第10話 滅亡とワンピース

 巨大な兵器が、世界を壊しつくしてしまった。

 街だったところも、森だったところも、花が咲いていたところも、どこもかしこも、色を失って、ぼんやりした灰色のがらくたで埋め尽くされた。

 空も、あれ以来ずっと曇っていて、いつもべっとりとした灰色。


 この世界で、私のワンピースだけが、鮮やかに映える。


 うすいみどり色で、裾のところに桃色の模様が縁どられているデザイン。

 まだ、世界が完全には壊れきっていない頃、倉庫の奥で見つけたお洋服。とっても可愛くて、私は一目で気に入ってしまった。

 昔だったら、着られなかっただろう。

 私のこと、不細工だとか、身の程知らずだとか、ひどいことばを投げつける人たちが、まだ生きていたら、私はそれを想像するだけで足が震えて、吐き気がして、お洋服どころか、家を出ることさえできなかった。

 もう、そんなこと言う人は、どこにもいない。

 私は、好きな服を好きなだけ着て、どこへだって行ける。

 いま、世界でいちばんきれいなのは、私だ。

 なんてしあわせなんだろう。


 乾いた風が吹き抜けて、私の髪を揺らした。

 まっしろで、まばらな髪。また何本かが、風に飛ばされて抜け落ちていった。

 からだのあちこちが、ギシギシといやな音をたてる。

 ……多分、もうじきなのだろう。

 だから私は、もっと歩く。歩ける限り歩き続ける。頭痛も吐き気も、しわしわの手足に増えていく不吉な痣からも、今は目をそらして。

 すてきなワンピースをひるがえして、どこまでも歩く。


(おしまい)

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