第16話『旅立ち』

「このフサフサした長い毛は、本当にたてがみとは違うんですポ?」


 ポッポ屋がゴン太の首まわりにはえた異常に長い灰色の毛をしげしげと眺めながら言った。


「うん、やっぱり変かなあ? オオカミのくせにこんなに首の毛が長いなんて……」

「いえいえ、これはつかまるにも持ってこいですし、隠れ蓑としても最高ですポ。ゴン太どののようなオオカミに巡り合えるとは、わたくしはとても幸運な鳩ですポ」


けなされるのかと思った首の毛が褒められ、一瞬凍りかけた心がバターのようにとろけて、ポッと温かくなった。


「えへ、えへへ……」

「ポポッ!?」


 ヨダレを垂らしてニヤニヤしているゴン太に乗り込んだポッポ屋が驚きの声をあげる。


「ゴン太どの! ここは実に居心地がいいですね! 温かいですし、なんといいますか、尋常ではない安心感がありますポ! ゴン太どのはひょっとして――ズバリ! オオカミの〝王様〟ではありませんか!?」


 ゴン太のフサフサの首の毛の中に深くもぐりこみながらポッポ屋が言った。


「え、えーッ!? ボ、ボボボ、ボクがオオカミの〝王様〟だなんて、そんな!? ……で、でも、そんな風に言われると、なんだかすごく嬉しいなあ! 本当だったらもっと嬉しいけど……でへ、でへへ」


 じっとしていられないような、ワクワクするような力が体の底から湧きあがってくるのを抑えきれず、ゴン太は思わず、「よーし!」と立ち上がった。


「ゲッ!? ゴ、ゴンの字! 危ねえじゃねえか!」


 ポッポ屋に続いて乗り込もうとしていたデン助が、咄嗟のことで振り落とされる。


「わわ! デン助さん! ごめんなさい!」


 ゴン太が慌てて身をかがめ直した。

 デン助がポッポ屋の隣に、よっこらせと乗り込んだところでゴン太が再び立ち上がる。


「それじゃあ出発するから、しっかりつかまっててね!」


 ゴン太が全速力で駆け出すと、あたりの景色が一瞬で風の中に埋もれていった。


「ポッポォーーッ!?」

「ゴ、ゴンの字! ちっとはスピード落としやがれ! 向こうに着く前にこっちの体がオシャカになっちまうだろうが!」

「ご、ごめんなさい! つい力が入っちゃって!」


 カエルと鳩を乗せたオオカミ――この珍妙な取り合わせの三匹の旅がいよいよ始まった。

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