15話 力ノ正体

 言われてみれば確かに、そこには違和感があった。


 切り離された俺の手首から上はきちんと感覚があり、治っていると言えるだろう。


 だが同時に俺の体を離れ、ただの肉塊と化したかつての俺の左手も、ちゃんと存在している。一瞬で生えるにしても、その過程が全くないのだ。


「ぼくは魔術の専門家であり、同時に人体の専門家でもある。アンデッドだからね。そのぼくが自信をもって断言しよう。君の力は肉体の“更新”だ」


「更新?」


 “再生”ではなく“更新”と言われても、この力に関しての具体的な違いがよくわからない。俺の体はブログか何かだったのか。


「そう“更新”。根拠としては幾つかあるが、強いて言うなら二つというところか」


「まず魔術には生物を創ることはできないという条件がある。まあ例外はあるがね」


 便利、便利とは思っていたが、さすがに魔術にもできないことはあるようだ。


「俺の生きている部分は生物だから再生しているわけじゃない、ってことか……」


「中々いい勘をしているじゃあないか。単純に魔力と時間がかかりすぎるんだよ」


 生物を作るというのはそんなに難しいものなのか。トカゲみたく勝手に生えてくるのを想像をしていた。


「仮に魔王が人間の左手首から上を創ろうとしても、一生のうちには叶わないだろうね」


 だがそれでは更新の説明がつかない。


「そしてもう一つ、君の体は治る前と後での構造が異なっている」


「どういうことだ?」


「さっきと今の君じゃあ魔力の量、身体機能がまるで別人のようになっている」


 アイルはそう言うとそれを布で大事そうにくるんだ。


 まさか、とっておくのかそれ。今度来たとき玄関に飾ってあったらどうしよう。


「この腕を切ったのはその違いが見たいって言うちゃんとした理由のもとでの行為だったんだよ」


 ちゃんとした理由があろうがなかろうが許される行為ではない気がするが。


「そんなの見ただけでわかるのか?」


「うーん、君さえよければ何回か実験させてほしいところではあるんだけど」


「ざ、残念だけどそれは無理かなー」


 こいつに付き合っていたら命がいくつあっても足りない。


「そう言うだろうと思ってね。まあ僕は特別な“眼”を持っているから、見ただけでもわかるよ。これは仮説なんだけどね……」


 しばらく帰れそうにないなこれは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る