14話 アイル
「考えてもみなよ。全ての生物の頂点に君臨する魔族、その長たる魔王が寿命で死ぬことがあると思うかい?」
妙に熱のこもったアイルの説明口調に気圧されそうになる。
「放っておけばあの方はこの世の終わりまで生きられただろうさ。だが死んでしまった。なぜだか解るかい?」
「まさか……殺されたのか?」
「半分正解、と言ったところだね。間違ってはいないと言った方がいいかな」
アイルは続ける。
「今からその答えを、君にあげよう」
そう勿体ぶると彼は山積みの書物と埃の中から小さな宝石箱と一冊の分厚い本を引っ張り出して来た。
「この本には、所謂、禁術という奴が記されている。人間達にとってはもちろん我々アンデッドですら持て余すような代物が沢山、ね」
「その多くが魔力ではなく自身の肉体や命を贄に使用するものばかりなんだ」
そう言ってアイルはその重たそうな本を手渡してきた。
「これをどうしろと?」
「君が使うんだよ」
「え?」
このいたずらな悪魔のように微笑んでいる少年は、さっきの説明で俺が快諾すると思っているのだろうか。お兄さん怒っちゃうぞ。
「違う言い方をしようか。君にしか使えないんだよ、それ」
「どういう……ことだ?」
「手を出してごらん」
俺が言われるがままに差し出した左手にアイルの指がからまる。体温がないゾンビのひんやりした小さな手の感触が伝わってくる。
次の瞬間俺の手はアイルが隠し持っていた短剣によって切り離されていた。噴き出した返り血がアイルの服を紅く染め上げる。
「ぐああああっ!」
なおれっ! なおれっ! くっそ!
「何しやがる!」
観察するような深緑の瞳がこっちを向いて光っている。
「まあそう怖い顔をしないでくれよ。御覧、治っているじゃあないか」
アイルは悪びれる様子もなくヘラヘラ笑う。こいつ気でも狂ったか!
ミウムは引きつった顔で絶句している。
「ごめんよ。脅かすつもりじゃあなかったんだ。君の能力をこの目で確かめたくてね」
悪意は感じなかったが、それでもアイルを睨めつける。
「これ、なんだか解るかい?」
彼の手には切り離された俺の左手が握られていた。
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