13話 墓の塔
まあ考えてみれば悪い条件でもないのだ。
人間の中でも最も強い四人の魔女、そのうちの一人を好きなようにしてもいいというのは。戦力だ戦力。
これはあくまでこっちの戦力が上昇するということで、決してエロいことし放題とかそういうのではない。ええ、しませんとも。たぶん。
「ううっ」
ミウムは顔から湯気を立てて俯いてしまっている。
青くなったり赤くなったり忙しい奴だ。
「これから“罪の塔”の管理者になるのだから、当然のことだろう?」
レナに悪意はないのだろうが、これはミウムにとってある意味火あぶりよりつらいんじゃなかろうか。
ライラは異議を唱えたそうだったがボイドがなんとか説得していた。
「それではこれをもって、エンド・ヴァン・アレグローウェンを“セクステット”として迎え入れ、ミウム・マロウスをその僕とする」
とレナの言葉でその場は解散となった。だが渡すものがあるので、と俺とミウムだけが残された。
ミウムはマロウスという家の生まれらしいが、こうなってしまってはそれが持つ意味はあまりないだろう。
「これからよろしく、だなミウム」
できるだけ元気が出るように明るく言ってやったが反応は悪かった。
「なんで私がこんな……」
「いや、ほら俺だってお前の出汁で作ったスープなんか飲みたくないし、そうなるよりは全然いいだろ?」
「じゃあ約束して」
目の前の美少女が涙ぐみ上目づかいで請う。
「いやだ」
「なんでよ! ばーか!」
ここでうんと言ってしまうのは簡単だが、この後何を言われるかわかったもんじゃない。
なんだ。結構元気じゃないか。心配して損した気分だ。
そのとき、ガチャと扉が開く音がして振り返る。
「やあやあ、おまたせ」
入ってきたのはアイル、と紹介された白髪の少年だった。
サイズの合ってない大きなフードがついている濁った白衣を着て、眠たそうに目をこすっている。
年頃はライラと同じ、もしくはそれ以下にも見えた。
「君たちは取り合えずぼくの家にお招きするよ。話はそれからだ」
アイルの言う家、というのはつまりは彼が管理している“墓の塔”のことだった。
その搭はその名の通り、死んだ者たちの墓地がある他、アンデッドたちや死霊などの住処にもなっているという。
「かくいうぼくもゾンビの類でね。先代魔王様がくれた体が今は気に入っているよ。この永遠のような時間を使ってここで魔術の研究をしているんだ」
アイルに案内され、たどり着いたのは本と棺桶以外は何もなさそうな質素な部屋だった。
日光が入ってこないジメジメした空気のせいでそこら中にカビが生えている。
ここに来る途中いくつもの墓場を通ったせいで気が滅入りそうになっていた。
ミイラがトランプをしている光景は笑えたけど。
「ゾンビになってどれくらいなんだ?」
「もうかれこれ五百年は経っているかな、ライラが生まれたのもちょうどそのくらいだったはずだが」
俺は自分の耳を疑った。五百年だと? えっと……俺が約三十人分ほど……。
「ライラが生まれたのも、ってのは何の冗談だ?」
「あれ? 聞いていなかったのかい? 魔族は人間に比べてとても緩やかに成長する。もはや人間の物差しでは測れないほどに」
アイルがやれやれといった調子で続ける。
「君がいた世界はどうか知らないが、この世界では人間が早く死にすぎなのだよ」
そうだったのか。これからライラに対する態度が変わってしまいそうだな。驚いてるのはミウムも同じようだった。
「じゃあ、それともう一つ君に教えなければいけないことがあるね」
アイルが俺たちの反応を楽しむようにさらに付け加えた。
「先代魔王様が死んだのは寿命の所為なんかじゃあない」
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