4話 契約


  ~プロローグより~



「契約?」


「お前はこの魔王たる私と契約し、私の守護者たりえる力を手に入れたのじゃ。さっきの傷が治ったのもその力のおかげじゃな」


「これからは魔族としてエンドと言う名前を使うがいい」


 ライラは、どうだ我こそは魔王なりという風に、ない胸を張っている。勝手に名前をつけられ、文句の一つでも言ってやろうと口を開いた。


だがどういうことか現実世界にいたときの名前が思い出せない。思い出せないと言うよりも、知らないと言う方が近いかもしれない。



「あの魔女めです。おそらく雷の魔法の類かと。私としたことが。もっと気を付けておくべきでした」


「突然のことだったのでお嬢様と一緒に安全なお部屋に召喚いたしました」


 ボイドが悔しそうに仮面の表情を歪ませた。それほどの相手だったわけか。


「おい、レナは……レナは無事なのか?」


 ボイドが隙を突かれるほどの魔法使いだ。それに3対1なんて分が悪すぎる。


「レナ様は“セクステット”の一員でございます。そう簡単にやられてしまうお方ではないかと」


 ボイドの顔が不機嫌そうにねじれる。


「ですが相手の力量もわからぬのも事実。それがわかっていたからこそレナ様はおひとりで残られたのです」


「そこでエンドよ。お前におねがいがある」


 さっきの様子とはうってかわり、ライラがしょんぼりとつぶやくように言った。



「レナを助けて」



 契約、という奴のせいだろうか。ライラの気持ちが直接自分の中に入ってくるような、そんな気がした。胸が張り裂けそうだ。


 お願いされるまでもない。


「ああ、やってやるライラ。レナと一緒にあの気に入らねえ勇者ども倒してみせるさ。そのための力なんだろう?」


 ライラの頭をポンとなで、半ば自分に言い聞かせるようにそう声をかけた。


 脳裏に刻まれている激しい胸の痛みと、あの魔法使いへ抱いている恐怖よりもこの小さな魔王の頼み事の方が自分にとっては大事に思えたのだ。


「エンド様。私に考えがございます」

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