとディフェンスが分かれているところにある。
攻撃側は4回の
フィールドはセンターラインから両翼50mずつある。両端のエンドラインの両脇にさらにエンドゾーンとよばれる10mの区画があり、そこにボールを持って走り込む、あるいはパスをそこに投げて、味方がキャッチすれば「タッチダウン」として6点、その奥にあるゴールポストの上を投げたり蹴ったりしてボールを通過させれば3点である。
やはり、フォーメーションがしっかりあって、お互いの最前列同士がぶつかり合って、ボールキャリア(ボールを運ぶ人間)の走る道やパスコースを開けるか開けないかで争い、その後ろのグループがタックルでボールキャリアをとめたり、パスされたボールを
個人のランの素養を見るためなのか、ミニゲームは『インターセプト・ゲーム』である。インターセプトとは、この競技の見どころの一つで、オフェンス側のパスを横取り(インターセプト)した瞬間に攻守が一気に入れ替わる、というルールがあり、一発逆転のチャンスとなるのである。
「で、僕が勝ったら何かご褒美があるのかな?」
凜が尋ねるとマシューは笑いながら答えた。
「もう勝利が前提かい?」
「だって、その方がやる気が出るでしょ?」
「じゃあ、私たちの研究室にご案内!⋯⋯で、どう?」
リーナが手を挙げて提案する。
(それではあなた方へのご褒美にしかならないのでは?)
ゼルは不満そうだ。
「では、それで。」
凜が構える。
「レディ、ゴー。」
オズボーンがボールを自陣10mラインにいる凛に向かってボールを
凛がボールをキャッチして着地すると、ディフェンスは次々と凛にタックルを試みる。ボールキャリアのオフェンス選手は相手を『掴む』ことができないため、押す、払う、避けるといった行動で前進しなければならない。
『ベル・スター』は一気に加速する。最初の二人をステップのフェイントで躱す。
次は第二のラインの
「捕まえ……あれ?」
タックルをするりと抜けた凜の
笛が吹かれてミニゲームはあっという間に終了した。
驚きのあまり、操者たちはみなヘッドセットを上に上げた。今見たことを信じられない、と言わんばかりだ。
「まあ、私たちも槍や剣の斬撃をかいくぐるからねえ。当たっても死なない程度のぬるい攻撃くらいでは、今ひとつ恐怖心はわきませんね。」
マーリンが澄ました顔で言う。
(良くいいますね。いつも
ゼルがマーリンに皮肉を言う。
「確かに、どの競技にも共通するものはあるよね。」
オズボーンの言葉はほぼ負け惜しみに近かった。
「どう、私のお兄ちゃんはすごいでしょう? だって、わたしの
リーナは凜の腕に絡みついた。その顔は誇らしげである。正直、オズボーンは少しいらっとした。
「よし、もう一ゲームお相手してもらえないかな? 今度は膝下タックルもありで。」
膝下タックルとは、膝より下の部分に対する低姿勢のタックルである。危険な技だが、所詮はロボット同士である。
「OK。こちらも少し加減が分ってきたようだし、手加減は不要ですよ。」
凜は快諾する。心配そうに見つめるリーナにゼルは言った。
「何度試しても良いですが、結果は変わらないと思います。というより、経験を積めば積むだけ凜の動きは良くなるだけですから。」
ゼルの言葉通り、2ゲーム目、3ゲーム目、いずれも凜の突進を止めることはできなかった。
「くそう、ヌルヌルとにげやがって。」
自分が走る訳ではないので体力的に疲れることはないのだが、走る感覚が伝わってくるため、思いのほか体力を消耗した。おそらくはまさに頭を使うスポーツなので、頭が疲れるのであろう。
「お兄ちゃん、ご褒美に私の研究室を案内するね。」
リーナは凜の手を引いて案内する。
「信じられない。初見であんなに動かせるものなのか?」
チームメイトたちは不承不承で付いて来た。行先が同じなので凜が不思議がって尋ねた。
「みなさんも同じ研究室なんですか?」
「ああ、そうだよ。ボクらは選手として練習している他は、こっちの研究室で、有人格アプリの開発に協力しているのさ。」
しかし、さすがに同僚でも、国家機密である「ティンカーベル」の存在は知らされていないようだ。人差し指を唇に当て、リーナがウインクした。
(ティンクのことは黙っててね、お兄ちゃん。)
研究室は凜が想像していたものよりもずっと立派で大きいものだった。地上2階、地下1階の建物で、地下には実証用の生体コンピュータが、1階は実験施設、2階は研究室になっていた。
「これはまた、随分と立派だね。」
凛が褒めると、
「そりゃそうさ。この技術を真っ先に手にする国が、この惑星の次の
マシューは胸を張った。
「それで、やっぱり凜の中には、いるんだろ? その有人格アプリが?」
みんながそれを聞きたいようであった。
「やはり、バレていましたか?」
マーリンが答えると、
「そりゃそうさ。普通の人間が初見で
彼女がここに入学した早晩、この研究室に入ったのは、彼女が有人格アプリの所有者と接触した経験がある、ということだったからね。つまり、その該当者がキミしかいないんだよ、凜。」
「それはご明察。」
凜はマシューの頭のキレの良さに脱帽した。なるほど、知力と体力の二つを兼ね備えていないと難しいと言われるロボフトでも要のクオーターバックを張っているだけのことはある。
「じゃあ、メイン・ゲストを紹介しなきゃ、だね。みんな、リーナと
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