第15話『プランD』
「で、どうすりゃいいんでえ?」
ニコニコしているゴン太と、目を半眼にして腕組みしているデン助を交互に見て、ポッポ屋は言った。
「沼の向こう岸まで、山あいを抜けてゆく旅路には、実にさまざまな危険が予想されますポ」
「おう、この季節だ。起きがけの腹をすかせたクマや、そのクマを狙ってくる密猟者――それに、冬の間ろくに食えず、飢えちまってる野犬やオオカミにも気をつけなきゃならねえな」
ゴン太が、申し訳なさそうに少し顔をふせた。
「ポッポッポッ、そこですポ。さしあたって……わたくしとデン助どのを、ゴン太どのに乗せていただくわけにはいきませんでしょうか?」
「え? ボクに!?」
寝耳に水の話に慌てるゴン太。
「ゴン太どのは、外見だけみれば、まことに強そうなオオカミですポ。オデコは異常なほど突き出ておりますし、わたくしを救ってくださったその立派なたてがみも、すこぶる豊かで、はなはだ不気味なものがありますポ」
「え、ほんと!? ……これ、たてがみじゃないんだけど。でも嬉しいなあ! ねえデン助さん、今の聞いた!?」
相変わらず、褒めているのかけなしているのか微妙なポッポ屋だったが、デン助はただ目を閉じて首を振っていた。
「もし、ゴン太どのに乗せていただければ、目的地までの移動速度は格段に上昇しますポ。移動速度が上昇すれば、そのぶん、危険な目にあう可能性は減少しますから、とても有効な作戦と言えるでしょう」
「そ、それってボクがみんなの役に立つってこと!?」
「ズバリ! そういうことになりますポ」
「わーい! ボク、全然頑張るよ!」
喜んで飛び跳ねるゴン太にポッポ屋が重ねて言う。
「さらに、ゴン太どのに乗せてもらえれば、オオカミを恐れている獣に関しても、これを寄せつけずに済みますポ」
「えっへん!」
生まれて初めて自分が誇らしいイキモノになった気がして、ゴン太は興奮した。
「ただ、ゴン太どのが方向音痴であることを考慮せねば、このプランは成立しないですポ」
はしゃいでいたゴン太が一瞬で落ち込む。
ポッポ屋が、ずっと黙って聞いていたデン助をみやった。
「そこでオレの出番てわけか」
「はいですポ。ゴン太どのの方向感覚が当てにできぬ以上、このあたりの土地に一番詳しく、かつ方向感覚も正常なデン助どのに、指示を出してもらわねばならなりません」
「仕方ねえ、乗りかかった船だ。引き受けてやろうじゃねえか」
「デン助さんいいの!?」
「カエルに二言はねえ」
「わーいわーい!」
ゴン太が尾っぽ振りながら、ベロベロとデン助の顔をなめ回した。
「よ、よせ! ゴンの字! 息ができねえつってんだろ!」
慌てて逃げ回るデン助。
「ポッポッポッ、作戦は決まりました。できれば、日が暮れる前に到着したいですポ。さあ急ぎましょう!」
ゴン太が、デン助とポッポ屋が乗れるように腰をかがめる。
ポッポ屋が急いで乗り込もうとして、ふいにその足を止めた。
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