10話 レナ
魔王城から各塔への召喚魔法に特別必要なものはなく、魔力の質と量で起動できるものらしい。いわば顔パスの様な物か。
“罪の塔”最上階の部屋。そこはただ広いだけで何もない場所だった。床一面に大きな魔法陣が描かれているだけ。
その上に乗ると床が抜けるように、その魔法陣に吸い込まれた。
「うわ!」
召喚魔法というのはこういうものなのだが、真っ暗闇にいきなり放り出されるのはやはり少し慣れが必要なところがある。
そして次はその真っ暗闇に様々な景色が広がる。
どれも見覚えがない景色。だがどこか懐かしい景色。木漏れ日が心地いい森、崖下に広がる海、小さな緑の妖精達、水辺にたたずむ白い竜。
辿り着いた先は一面水晶のようなものでできている不思議な洞窟のような空間だった。
魔術というものを使ったことのない俺でも、扉をくぐるようにすんなりと、魔王城に入ることができた。
「ここは……?」
「この部屋は魔力の保管庫のようなもので、魔の領地“
幻想的な碧い光を帯びた水晶の中をボイドが進んでいく。
「ではこちらへ」
その水晶の部屋を出て、案内の通りしばらく着いていくと、客間のような少し大きい部屋に通された。
「まっておったぞ!」
相当退屈していたのか、ライラが俺を見るなり飛びついてくる。
放たれた紫の砲弾を反射的にギリギリで躱すと、背後で俺の代わりにそれに直撃したであろう鈍い音が聞えた。すまんミウム。
部屋の中には大きな長机に、四人の人物が座っていた。一人奥の席で突っ伏している子供以外には見覚えがある。
「おいで、エンド。ここが君の席だ」
最初に声をかけてくれたのはレナだった。
ミウムから受けたダメ―ジは完治しているようで、その姿はこの世のものとは思えない優雅さを宿している。もう俺が知っている世の中ではないが。
隣に座るよう勧められ、俺はレナの右隣に座った。なんだか入り口付近が騒がしいが聞こえなかったことにしよう。
「自己紹介がまだだったな。私はレナ。エルフ、という種族なのだがわかるだろうか?」
首をかしげるだけでこんなにかわいい生き物が存在するなんて。それだけでこの世界に呼ばれた価値はあるだろう。生きててよかった。
「あ、ああ、なんとなくは」
なんだその何の面白みもない返事は。と自分で自分にダメ出しをしていく。
「そうか。君は博識なのだな」
とレナが楽しそうに眩しく微笑む。幸せってこういうことだったのか。
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