第18話『立ちはだかる者』

 ゴン太が視線をその先にやると、巨大なクマが足を止めて自分を見下ろしていた。


「(あわ!? あわわわ……。)」


あまりの恐ろしさに歯の根が合わなくなるゴン太。


「(言わんこっちゃねえ! 道草なんか食ってるから、一番出会いたくねえヤツと出くわしちまったじゃねえか!)」

「(ポッポッポッ……確かにこの状況、あまり好ましいものとは言えないようですポ。)」


 言うほど焦った風には見えない顔で、クマの様子をうかがうポッポ屋。


「ポ?」


 クマはここまで走って来たのか、肩で荒々しく呼吸しながら、ゴン太の方を見つめていた。

 ゴン太も、蛇ににらまれたカエルのように動けずにいた。

 ポッポ屋がささやくように言う。


「(……わたくしに、ひとつプランがございますポ。)」

「(黙ってろい! 今めえさんのたわ言に付き合ってるヒマはねえ! この場をなんとかしねえと、みんなまとめてあの世行きになっちまう!)」

「(ですから、ぜひとも聞いていただきたいんですポ!)」

「(な、ななな、なにか、い、いい方法でもあるの、ポッポ屋さん!?)」


 ゴン太が後ろ目に、ワラにもすがりたい思いでポッポ屋に尋ねる。


「(ゴンの字! ポッポ屋の頭を信用しすぎちゃいけねえ! ただでさえ、自分の記憶も不安定なポッポ野郎なんだ! 今ここでズッコケちまったらオレたちにはあとがねえんだぞ!)」

「(おっしゃるとおりですが、どうか聞いてください。チャンスは、お互いに見合っている今このときしかありません。デン助どのから教わったとおり、わたくしなりに知恵をしぼって、この場を生き抜く方法を考えたつもりですポ。)」

「(……)」


 そう言われて言葉につまるデン助。


「(万が一、この作戦が失敗するようなことがあったら……そのときは、デン助どのの思いに背くことになるかもしれませんが、わたくしが躍り出てオトリになりますポ。その隙にお二方がお逃げになればよろしいでしょう。)」


 近くを見ているような、遠くを見ているよいなポッポ屋の黒い目がデン助を射抜いた。足の下でゴン太の震えがどんどん強くなってゆく。デン助は焦る気持ちを抑えて、束の間目をつむった。無論、犬死にはまっぴらごめんだった。しかし――

 ええい! とデン助がギョロ目を見開く。いざというときは、自分こそがオトリになる覚悟を決め、デン助が言った。


「(めえさんがそこまで言うなら聞かねえわけにはいかねえだろうよ!)」

「(デン助さん!)」

「(ありがとうございますポ。では、お耳を拝借いたしますポ!)」

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