第12話『プランC』

「プ、プランCだと?」


 デン助が怪訝な顔する。


「ええ、松竹梅でいうと梅クラスのプランですポ。まあ、ないよりはマシでしょう。代案を複数用意しておくのはプランニングのセオリーですからね」

「御託はいいから言ってみやがれ!」


 ゴン太が、今度こそと期待を込めたまなざしで聞き耳を立てる。


「デン助どのに、向こう岸まで泳いでいってもらいたいんですポ」

「!?」

「今言える確かなことは、わたくしが落ちてきた方角から判断して、沼の向こう側からやってきた、ということだけですポ」

「おい――」


 デン助が口を挟みかけるが、ポッポ屋は立て板に水のごとく話し続ける。


「ひょっとすると、わたくしのいた群れが、まだ向こう岸のどこかにいるかもしません! いえ、そうでなかったとしても、なにかしら記憶のカケラくらいは落ちているかもしれないですポ!」


 勢い込むポッポ屋とは裏腹に、デン助が無表情になっていく。ポッポ屋は気づかず、話し続けた。


「この沼地は、察するところ、デン助どのの庭のようなものでしょうから、危険地帯も熟知されているはず。であれば問題はひとつ――デン助どのの足で、果たしてどれくらいかかるのかというところですポ。ここでゴン太どのに守っていただくにしても、飛べない鳩が一箇所に長居するというのは、あまり得策とは言えないですからね」


 そこまで語ったところで、黙って聞いていたデン助がつぶやくように言った。


「できねえよ……」

「?」

「デン助さん?」


 ゴン太がデン助の暗い顔を不思議そうに覗き込む。


「そいつはできねえ」


 今度はキッパリと言い放ったデン助に、ゴン太がすがりつくように頼み込んだ。


「デン助さんお願い! 協力してあげようよ。ポッポ屋さんがこんな風になっちゃったのは、ボクのせいかもしれないし――」

「できねえつってんだよ!」


 激しい怒鳴り声に体を震わせて驚くゴン太。おびえきったまなざしでデン助を見ると、デン助は苦しそうに顔をゆがめ、目をつぶっていた。


「……デ、デン助さん?」


 デン助が唇を震わせながら、しぼり出すようにポツリとつぶやいた。


「……泳げねえんだよ」


 一瞬、森からすべてのイキモノが消えてしまったかのようにあたりがシーンと静まりかえる。時間が止まったようだった。

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