第17話『記憶のカケラ』

 初めに出あったのは、おなかをすかせた野犬の群れだった。

 彼らははじめゴン太の姿をまじまじと見つめていたが、リーダー格らしい先頭の犬が悔しそうに歯噛みして去ると、他の仲間もそれに続いた。


「ポッポッポッ、ゴン太どのに乗せていただいたのは、やはり正解でしたね」

「で、ででで、でも、すごくドキドキしたあ!」


 どうにか緊張から解放されたゴン太が、再び勢いよく走り出す。

 しばらく快調に進んだところでポッポ屋が叫んだ。


「ちょっと待ってください!」


 ゴン太が踏ん張るようにして急ブレーキをかける。

反動でひっくりかえりそうになったデン助が、体勢を立て直しながら言った。


「な、なんでえ! 道草食ってると、あっという間に日が暮れちまうぜ?」

「すみません! でも、あの草に見覚えがあったものですから」

「草だと? ったく、本当に道草食うつもりかよ!」


 デン助がぼやいていると、ゴン太がハッとしたように叫んだ。


「あれ! 見覚えって……ポッポ屋さん、記憶が戻ったの!?」

「ポッポッポッ、そうだといいんですがね。ちょっと違うようですポ。ただ、あの草は確かにどこかで見た気が……」


 ゴン太がポッポ屋のいう草の傍へと歩いて行く。


「ああ、間違いありません! これは薬草ですポ!」

「薬草だあ?」

「そうですポ! ……なるほどなるほど。少し思い出しましたよ!」

「も、もう記憶のカケラを見つけちゃったの!?」

「もしかするとそうかもしれません。わたくし、薬草図鑑を覗き込んでいたことがあるようなんですポ」

「めえさんが薬草図鑑を? なんでえ、やっぱり記憶が戻ってるんじゃねえか?」

「ポッポッポッ、おかしなものですねえ。図鑑の内容についてはひらめいたように思い出せたんですが、それだけですポ」

「なんでえ、期待させやがって」

「でも、ちょっとでも思い出せてよかったね! ひょっとしたら向こう岸につく前に、この調子で全部思い出せちゃうかもしれないよ!」


 ゴン太が期待に胸をふくらませてはしゃいだ。


「人生そんなに甘かねえっての」

「ポッポッポッ、まあ、幸先は悪くないですからね。せいぜい期待しておきましょう」


 なんだかんだ言い合いながらも、三匹の胸にそれぞれに希望の火が灯ったようだった。

 そして、ゴン太がはずむように再び駆け出そうとしたそのとき――


「(待ちな!)」


 デン助が鋭いささやき声でゴン太を止めた。


「(ど、どうしたの!?)」


 ゴン太が思わず身をかがめて聞き返す。


デン助は無言のまま、手前の木々の奥を指し示した。

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