17話 ある昔話

「君の能力なら普通の魔術でも、無制限に使うことができる。それだけでも十分戦力になるだろう」


「だが禁忌とされる“はぐれ魔術”の多くは特異で強力なものが多い。それを君に使えるようになってほしいんだ。それと……」


 アイルはどこか遠くを見つめるような表情で続けた。


「先代の魔王様が死んだのはこの“はぐれ魔術”の一つ“ 死ノ贈呈モルテ”に触れてしまったからだ」


「“ 死ノ贈呈モルテ”……」


「生物の命の価値とは等しく平等。子供、大人、魔族、人間、虫、動物……皆魔術の前では“一つの命”として扱われる」


「他者から見た価値観や、地位や、名誉などはそこには存在しない。どれを秤にかけようがその天秤は傾かないんだよ。


「“ 死ノ贈呈モルテ”とはその名の通り、死をもたらす魔術。術者にも対象にもね」


 先代魔王はそのことを知らなかったわけでもあるまい。だとするとその答えは一つしかない。


「誰を殺したんだ?」


「いい質問だ。これ以上ないくらいにね」


「昔、ある勇者がいたんだ。彼は強かった。それこそぼくたちがここまで追いつめられるほどに」


「ある日突然現れて、その一日だけで国を一つ救ってみせた。人々は彼の事を英雄と呼んで崇め、羨望の眼差しを向けたものだ。何人の魔族が倒されたことか」


「ある日、これ以上被害が出ることを恐れた先代魔王は自ら勇者討伐に向かったんだ。ぼくも一緒に行ったよ。その時のことはよく覚えている。そして――」


「負けたんだな」


 アイルが初めて悲しそうな顔を見せた。親を亡くした子供のように。


「ああ、あの勇者の強さは常軌を逸していた。ボイドの力で逃げてこれたものの、三人の“セクステット”が殺されたよ」


 「そのとき城でライラを守っていたレナは今でも責任を感じているようだがね。彼女がいても結果は同じだっただろう」


 そうか。だからあのときレナは独りで……。


「そして魔王は自分の家族を守るため、自分の命を捧げた。その選択が正しかったかどうかは、実は君にかかっているのだけどね」


 最初から軽くは考えているわけではなかったが、自分がこの世界に呼ばれた理由が更に重たく、絡みつくようにのしかかってきた。


 だがライラや、レナを守りたいと思ったあの時の気持ちに変わりはない。


「どうすればいい?」

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