3話 もえるエルフ

 勇者? 半ば引きはがすように、その黒マントの女が話しかけた方向を見る。


 そこには三人の若者が立っていた。二人は、重たそうな騎士の鎧を着た体格のいい男と、軽装の短剣を持った金髪の男。


 もう一人の少女は帽子に、ローブという魔法使いのような恰好をしている。


「おっと、いきなり魔王の部屋に着いちゃった感じ?」


 盗人のような風貌の男が軽口をたたく。


「どうやらそのようだな」


 と腰の鞘からロングソードを引き抜きながら、厳格そうな騎士が言う。


 すると一番奥の玉座に座っている魔王……確か“ライラ”と言ったか。そのライラが口を開いた。


「おぬしら! 誰の許可を得てこの魔王城に立ち入っておるのじゃ! 神聖な儀式をじゃましたことを後悔するがいい! レナ!」


今まできつく俺を抱いていた腕がすっとほどけ、離れる。


「了解した」


 次の瞬間、黒いマントとローブが黒い炎になって一気に燃え上がり、“レナ”と呼ばれたその人物の姿が露わになる。


 後ろで束ねた真っ赤な髪、夕日のように紅蓮の瞳、透き通るような白い肌、そしてツンと尖った耳。


 俺はその美しいエルフから目をそらすことができなかった。


「下がっていろ。巻き込まない自信はない」


 そう言うとレナは腰からレイピアを抜き、構えた。


「もしかして……あんた一人でやるのか?」


「私一人で十分だからな」


「お、俺も戦う!」


 なぜかそんなことを口走ってしまった。

 後悔はしていない。


「ふむ、どうやら君は本気で言っているようだな」


 レナはその燃える宝石のような瞳で俺の目をまっすぐに見つめた。


「あ、あたりまえだ。あんたみたいな美人のねーちゃん一人で戦わせるわけないだろう?」


 声はうわずってないだろうか。こんなに美しい女性と会話するのは生まれて初めてだろう。おちつけ俺。


「それは光栄だな」


 そんな冗談めいたやり取りをしていてもレナの意識はしっかり敵へ向いている。


「だが、本気で言っているなら尚更下がっていてくれ。君はまだ力に目覚めてはいない。それに私の術は……」


「それでは、お嬢様のところにご案内いたしましょう」


 レナが何か言いかけたとき、いつの間にか背後にいたボイドが会話に乱入してきた。


「ではボイド、頼んだぞ」


「承知しました。それとレナ様、あの魔法使い……」


「ああ、私も気になっていた。急いだ方がよさそうだな」


「では、おまかせ下さい」


 俺には何を言っているかよくわからなかったが、何かねっとりと肌に張り付くような、いやな気配は確かにそこにあった。


 ボイドが小さな黒い傘を取り出し俺を指すと、足元に小さな魔法陣が現れた。


「少し荒っぽい召喚になりますが、ご了承ください」


 とボイドが傘を振る刹那、俺の視線の先にはレナとにらみ合う勇者の一団、その最奥、不敵な笑みを浮かべた魔法使いの少女の姿があった。

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