9話 静寂の魔女
「なあ、“静寂の魔女”って何のことだったんだ?」
そういえばあの戦いのとき、ミウムがそう呼ばれていたことを思い出す。
「あー、あれね。つまり私は“エルゼン国”の国家魔術師ですよーってこと」
「“エルゼン国”? 国家魔術師?」
大体の予想はつくが、聞きなれない言葉が並ぶ。
「はあ? あんたそんなことも知らないの? 少しはあのエルフを見習ったら?」
あれ? 知らない俺が悪いの?
「“静寂の国 エルゼン”って言ったら四大国随一の、竜も恐れる魔術師の国、その中でも最高峰の魔術師四人だけが国家魔術師を名乗れるってわけ」
ミウムが誇らしげな顔で答える。
「で、その最高峰の魔術師はパキラの種も知らなかったのか」
「私にはそんなの関係ないもん。使ってたの指輪だし」
「まあでもそのおかげで俺は“静寂の魔女”の一人を見事倒したわけだ」
ミウムはどうやら負けず嫌いらしく、何か言い返そうとしていたが、探している言葉が見つからず下唇を噛みしめていた。
「お体の具合はいかがでしょうか」
振り返ると、入り口付近にボイドが立っていた。この突然現れる感じには慣れなくてはいけないのだろうか。非常に心臓に悪い。
「ああ、なんともないぜ。とんでもなく退屈なこと以外はな」
「ホホホ、お待たせして申し訳ございません。ではご案内いたします」
俺達はボイドに連れられるまま部屋を後にした。
ボイドによると“セクステット”とはそれぞれが強大で特異な力を持っており、ミウム達のような勇者にとっては越えなければならない壁のような存在なのだと言う。
「あの儀式のときにいた黒フードは全員その“セクステット”なのか?」
「ええ、その通りでございます。しかし……今は一つ空席がございますが」
仮面が悲しげな顔になる。
「一つ? あの時はお前の他に三人しかいなかっただろう? もう一人は誰だ?」
「御一人とてもお忙しい方がいらっしゃいましてね」
要するに問題児が一人いるというわけか。こいつが言うのもどうかと思うが。
「ともかく“セクステット”が六人いない現状は、非常にまずいことなのです」
「どういうことだ?」
「この魔王城は周りにある六つの塔の結界によって守られていました。ですがそれは一つの塔に一人“セクステット”が管理しなければ弱まってしまうものなのです」
「案外もろいものね」
ふと後ろを見やると手錠をされたミウムが不満そうな顔でついてきていた。
こいつはこいつで何か罰のようなものが言い渡されるのかと思うとかわいそうでならない。いや、ほんとに。
「しかし、ミウム様の召喚魔法も素晴らしいものでした。あのレベルのものを扱える人間はそうはいないでしょう」
もう後ろを見ないでも胸を張っているのが手に取るようにわかる。
ところでなぜボイドはこいつのことも客のように扱っているのだろう。執事の性分という奴だろうか。
「ふふん、私これでも“静寂の魔女”ですから」
うざい。
そんな話をしながら、ボイドの後を歩く。
魔王城は六つの塔に囲まれた構造で、その間は物理的には繋がっておらず、召喚魔法での行き来しかできないようになっている。そういう力を持たない勇者の足止めなのだとか。
俺達はその中の一つ“罪の塔”にいた。
ここは魔王に従わなかった反逆者や、捕らえた勇者などの処罰と収容を行ってるらしく、しきりに遠くの方から悲鳴が響いてくる。
「先代魔王様が亡くなってからはこの塔も随分と静かになったものです」
ボイドはぽつりとそう漏らした。
「ライラの父親か。どんな人だったんだ?」
最初にこの話をした時のライラの悲しそうな顔が浮かぶ。
「お嬢さまにとっても私たち従者にとっても、よき王であり、よき父親の様な存在でした」
ピエロの目から、涙の絵が零れる。
「この世界は今でこそ人間に支配されていますが、昔は何人なんぴとたりとも、あの竜でさえも我々魔の者に抗う事は出来なかったのです」
ボイドは俺とミウムの顔を交互に見る。
「それも先代魔王様が寿命でお亡くなりになるまでのことでしたが」
そうこうしているうちに気の遠くなるような螺旋階段を上り終え、最上階の部屋にたどり着いた。
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