第37話 高校2年生 進路相談
春香のお父さんが亡くなってから一年が経った。
落ち着いた頃、春香のおばさん、いやお
内緒の話だが、これには食品メーカーに勤めているうちの父さんが、色々と手を尽くしてくれて探してくれたんだ。
もっと後の時代になればよりフレキシブルな勤務態勢の企業が増えてくるけれど、まだこの時代はそこまで自由はきかない。
朝は七時には自宅を出て、帰りは九時近くの日もざらだ。
お
今も俺の家で夕飯を食べ、お風呂も済ませた春香を向こうの家に送ってきたところだ。
「ただいま」
と言いつつリビングに戻ると、ソファに座ってぼんやりとテレビを見ていた父さんが手招きした。
「夏樹。ちょっとこっちに座れ」
言うとおりに座ると、父さんはリモコンでテレビを消す。母さんがお茶を持ってきて父さんの前に置き、その隣に座った。
「どうしたの?」
と尋ねると、父さんが、
「春香ちゃんの進路のことだが、向こうのお母さんはどうするつもりか聞いてるか?」
「……ああ。進路ね。向こうは家のローンも終わってるし、残してくれた遺産もあるから、大学までは行かせるっていってたよ」
父さんはうなづいて、母さんとアイコンタクトを取った。
「奨学金とかは利用するのか?」
「う~ん。それは大学次第なところもあるからね。どうだろ?」
気になるのはわかるが、一体なにを言いたいんだろう?
そう内心で首をかしげていると、母さんが、
「どこの大学を志望するか聞いた?」
「ああ。知ってるよ。俺と同じN大だよ」
N大はマンモス大学で卒業生に社長さんが多いことで有名な大学だ。
実はタイムリープ前は別の大学、大学院に進学したし、個人ならもう少し上の大学も狙える。
けれど俺の方も春香と別の大学に行くつもりは全くないんだ。とすれば、様々な学部が充実しているN大がちょうどいい。
「そうか。……夏樹。こないだ母さんとも相談したんだが、お前の学費は、アパート代や生活費も含めて、私たちでちゃんと出すつもりだ」
「あ。ありがとう。バイトである程度は生活費を稼ぐつもりだったけれど、助かるよ」
「ああ。それでだ。……お前、春香ちゃんと一緒に暮らしたらどうだ?
正直に言ってお前一人だとちゃんと生活できるか心配なんだが、春香ちゃんと一緒なら安心できる。……それに、春香ちゃんの生活費も浮くだろう?」
なるほどね。父さんが言いたかったことは同棲のことか。
っていうか。タイムリープ前はずっと独身生活だったんだぞ? 一人で大丈夫だって。
……まあ本音は春香のためだってことはわかってるよ。
俺は笑顔になりながら、
「それは俺も考えてたよ。父さんと母さんがそう言ってくれてありがたいよ」
と言うと、父さんは真剣な表情で、
「もちろん娘さんを男と同棲させるってのは、本来、親として許容できないかも知れない。
が、お前たちは別だろうと思うんだ。……向こうのおばさんに今度相談しておいてくれ」
「わかったよ。……ありがとう。父さんも母さんも」
ふふふ。二人とも春香のことを心配してくれているんだな。
……でも、おばさん忙しいんだよなぁ。土日はぐたぁって疲れきっているみたいだしなぁ。
腕を組んで考え込んでいると、父さんが苦笑いしながら、
「まあ、後はお前に任せるからな」
と立ち上がってお風呂場に向かっていった。
その隣に座っていた母さんが、
「こういうことは言いたくは無いんだけれど、まだ学生なんだし籍も入れていないんだからね。……ちゃんと
俺は思わず赤くなって、
「い、いや! そのさ……」
とうろたえてしまった。それを見ていた母さんが笑いながら、
「ふふふ。ちゃんとしなさいね?」
と立ち上がって、洗い物の続きをしに流しに歩いて行った。
――――。
次の日曜日。
春香の家でお昼ご飯を一緒に食べている。
今日の昼のメニューはたらこスパゲッティ。俺と春香の合作だ。
「うん。上手にできてる」
おばさんが笑顔でフォークをくるくると回してスパゲッティを
春香がうれしそうに、
「そう? どれどれ。……うん!」
と口を動かしながら、俺に向かってサムズアップをした。
その様子がおかしくて、俺も笑いながらスパゲッティを口に入れた。
……うまい。バターの量もちょうど良かったみたいだ。
おばさんが俺たちを見て、
「あ~あ。二人が大学行っちゃったら一人になっちゃうなぁ」
とつぶやいた。
それを聞いた春香が沈んだ表情をして、それを見たおばさんが、
「あっ。ごめんごめん。二人はちゃんと大学に行って勉強しなさいよ」
と笑ったが、から元気なことは見え見えだった。
春香が心配そうに、
「お母さん。ちゃんと週末には帰ってくるからね」
と言うと、おばさんは困ったように「ははは」と
そうだよな。一人になっちゃんだよな。……うん。学生の間だけでも春香を連れてちょくちょく帰ってこないとな。
と思っていると、おばさんが手を振りながら、
「だって春香も夏樹くんと暮らすようになったら、どうせ一人になるのよ? そうしたら猫でも飼うわ」
おばさんはぐいっと身を乗り出して、春香に、
「それ以前に合格しないとね。春香?」
と言うと、春香が、
「あちゃあ。そうだった!」
と下をぺろっと出した。
場が
「お義母さんも春香もいいかな? 話があるんだけど」
「うん? 何かしら?」
「もちろん大学合格したらの話だけれど。その……。春香と同棲させてもらえないですか?」
するとおばさんは呆気なく、
「あら? いいわよ」
横の春香が真っ赤になって、
「え、ええ! ど、同棲?」
と口に手を当てている。
おいおい。今まで何回も一緒の部屋で寝てるじゃん。
そう心の中で突っ込みながら、何食わぬ顔で、
「ありがとうございます。……というわけで、春香。よろしくな」
と頭を下げた。
「同棲……、どうせい……、ど、うせい。うふふふふ」
「お~い。春香さんや。戻っておいで」
「……はっ」
おばさんがニコニコしながら春香をじっと見つめる。春香が照れくさそうにエヘヘと笑った。
「あんたが幸せになることが一番なんだからね」
「お母さん……。うん。わかった。私、なっくんと一緒に暮らすよ」
そう言って春香が俺に向き直って、
「なっくん。よろしくお願いします」
と頭を下げた。俺は微笑みながら、
「新婚生活ってところだな」
と言うと、春香はがばっと頭を上げて、「そうか! そうだね!」と赤くなりながら喜んでいた。
おばさんが俺の方へ身を乗り出して、
「あのね……。夏樹くん。別にいいっちゃあ、いいんだけど。まだ学生なんだから
とささやいた。……おばさんからも言われてしまった。っていうかある意味お
俺は真っ赤になりながら、
「ええ。もちろんです」
とささやき返す。おばさんは納得して座り直したが、春香がそれを見ていて、
「あれぇ。何の相談? なんで夏樹が真っ赤になってるの?」
と首をかしげたが、「あはは」と笑って誤魔化しておいた。
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