第7話 窓辺の黒猫

 大人よりも背の高い、ひまわりの横を駆け抜けた先。あの子の家の窓辺には、いつも黒猫がいる。

 ぼくが通りかかると、つんとした物腰で身を隠す。

 あの子も、ぼくに気が付くと、ぷいと踵を返して部屋の奥に駆けていく。

 その様子がそっくりなものだから、ぼくはくすくす笑った。

 レースのカーテンが、風もないのにふわりと揺れた。


 友達は、黒猫なんて不吉だよな、と陰口をたたく。

 昔からの言い伝えにあるだろ? 黒猫が横切ると不幸になるんだぜ。

 そんな不気味な動物を飼っているなんてさ。


 もしもその言い伝えが本当なら、あの子は不幸なんだろうか?

 あの子の家の中を、絶えず横切り続ける黒猫。

 あの子も黒猫も、一歩も家から出ない。出られない。

 薄いレースのカーテン越しに、窓の外を眺めるのが精一杯。


 あの子は確かに不幸なのかもしれない。

 それでも、窓越しにちらりと見える白い肌も黒い毛皮も、それはおどろくほどに艶めかしく、美しくて、ぼくにはそれが、うらやましい。

 毎日、外を駆けまわっているぼくらは、そんなに誇るほどしあわせなのか、わからなくなってくる。


 ぼくは、黒猫に横切られ、不幸になり続けている、小さな部屋の中のあの子と、いつか言葉を交わすことができるだろうか。

 あの黒猫のしなやかな背を、撫でてみたり、できるだろうか。


 眩しい夏の日差しの中。のしかかるように大きなひまわりの向こう。

 ぼくは、たぶん明日も、まるで偶然みたいなふりをして、あの子の家の窓辺を通るんだ。


(おしまい)

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