16話 強者ノ力
「君が思っているより、この力は強力なものだ。こんなものはぼくも初めて見る」
アイルは俺の体を穴が空くほど見つめて言う。
「まあだからこそ研究材料としての価値が……おっと、コホン、なんでもない」
いま何かすごく不安になる単語が聞えたような気がしました。
本当にこいつのことを信用しても大丈夫なものなのだろうか。このあと変な薬なんかが出てこなければいいが。
「おそらく君は傷つくたびに別の次元から“自分の未来の形”を持ってきている。」
「“自分の未来の形”?」
アイルのよくわからない表現のせいで、自分で考えるということを放棄してしまっていた俺は、さっきから質問量産機と化していた。
今の俺は詐欺師なんかの恰好の餌食だろう。
「例えばさっきの状態で言うと、“左手を切り落とされなかった自分”という別の可能性の未来から体ごと入れ替えたのさ」
そういうことだったのか。だからミウムにやられたときも今も、あんなに一瞬で体が治ったのか。
いや、この場合“治った”のではなく、“更新した”と言うのが正しいのだろう。
「じゃあ元の体と、入れ替えた先の未来はどうなるんだ?」
「体についてはぼくにもわからないな。ここに残るものもあれば、消滅してしまうものもあるだろう」
「ただ未来については、左手を切られた時点でなくなってしまう。その消え去る一瞬前を取り出しているのだろう」
自分にそんなにも奇妙な能力が与えられていたとは。実感が持てない。
というか魔族になっていることにもまだ戸惑っているというのに。
「君の体はまだ魔族になる契約をして間もない。今こうしている間にも細胞レベルで見れば革新的な変化が起きているのだ」
「刹那の変化もぼくは見逃さない。君はその力を使うたびに生物として強くなっていくんだ。より魔族に近づいていくんだよ」
「魔族に……」
そう思えば思うほどこの体が他人の体の様な奇妙な感覚を覚える。
「まあ現状心配することはない、というのがぼくの意見かな。おそらくこの力を使ったことで魔力を消費した、という状態も新しい体には引き継がれない」
「何かデメリットを挙げるとすれば……そうだな、君の人生からほんの数秒間だけ時間が失われる、と言うだけだ」
アイルが言うには……つまりこういうことになる。
この能力は、何度でも意図的に使えて、使うたびに傷は治るし、魔力は回復、能力も若干強くなるというおまけ付きで、代償に何秒かだけ時間が進んじゃいますね。
でも安心してください。魔族にはとーーーーーっても長い寿命があるので実際にはほぼなんの影響もございません――。
ちょっと都合がよすぎではないのだろうか。
「それ強すぎません?」
「でも今の君には、これ以外目立った能力はないから強くはないんだけれどね」
正論を言われてしまった。ん? ちょっと待てよ……
「じゃあさっきの禁術を使うことができれば――」
「ご名答。実質生け贄なし、消費魔力なしの大魔術が使いたい放題、というわけさ。やはり君は勘がいい」
恐縮です。まあこれでも一応ゲームいっぱいやってたんで。
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