第18話:傲慢すぎる、少年。

再び [星暦1549年12月8日:王都キャメロット、ティンタジェル城内、執政官コンスル執務室]


ハワードは自分の前に悠然と立つ祭司を一瞥し、

「ふん」

とだけ吐き捨てた。


「日時は一週間後となります。正統十二騎士団(アポストル)の全ての団長に同じように、こちらに集合するよう勅命が出ているのです。」


ティンタジェル城はどこの騎士団のものでもない。王都の中心にあるこの王城はすべての地球人種テラノイドの統合の象徴である。それで、この城を管理するのは『神殿ベテル』と呼ばれる地球教の聖職者たちなのである。


「何の集まりだというのだ。要件をここで言いたまえ。」

ハワードは続ける。ハワード卿がイライラするのも、実はもっともなことなのだ。彼は「士師ジャッジ」になりたかったのに、その請願を国王に却下されたばかりだったのだ。


「いえ、それをお伝えするのが『使者』のお役目ですゆえ、それがしには何一つとして知らされてはおりません。ご了承ください。閣下。」

祭司も厄介だな、とい表情を見せぬよう必死に不満をかみ殺そうとしていた。


士師ジャッジ」というのはスフィア王国の最高の軍事指導者のことを指す。普通、軍の最高司令官は大統領や国王、といった実際に戦場には行かない、いわゆる『文民』がなるのだが、この国は国王がコンピュータの「中の人」なので、誰か生身の人間がそれを代行しなければならない。それゆえ、士師の地位につく者は絶対的な名誉と権力を手にすることになるのである。


執政官として満期となる2期、10年目を終えようとしているハワード卿は、士師として退役したかったのだが、陛下はその願いを退けてしまったのだ。

「士師は血の罪を背負いし者の罪業(号)である。平和に務めを終えられることこそ、汝の執政官としての軍政の成功の証である。あなたは誇っていいのです。」

陛下の仰りようはごもっとも過ぎて、彼には受け入れ難いものだったようだ。


「人のささやかな願いは聞かぬというに、何でも勅命を振りかざすとは。国王だからなんだというのだ。」

まあ、なんだ、と言われても国王は国王なのだ。


[星暦1549年12月15日:王都キャメロットへ向かう軌道シャトル内]


「どしたの、マーリン、難しい顔をして?」


 凜が聞いてくる。彼の名は「棗凛太朗=トリスタン」。真の円卓の、その中でも四天の一人。「最強の騎士」と言われる者である。


「どうせエロいことに決まってる。」

唐突に凛の傍に美少女が現れる。つややかなロングの髪は腰のあたりまでとどいている。真っ白な肌に、つぶらな瞳、細く、すらりと伸びた手足、見事なプロポーションである。


彼女の唯一の弱点と言ったら……、そう、人間ではないことぐらいか。


「ゼル、マーリンに性欲はないんだよ。その……」

凜がマーリンをフォローする。


「わかりました、インポテンツなのですね。」

彼女は「アザゼル」、有人格アプリで、凛の脳内にインストールされている。彼女はゴメル人の叡智の幾らかを司る最重要アプリの一つである。仲間内ではは愛称の「ゼル」と呼ばれている。


「女の子がそんなことを言うものではありません。……私は」

私は真顔で下品なことを言う彼女をたしなめようとすると凛も加わる。

「そうだよゼル、そういう時はED (勃起不全)って言うんだよ。」


「それも見当違いです。天使の身体にそういうものは必要ないのです。だいたい、天使の堕天の第一歩は女人にょにんに対する誤った興味から始まるのです。黙示録でも天軍の三分の一は堕天したとありますようにですね。」


マーリンの回りくどい説明にいら立ったのか、彼女は意地悪そうに片側の口角を上げながら言う。

「わかりました、マーリン。あなたのこと、今日からエディ(EDy)と呼ぶことにします。」

「はあ」

マーリンは深くため息をついた。


さて、終点(地表)が近づき、シャトルの減速が始まる。そう、ここからは仕事の時間である。



[星暦1538年12月15日:王都キャメロット、ティンタジェル城内、円卓の間]


およそ2000年ほど昔、人類が地球から35光年離れたこの惑星に辿りつき、テラフォーミングを行い始めた。スフィアはそれ以降、人類の第2の故郷となっているだ。


惑星への植民が始まり、西暦が星暦に代えられて早くも1500年以上がすぎたのだ。


(後世の歴史家が今の時代に名を付けるとすれば「騎士団時代」とでも付けるのだろうか。)

 ラドラー・セルバンテス・ラザフォードは円卓に面するフカフカの椅子に今一度身を沈め、天井を仰ぎながら、ふと考えた。

天井には国王アーサーと彼を支える騎士たちのフレスコ画が描かれている。このフレスコ画に自分の姿を描き加えてもらうこと、それが武人の最高の名誉である、と言われているようだ。


(会議は嫌いだが、この椅子の座り心地は悪く無い。権力者、という意味でも実際の感触という意味でもな。)


彼は今、「円卓」の会議に出るよう勅命を受け、ここに来た騎士団長の一人である。でも、予定の時刻は過ぎたものの、人が揃わないのか会議は始まっておらず、メイド服に身を纏った神殿の女官たちがティーカップに香り高い紅茶を注いでくれている。


(ちっ、予定の時間にはなったが、まだ会議は始まりそうにはない。もしここがフェニキアなら代議員はとっくにクビだな。)


ラドラー卿は舌打ちをする。商人の家系に生まれた彼にとって、時間を守ることは『最低条件』であって『美徳』では無い。ただ、武人たちの中には、あまり時間に固執しない面々が多く、やや苛立たされることがあるのだ。そして、人を待たせるここそが偉くなった証だ、と思っている節があるのを彼は不快に感じている。


「ねえ、キミ、実はわたしはコーヒー派なのだが、用意はされていないのかね?されているとありがたいのだが。」

ラドラー卿が尋ねると女官は

「ございます。ただいまお持ちしますね。」

快く替えてくれた。ただ、どこからか取り寄せたものらしく、ポットに入ったものだったのだが。


この王宮では紅茶がメインであって、コーヒーはそれほど地位が高い訳ではない。


「円卓」とはスフィア王国 に存在する108の騎士団の内、歴史、重要性、規模が秀でた12の騎士団による会議である。それらの騎士団は「正統十二騎士団」、キリストの十二使徒に倣い「使徒」を意味する「アポストル」と呼ばれている。

ラドラーはその一つである「伝令使杖カドゥケウス騎士団」の団長である。

 

騎士団は惑星の地球人種を治める統一政府であるスフィア王国にあって、最も重要な社会単位の一つであるといえる。

それは、単に国防を司るに止まらない。10億を超えたばかりの人類全部を治めるには一つの政府では目も手も届かないのである。それをカバーするための自治組織でもある。


つまりその長であることは、いわば一国の主、とも言える立場なのだ。


「うむ、美味いコーヒーだね。君が淹れたの?」

ラドラー卿は香り高いコーヒーの味に驚いた。通の彼にとって、淹れ立てでない、と言うだけでも減点なのだが、それをカバーして有り余る技術を感じたようだ。


白磁のように真っ白な肌と髪を持ち、紅い瞳をしたラドラーにはまさにミステリアスな魅力がある。

ハンサムなラドラー卿に褒められた女官は顔を赤らめる。

「いえ、近くのカフェから取り寄せたものですわ、閣下。」

女官の答えに彼は少し身を乗り出す。

「ほう。今度そのお店を教えてもらおうかな。個人的にね。」


突然、彼は後ろから肩をたたかれ、ビクン、となった。

「ラドラー卿、王宮内でナンパとはお盛んですな。しかも、神殿に使える女官に手を出されるとは、いやはや。」


彼に声をかけたのは不知火透しらぬい・とおる卿、医師や看護師を含む医療従事者を育成する「聖槍ロンゴミアント騎士団」の団長である。彼の母親も同じスフィアに住む別の異星人、ヌーぜリアル人の女性が母親であった。ヌーぜリアル人はその風貌から「エルフ族」と呼ばれており、彼の耳も少し長く、尖っている。


二人は異星人ハーフ同士、仲が良いようだ。

「ナンパじゃありませんよ。きちんと口説いていますから。」

ラドラー卿も否定せず、むしろ乗っかって来る。二人は歳も近いせいもあり、割と馬が合うのだろう。ただ、二人ともも妻帯者であるため、この場合、いささか倫理的に問題がある冗談ではある。


「冗談はさておいて、『王からの使者』ということであるが、何があったのでしょうな?」

座席はほぼ埋まり、二人も自分の座席に戻る。私語はまだ許されているし、左眼の義眼に仕込まれた通信システム「プライベート・ライン」を繋げば、無音声で話もできる。

「さあ、もしかするとキミの予算の使い込みでもばれたかもしれませんよ。」

ラドラーが反撃すると、透もまた冗談で答えます。


「それなら、きっその使者は『私の妻』でしょうな」

上手い。つい「山田くん」を呼びたくなるオチがついたところで会議は始まった。


会議を主宰するのは「執政官コンスル」である。


スフィアの支配システムは非常に独特ユニークであった。一般の施政に関しては王が全て権限を行使するが、軍事に関しては、戦争の開戦・終戦権以外は、ほぼ「人間」に任されているのだ。


「人間」、と区切るには訳がある。スフィアを治める国王「アーサー67世・ペンドラゴン」は人間ではなく、生体型スーパーコンピュータの主人格メインパーソナリティなのだ。

ちなみに、67世となっているが67「台」目なのではなく、アップデートされたOSのバージョンが67「代」目なのである。


 今の執政官は「護法アストレア騎士団」の団長ハワード・テイラー卿である。警察業務を担う騎士団らしく、法と正義の守護者、という感じの初老の男であり、彼のような古参ベテランからすれば、ラドラー卿も透卿も若手に過ぎない。そして、若手にとっては皆、彼が苦手なのだ。


「校長、なんか難しい顔をしているな。」

お二人はハワード卿のことを「校長」と呼んでいた。


彼の「実直」を絵に描いたような風貌もさることながら、「円卓」が開催される度に、二人は彼の前に呼び出され、騎士たるはなんとやらをこんこんと説教されるのだ。


二人ともすでに30代であり、それなりに経験を積んでいるわけで、好きにさせておけば良いのだろう。しかし、歳を取る、ということはそれが許せなくなることらしい。


「ただいま国王陛下の使者がお出ましになります。」

国王「本体」を護持する施設、『神殿』の「祭司」が声を上げる。


そう、凜とマーリンの出番である。


円卓の間を閉ざしている重い金属製の扉が左右に開く。ラドラー卿も透卿も含め、皆、息を飲んで「王の使者」の登場を見守っている。そこに現れたのは身長は2mを超えるであろう長身の男性と、その胸あたりの高さしかない少年だった。


長身の男性は黒い髪を肩まで伸ばし、黒いマントで身を包み、宝杖をてにしていた。その目は金色に輝き、まさに眉目秀麗という容貌であった。一方少年は神殿の少年聖歌隊が着るような真っ白な聖衣を身にまとっており、亜麻色の髪に黒い瞳をしていた。年のころは14,5歳にしか見えず、「あどけない」と言って差し支えないほどであった。


「こども?」

 円卓の間に同様の波動が走り抜ける。確かに子供である。ただ、長身の男の方が使者で、少年が侍従である可能性もある。しかし、中央に少年が立ち、斜め後ろに男が立っているのを見ると、少年が「主」で男の方が「従」である可能性が高いだろう。


「やっぱり凜か。こうして見ると、うちの娘とあまり歳が違わなそうだな。」

ラドラー卿がプライベートラインで透卿に話しかけた。


「婿にでもするつもりか?」

透卿の冗談にラドラー卿はキッとした表情で彼を睨みつけた。

「娘は嫁になどやらん。」


(親バカめ……)

透卿は呆れつつもツッコミは忘れない。

「だから『貰う』んだろ? 婿に。」


ハワード卿は心底見くびった目で少年を見ると意地悪そうに言った。

「今日は、新しい聖歌でも披露してくれるのかな、坊や。」


凜はにっこり笑うと答える。

「最近、声代わりを済ませましてね。残念ながらもう裏声ファルセットは出せそうもないのです。」


凜はそう言ってから真っ直ぐ進み、皆が座る円卓テーブルまでやって来ると、ためらうことなく空いている席に座る。長身の男はその後ろに立っていた。


「坊や、その席は『空席」と決まっているのだが。」

誰の許可をも取らず、我が物顏で着席した無礼を詰るように、ハワード卿は口を開く。

 行儀悪く少年はテーブルに両肘をついてハワードの目を真っ直ぐに見つめていた。黙りこくった彼の代わりに後ろの男が答えた。


「もちろん、存じ上げております。ハワード卿。そして、この席に座すことが何を意味するかもです。」

男は丸テーブルに集まった諸侯を一度見やった。皆の関心が集まるまで待ってから口を開いた。

「私はゲイブ・マーリン。宮廷魔導師にて最高顧問、王の友であるものです。そして、この者は棗凛太朗=トリスタン。円卓の騎士にて、最強の騎士もののふです。」


諸侯の間にざわめきが起こる。諸侯だけではない。ともに入室していた武官たちや騎士団関係者の間にも騒めきの波紋が広がっていった。

「静粛に。」

ハワードの一言で再び部屋に緊張の沈黙がみなぎった。


 皆がざわめくのも無理もない。一つは、少年の名が「棗凛太朗=トリスタン」と紹介されたことにある。

そしてもう一つは、マーリンが彼を「最強の騎士」と呼んだことにあった。

 誰が「最強」であるのか、騎士の間ではこれは極めてデリケートでナイーブな問題であり、場合によっては刃傷沙汰にもなりかねないほど議論がヒートアップすることさえあり、初対面の騎士同士では避けるべき話題の筆頭格にあたるからだ。


 「マーリン卿、貴卿は(出席者のために)ここに出された飲み物が(アルコール入りの)ロシアン・ティーで無かったことに感謝すべきだな。」

そう言ってハワードは苦笑いを浮かべた。

(神殿め、何かの嫌がらせだろうか?)

ハワードの感じる不快さをよそに、少年はやや愉快そうに状況を見つめていた。


「私がこの『十三席』に座すことが何を意味するのか、お聞きにならないのですか?」

少年が口を開いた。


「その前にまず自己紹介の方が先だろう、少年。」

透卿がツッコミを入れた。

少年は透卿を見ると微笑みました。


「確かにその通りですね。失念していました。そうですね、……印籠でもだしましょうか?」

少年はにやりとした。

「凜、印籠というものはな、本人は出さないものだ。それは『角さん』の仕事だ。」

透卿もなかなか芸の細かいツッコミを入れた。


少年は再び立ち上がると、今度はつかつかと円卓の上座の方へ歩みを進める。上座であるハワードの席を通り過ぎると、いつもは閉ざされている王座の間の垂れ幕を無遠慮に開けた。


「……!!」

皆、何が始まろうとしているのか、興味しんしんのようだ。

そこには大きな台座が据えてあり、一振りの刀と、弓が突きたてられていた。

 その台座には青銅の銘板がはめ込まれており、そこには


『この剣、そしてこの弓を手にする者。その者は余の代理人である。全軍は彼に服し、その指揮に従い、自分の最善を尽くすべし。』

と刻まれていた。


皆が固唾を飲んでこの様子を見守っている。これまで、つまり今から500年以上も昔、人類を奴隷状態から救い、救国卿ロード・セイバーと称された「士師(ジャッジ)」、不知火尊が彼の宝具レガリア、「司令者の杖」をそこに突き立ててからこの方、誰もその台座から武器を抜き出すことは出来なかったからだ。


「ほう……確かに宝具レガリアを抜くことができれば本物なのかもしれないな。」

他の団長も騒めきだした。


「なぜだ?」

 透卿がラドラー卿に理由を尋ねる。興を削がれたラドラー卿は面倒くさそうに答えた。

接続リンカーランクだよ。キング・アーサーシステムを使役出来る容量の上限は持っている役職や責任によって変わる。子供はレベル1、大人はレベル2、騎士はレベル5、団長クラスはレベル7、執政官はレベル8、そして士師はレベル9だ。そして、そのランクは王の認可によって決まる。」


透卿は理解した。

「なるほど、あの宝具レガリアはレベル9じゃないと反応しないわけか。」


少年は弓に手をかける。その弓は黒く輝きだした。そして、ゆっくりとそれを引き抜く。少年は弓の弦を弾き、具合を確かめた。

「魔弓『空前絶後フェイルノート』です。あるいは『不落不逸アッキヌフォート』とも呼ばれます。これはトリスタンの名を負う私の代名詞と言っていいでしょう。」


(マジかよ……)

皆、信じられない、と言わんばかりの面持ちでその光景を見つめていた。


そして、今度は右手を刀にかけた。その刀身は鈍い光を放つ。少年はゆっくりと刀を引き抜いた。それは部屋の照明を浴び白く光輝く。


「聖剣『慈愛コルタナ』です。ただ、私に合わせて片刃に打ち変えられています。今は『天衣無縫ドレッドノート』と呼んでいます。」

二つの武具は小さな箱型デバイスに姿を変えると、彼の手に収まった。


そして、この光景に言葉を失った面々に口を開いた。

「お初にお目にかかります。棗凛太朗=トリスタンです。ご覧の通り、士師の証たる宝具レガリアはここにあります。私は国王の全権代理たる士師として陛下によって任命されました。以後、お見知りおき願います。」


少年、凛が席に戻った。皆、絶句したままだった。


「その、君は十三番めの席に座る者は呪われる、そうあるのを知らないのか?」

次期執政官であることが決まっている、黙示録騎士団の団長マッツォ・フィーバー・メンデルスゾーンが尋ねる。


(ようやく『教頭」のお出ましか)

年が明ければ執政官コンスルに就任するはずの彼も困惑していたにちがいない。


それで凛の代わりにマーリンがは口を挟む。

「そうです。それはその者に資格が無い場合です。凛太朗はそのしるしとして宝剣(レガリア)を抜いて見せました。

問題はありません。それより問題なのは、この国に危機が迫っているからこそ、彼がここに遣わされたのです。」


しかし、返って来たのは意外な、いや想定内の範囲のものだった。

「断る。」

ハワード卿の返答はにべもないものだった。


「我々騎士団、いや正統十二騎士団(アポストル)はこれまで5世紀に亘り、この国の安寧に奉仕し、守護して来た。どんな困難が訪れようと我らに克てぬ試練などない。今更、熾天使セラフどもにおもねる必要があろうか?」


(校長、どうするつもりなんだ。とりあえずその危機とやらについて聞かないのか)

皆、ハワード卿の威勢に驚嘆を隠せない。士師と言えば、非常時に王の「全権代理」を託される人物である。それに真っ向から抗うとは。


しかし、凛は怒ることもなく、パチパチと拍手をする。ただ、やや間の空いた拍手は賞賛とも取れるし、挑発とも取れるかもしない。


「さすがです。かつて『怠惰』の罪過によってアマレクの奴隷と身を堕とした時代の人類とは比べるべくもありませんね。すばらしい気骨、そして矜持をお持ちです。かつての大士師、不知火尊の蒔いた自立の種はこうして皆さんの中で立派な葉を茂らせ、実を豊かに生み出す巨木となったわけです。


さて、きっと皆さんは私の実力に疑問をお持ちなのでしょうね。」


(そりゃそうだ。)

透卿は心の中で呟きます。目の前に居るのは、やっと毛が生え揃った程度の、年端もいかない「ガキ」なのだ。

(前世の記憶かどうかは知らないが、歴戦の強者どものひしめく騎士の中で、こいつに命をあずけたいなどと思う者はいないはずだ。)

凛は今一度円卓を見回す。


「一応、時間はまだ残されています。5年の間、みなさんに地球人種テラノイドを預けることにしましょう。そして、次回の選挙大戦コンクラーベに私も出ましょう。わたしが今御厄介になっている聖槍騎士団からね。私が勝てば執政官コンスルです。そうなれば何も問題はありません。


ただ、それまでの間、私は士師として周辺国家との交渉や調整を行わなければなりません。その邪魔をなさる場合、容赦なく対応させていただくことになります。」


「いったい、何が起こるというのだ?」

その問いに対する凜の答えに一同は凍りつく。


「メテオ・インパクトです。」

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