第4話 危険すぎる、積み荷。

[星暦1549年4月4日]


「透卿、本日はわざわざのお迎え、感謝申し上げる。」

少女は利発そうな笑顔で不知火透に頭を下げた。


「メグ、選挙大戦コンクラーベの予選は見ていかなくて本当に良かったのかい?」


メグと呼ばれた少女は頭を下げた時の拍子に少しだけ乱れた長い髪をかきあげる。

すると細長い耳が顔の両脇からピョンと現れた。


「はい。まだ予選も始まったばかりですし、注目すべき試合カードもありませんので。」

まだ少女の割にしっかりとした返答に透は感心した。


「まあ、君の出番は夏から始まる本戦の一次リーグからだから、まだまだ、先だったね。」

透も、眼前に広がるモニターに映る雲の海をみつめたまま答えた。


今、二人が乗っている飛空挺は「赤兎馬せきとば」。全長80mの中型の飛空挺「ラムゼイ級」の船である。

  飛空挺の機体の両サイドには、槍とユニコーンがあしらわれた紋章(エンブレム)がつけられており、この飛空挺が「正統十二騎士団アポストル」の一つ、「聖槍ロンゴミアント騎士団」所属であることを示している。


  飛空挺は主都グラストンベリーから騎士団本部のある聖都アヴァロンへの帰途の途中であったが、透の従姉妹(母の兄の娘)にあたるメグことマグダレーナ・エンデヴェールを同乗させたのである。


メグは騎士団に一時休暇を取り、透の母である彼女の叔母やいとこたちを訪問することを望んでいたのである。


「しかし、メグ、しばらく見ないうちにすっかり逞しく……なんてレディに言ってはいけないね。大人っぽくなったね。最近、騎士団の様子はどう?」

まだ自分の娘は思春期に達していないため、年頃の娘に接するのに、透は若干、おっかなびっくりであったが、なんとかコミュニケーションをとろうと試みていた。


 メグは女性だけで構成される騎士団、ヴァルキュリア女子修道騎士会の正騎士なのである。

普通は満15歳にならないと正騎士に叙任されることはないが、彼女は既に13歳になる直前で叙任され、選挙大戦コンクラーベ)の出場資格である「人位」の資格も今年の初め、弱冠14歳で取得した才女なのである。


「ええ、団長先生マムがグレイスになってからは、ずいぶんと風通しが良くなった、っていわれてますわ。」

「さすが、『GTR』は伊達じゃないな。」

GTR とは、ヴァルキュリア女子修道騎士会の騎士団長に今年登用されたばかりの

グレイス・トワイライト・レイノルズのことで、この男とは旧知の仲であった。


「その略称、グレイスはめちゃくちゃ嫌がりますよ。」

メグは苦笑した。この男ー聖槍ロンゴミアント騎士団団長、不知火透しらぬい・とおるーは少壮の男で、上天位を持つ騎士ではあるが、その腕はからきし、である。というのも、彼の本業は医療騎士(医師)であり、医学者として、この惑星の最高峰の医療研究機関でもある聖槍騎士団の長になったのだ。


「いやあ、あいつは若かりし頃、マジで女傑だったからな。俺たちの世代は彼女のことをみんなそう呼んだのさ。もちろん、『畏敬』をこめてね。しかし、下手すればそのうちに女性初の執政官コンスルにすらなるかもしれんな。」

透も苦笑しながら言った。きっとグレイスは時ならぬくしゃみなどしているかもしれない。


「多分、狙ってますよ。この次の選挙大戦コンクラーベは。」

「そうだな、メグが騎士として順調に成長してくれれば、あながち夢物語とは言えなくなるかもしれんな。5年後の選挙大戦コンクラーベは間違いなく君が主将だな。」


「あのう?」

ブリッジに長身の男が現れた。

「どうしました? マーリン卿。」

マーリンと呼ばれた男は、飛空艇がアヴァロン空港のどのウイングに着くのか知りたかったようだ。

しかし、接舷直前に管制の指示を受けるまで分からない、と告げると、残念そうに立ち去っていった。

2mを超えるであろうその長身は、広めの船内であるがきわめて窮屈そうにも見える。


「あの方は?」

メグが少し気になって尋ねた。


「ああ、国王陛下の『荷物』の番人さ。」

透の奇妙な答えにメグは聞き返す。

「荷物?」

「ああ、陛下直々の極秘任務でね。医療騎士団であるうちでしか出来ない任務なんだ。」

「はあ。」


「見たいか?……その『荷物』。」

「極秘」といいながら矛盾極まりない言葉に、メグは戸惑いと好奇心のないまぜになった表情で答えた。

「ええ、まあ」

いいのかなあ、そう思いつつも透に伴われ、船底にある貨物エリアへと降りていく。

パーテーションで仮設の部屋で仕切られている中に、その「荷物」はあった。


「男の子……?」

カプセルがその中に安置してあり、そのオレンジ色の小窓から、自分と同じ歳の頃の少年と思われる顔が

覗いていた。


「聞いて驚くなよ。これがかの最強の天使(グリゴリ)、熾天使(セラフ)……らしい。」

「どういうこと?」

メグは困惑する。それもそのはず、この惑星スフィアでは、天使(グリゴリ)とは、兵器なのである。

9つの位階(ヒエラルキー)があり、多くは武器と重力子バリアの複合兵器であるが、位階が上がるに連れて巨大化していくのである。


宇宙戦艦である座天使スローンズまでは一般に知られているが、その上の智天使ケルビムや、最上位の熾天使セラフに至っては、その存在すら謎に包まれており、おそらく、国王アーサーの眷属ハイ・エンダ―である「円卓の騎士」がそれに当たるのだろう、と言われている。


熾天使セラフを与えられた最後の人間は、透の遠い先祖である不知火尊しらぬい・たける=パーシヴァルであり、それも、かれこれ500年以上も昔の話なのだ。


「正直、俺もよく分からないんだ。歳の頃は君と同じくらいに見えるがね、僅か1年たらずで培養した、という身体らしい。しかし、とてもそうは見えない出来栄えでね。

それで、今から、また騎士団ウチに連れかえって『接続』の確認と『調整』を施さなきゃならん。」


聖槍騎士団は幹細胞の培養による臓器移植医療に長けており、それが、戦死者の減少や人類の平均寿命の伸長に大いに寄与してきたのである。


「まあ、オリジナルは脳だけで、それ以外が全て培養クローンってのは俺も初めてなんでね。うまく行くのかどうか……。」

医療のことになると急に少年のように目を輝かせる従兄に、メグは思わず微笑んでしまった。


その時だった。ガシャーン、という金属が引きちぎられるような激しい音がして、飛空挺の機体が

激しく振動した。その衝撃で二人は壁に叩きつけられた。メグは咄嗟に受け身をとって事無きを得たが、

武道の心得は皆無に近い透はその衝撃で失神してしまった。


透を呼ぶ艇内放送が流される。メグは壁にかかった通信用の受話器を取った。

「わたしはマグダレーナ・エンデヴェールだ。不知火団長は気を失われた。頭を打たれた可能性がある。以後私が指揮を引き継ぐ。至急、医療班をここへ。


ブリッジ、状況を分かる限りで良い、報告していただきたい。」


メグがブリッジに連絡すると、医療班がかけつけ、気を失った透に応急処置を施す。

幸い、目立った外傷はないようだ。

ただ、打ったところがところだけに、大事をとって安静にするため、担架に固定される。


「メグ様、どうやら何者かによる襲撃のようです。レーダーに複数の能天使エクスアイが確認されています。被害状況は軽微ですが、重力制御ユニットを狙われているようで、予断は許されません。」

「そうか、ひきつづき第一種戦闘態勢、全員定められた配置につけ。」

メグは信じられない、という顔をする。今は、80年前の小競り合いを最後に、同じ惑星スフィアに住む

アマレク星人とは「戦争未満」という意味では平和な関係を維持している。いったい、どこの誰が攻撃するというのだ。


 しかも、「赤兎馬」は医療艇であり、大きな火力を持った兵器は搭載していない。国際法上、攻撃してはいけない、とされている船である。ただ、医療艇をかたって、麻薬の密輸や人身売買といった犯罪を犯す者もいないわけでは無い。それ故、求められれば臨検を受ける義務を持つが、正統十二騎士団アポストルの騎士団長に関しては特権としてそれを拒否する権利を持っている。


能天使エクスアイに対して通信回路を開け。この紋章エンブレムが目に入らぬのか。臨検を受けるいわれはないぞ。」

しかも、国王の極秘任務を受けているため、臨検などなおさら受ける訳にはいかない。


「通告いたします。」

通信回路を開き、対話に応じたのは3機編隊の能天使エクスアイである。超音速飛行できる空戦に特化された大型の天使である。いずれ、メグも騎士団で同様の機体が割り当てられるはずである。


モニターに現れたパイロットの顔が歪む。

(まるで操り人形のようだな……。)

ブリッジに戻ったメグは、モニターに映ったパイロットの顔に違和感を覚えた。

「貴艇には違法な危険物が積まれています。それをお引き渡しいただきたい。」


「お勤めご苦労なことだ。……だが、断る。」

メグは即答した。

「当艇には当該する危険物などを積載してはおらぬ。なお、当艇は聖槍騎士団団長、不知火透の座艇である。いかなる臨検にも応じかねる。そして、まず、貴卿らの所属を明らかにせよ。私はマグダレーナ・エンデヴェール。ヌーゼリアル王国王太子、シモーヌハダゾエル・エンデヴェールの第一王女である。場合によっては国際問題になりかねない。それを心せよ。」


 機体のカラーリングから彼らの所属は「黙示録アポカリプス騎士団」の「黒馬の旅団」であることが分かる。


特殊戦闘技術に特化した騎士団である「黙示録騎士団」。

その中でも「黒馬の旅団」は諜報・暗殺技術に特化された旅団(部隊)で、俗に「ニンジャ」と呼ばれている集団である。


「卿らも正統十二騎士団アポストルの騎士ではないか。どこぞの田舎騎士団ではあるまいに、この暴挙、言い開きのしようもないぞ。今なら非礼を問わぬ。即刻、ここを立ち去られよ。」

メグも気色ばんだ。ここで引き退る訳にはいかない。しかし、それはあちらも同様だった。


「お嬢さん、これは『警告』ではない。『通告』である。受け入れないにのであれば撃墜もやむを得ません。」


通信が切れると能天使エクスアイは散開し、攻撃態勢に入る。

「エンジン出力全開、奴らを振りきれるか? 機関長。」


「メグ様、先程の被弾で、エンジンの機能が低下しています。その上、重力制御装置をやられでもしたら墜落してしまいます。」

機関長の悲痛な報告にメグは眉を顰(ひそ)める。どうしたらいい? みんなの命を守り、国王の任務を果たすには。


ドーン、という音と衝撃が艇内を襲った。メグは柱につかまって堪える。高度計は徐々に高度が下がって

いることを示し、床が前後左右に傾く。もう何かにつかまってでもいなければ

立っていられないほどだ。


「メグ様、重力制御装置に攻撃です。姿勢、高度、共に保持不能です。」

重力制御装置は飛空挺の浮上を保つために不可欠な装置である。本来その位置は軍事機密であるはずだが、同じ機体を使う同邦の騎士団に攻撃されてしまえば、弱点は明らかであった。


そこに、先程の長身の男がブリッジに上がってきた。床が傾いているのに、少しも妨げられることなく

歩いてきた。


「あなたは、積荷の……?」

メグが驚く。

「ゲイブ・マーリンと申します。宮廷魔導師です。」

「ゲイブ・マーリン? 宮廷魔導士?」

 

 メグは聞き慣れていたその名前が何を意味するのか、咄嗟には出てこなかった。キング・アーサーシステムという全スフィアを統治するクラウド・コンピューティングシステム。その膨大な情報のいずこにか存在するその統合人格キング・アーサー。その住まいを王城ティル・ナ・ノーグと呼ばれるがそこにアーサーや円卓の騎士たちとともに住み、彼らを輔弼する存在。まさにおとぎ話だ。


「この機体の高度は私が保ちます。お手数ですが、『凛』を起こして来てくださいませんか?」

マーリンはメグに鍵を渡す。

「これは?」

「積荷の入ったカプセルの鍵です。それを開けて、積荷にキスをしてください。そうすれば彼は起動します。」


「キス?」

メグはびっくりして聞き返す。「女子修道騎士会」に7歳から在籍するメグにとって男というものはこれまで全くもって無縁の存在であった。


「ええ、なるべく優しく。」

マーリンが杖を持って手を広げると機体の降下が止まった。

「キス?」

もう一度メグは聞き返す。


「ええ、なるべく情熱的に。」

マーリンが目を閉じて何やら呟いている。機体の姿勢も水平に戻り、メグでも歩けるまでになる。


「なぜ私に?」

メグは躊躇ためらいを隠せない。

「ええ、だって私がキスしたら、後で私が酷い目に遭わされますから。ファースト・キスが私だと彼に知れた日には……ああ、恐ろしい。」

マーリンは天井を仰いだ。


「私だって『初めて』だ!」

メグが抗議した瞬間、激しく機体が揺れる。能天使エクスアイの攻撃が再開されたようだ。

「ええ、機体が安定したら、当然敵の攻撃は酷くなります。あなた、死にたいのですか?」

メグの顔が不安と恥ずかしさで紅潮する。


「貴女は現在艇長なのでしょう?、このふね乗組員クルーを守る義務が貴女にはないのですか? そして貴女は騎士なのですよ。騎士の誇りを思い出してください。」


正直メグはカチンときたが、穏やかなマーリンの瞳を見ると言い返せなかった。

「そのようなこと、言われなくても」

メグは走り出した。そうだ、「オトナ」になりたいなら、やるべき事はやらねばならない。


積荷の前に立ってメグは一度深呼吸する。


続いてカプセルの鍵穴を探し、そこにキーを挿入し、廻した。シュー、という大きな音と共に、カプセルが開き、羊水に似た成分の充填液が床に流れ落ちた。


生暖かい液体が足にまとわりつくようで、メグは不快感に眉を顰める。それでも彼女は横たわったままの少年のかたわらにたどりついた。


目を閉じたままの少年の唇を目の前にして、彼女はもう一度逡巡した。しかし、そんな時間はない。もう一度、能天使エクスアイの攻撃がふねを揺らす。


彼女はもう一度、深呼吸した。

接吻キス・オアダイか……。」


彼女は、両手で少年の顔を挟むと、その唇に軽くキスをしようとした。ヒットアンドアウェイを意識し過ぎたのか、勢いよく顔をぶつけてしまい、かなり痛かった。しかし、彼は一向に目覚めようとはしなかった。

(⋯⋯⋯? 目覚めない、だと?)


彼女は焦る。そして、マーリンの言葉を思い出した。

(優しく、そして情熱的に……)

その言葉を反芻しながら、2度、3度と少年の唇にキスをした。その味は充填液と同じ、塩分0.9パーセントの塩味であった。


 すると、長いまつ毛に閉ざされていた少年の目がぱちり、と音を立てんばかりに開き、左目が鈍い光を放った。

(よかった。目を覚ました。)

すると、少年を固定していたアームが解除される。

メグはキスの余韻から目覚めると、後ずさって尻もちをついた。


「あの……」

突然の覚醒に、メグはしどろもどろになる。

少年は服を着ていなかったからだ。

(男性の⋯⋯その、見てしまった。)

ただ、非常灯の灯りしかなかったため、はっきり見えたとは言い難かったが。


「良き目覚めをありがとうございます。おセニョリータさん。ここは危険です。貴女は安全な所にいてください。」

少年は立ち上がるとそう言った。そして彼女に背を向けたその背中からは、6枚の翼が広がる。


「これが、熾天使セラフ⋯⋯。」

メグは言葉が出ない。


その翼は少年を包むとその中で閃光がひらめく。そして、再び翼が広がると白いローブをまとった姿で現れた。ドギマギしていたメグはほっとした。


「お手を」

少年が再び向き直ると、メグに手を出すよう求める。金色に鈍く輝く左眼の瞳を見つめながら彼女は手を差し出した。少年の手の温もりを感じる。

一瞬、身体がふっと浮くような感覚に襲われる。


足元に魔法陣のような光の紋章が浮かぶと一瞬にしてブリッジまで戻っていた。

(瞬間移動!?)

メグは初めての経験に驚く。いったい、この少年は何者なのだろうか。

「貴女は引き続き指揮を。」

そう言うと少年の姿は再び消える。


そして、次の瞬間、少年は飛空挺の上に立っていた。

「皆さんがお探しなのはこの私です。」

能天使エクスアイたちは喜び勇んで彼の周りに集まった。


モニターが少年の姿を捉えた。

「ありがとう、ミス・エンデヴェール、『凛』を起こして下さって。」

マーリンが礼を述べる。

直近の恥かしい記憶を思い起こし、メグは頬を赤らめた。


一方、少年は再び3機の能天使エクスアイに取り囲まれる。

「悪魔め、現れたなぁ。」

「大人しく縛につけ。」


彼らは背中から長い棒のようなものを取り出し、凛の周りを回り始める。重力子捕獲棒グラビティ・キャプターだ。

その棒から出された正四面体の重力子バリアが凛を取り囲んだ。


「危ない、そんな事したら」

マーリンが呟く。

「捕まってしまうのか?」

心配そうにメグは尋ねた。


「いいえ、危ないのは、凛を捕まえたと思った彼らの方です。」

次の瞬間、バリアの中と外にいるメンバーが入れ替わったのである。

3機の能天使エクスアイはバリアの中に囚われてしまったのである。


「な、いったい何があったのだ?」

狐につままれる、という言葉を絵にしたような表情を浮かべながら、マーリンに尋ねる。

「あれが凛の能力なのですよ。……空間移動。そして転移。」


バリアの中に強力な電磁波が流され、能天使エクスアイに乗った騎士たちは失神した。

もちろん、これはもとは彼らが凛を捕らえようとして用意したものである。


格納庫に転送された能天使エクスアイから引きずりだされた3人の騎士は拘束され、荷室に収監された。


凛は再び元の姿に戻る。もちろん、裸では無く。ロングTシャツにデニムのパンツというラフな格好であった。


「すまん、団長が非常事態に伸びてりゃ世話ねえや。」

頭に包帯を巻いた透がブリッジに上がってきた。

「透卿、安静にしていなくて大丈夫ですか?」

メグが心配する。

「まあ、大事はないだろう。帰ったら精密検査だな。すまない、マーリン卿、借りを作っちまいましたな。」

透は包帯に手をやった。


「お気になさらず、こちらもしばらくご厄介になる身ですし、それに、やつらの狙いは凛ですから。」

マーリンは涼しい顔で答える。


「ところで、この方はいったい何者なのですか?」

メグが改めてマーリンに聞く。


「ただの『ファースト・キス』の相手ですよ。あなたのね。」

凛がそう答えると、また、あの恥ずかしさがフラッシュバックのようにメグの脳内を駆け巡る。


「いやっ!」

メグはどん、と両腕で凛を突いた。凛は華麗に避けるだろう、とメグは思っていたのだが、彼は思いっきり昏倒する。


「えっっ!?」

皆驚きの声を上げる。

「すいません。電子体(物質)の身体は久しぶりだったのに、少し動きすぎました。確かに調整が必要ですね。」


「ご、ごめんなさいっ。」

謝るメグ。


笑いがブリッジに広がった。


「でもあれは人工呼吸みたいなもので⋯⋯いや、むしろ人工呼吸ですからノーカウントです。」

キスをからかう大人たちを相手に照れたり怒ったり、慌てたりするメグの普通の少女の一面を見て、透は少し安心していた。


「申し遅れました。私は棗凛太朗=トリスタン、円卓の騎士です。」

凛が自己紹介をする。

「しばらくご厄介になります。」


「円卓の⋯⋯騎士?」

メグは自分の心臓の鼓動が高鳴るのを感じていた。


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