5話 魔女
「準備はよろしいですか?」
「ああ、いつでもいいぜ」
ボイドは一連の流れをなぞり、俺に傘を向けた。
「では。ご武運を」
足元に魔法陣が現れ、足先から頭の先まで俺の身体を飲み込む。
目の前が真っ暗になる。そういえば俺がいなくなった世界はどうなっただろう。と何の関係もないことを思い浮かべて、今から始まる命がけの戦いへの緊張をほぐす。
これから俺という登場人物があがいて、はたして勝てるのだろうか。
相手は勇者。もしかしたら俺のやっていたゲームと同じようにボタン一つ押すような感覚でやられてしまうのではないだろうか。
だがもし仮にそうだとしても、この一つの疑問が俺をつき動かす。
『あの勇者たちがいなくなったら、この世界はどうなるのだろう?』
彼らの家族、友人、恋人、期待して送り出した王様なんかもいるかもしれない。どうなってしまうのだろうか?
勇者がいなくなったことで何かしらの弊害は生まれるだろう。それがこの目で見てみたいのだ――。
視界が開ける。さっきとは違い部屋の隅に出てきた。大きな柱に隠れて周囲の様子を観察する。
最初に目に留まるのは紅いエルフの姿。その足元には鎧の男と盗人の金髪が力なく倒れていた。
よかった。無事だったか。と安堵した矢先、レナの表情が険しいのに気づく。
よく見ると服のあちこちが裂かれ、ボロボロになっている。それでも雄々しい立ち姿は感動すら覚える美しさだ。
「あら、もう疲れちゃったのかしら」
棘のある凛々しい声の主の方向に、見つからないように身を乗り出す。さっきとほぼ変わらない場所にその少女は立っていた。
かぶっていた帽子は今はなく、うす黄色の髪が肩くらいの長さまでおりてきていた。背丈は魔女帽子をかぶってレナと同じくらいになるかならないか。
「敵ながら感服するよ。“静寂の魔女”」
「人間の情勢にも通じてるってわけね。これだからエルフは嫌いだわ」。
「相手のことを調べるのは戦いの定石だろう? エルフに限った話じゃないさ」
どうやら俺のことは気づかれていない様子だ。せめてレナには知らせたいものだが。
「無用な問答ね。そろそろ幕を引かせてもらうわ」
そういって魔女が掲げた右手の中指には、大きなエメラルドの指輪がはめられていた。その指輪がパチッパチッという音をたてて、どんどん光を帯びていく。
「
魔女が高らかに声をあげた。
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