第11話『代案』
まったくオオカミらしくないオオカミだった。デン助は自分でも不思議なほど、このオオカミを放っておくことができなくなっていた。この憎めないオオカミのためにひと肌脱いでやろうか……そう思う。しかし、他人様にものを頼む態度とは思えないポッポ屋を目にすると、どうにも腹の虫がおさまらなくなってくるのだった。
すると、ポッポ屋が珍しく遠慮がちに口を開いた。
「……ポッポッポッ、みなさんがどうしてもわたくしを案内できないとおっしゃるなら、代案がなくもないですポ」
「代案だと?」
デン助が、ポッポ屋をにらんでオウム返しに聞き返した。
「ええ、プランBですポ。うまくいけば、最小限のリスクで記憶を取り戻すことができるかもしれません。場合によっては、徒労に終わる可能性もございますが――」
「ダーッ! まだるっこしい話は抜きでえ!」
デン助が、腹を据えてポッポ屋に向き直る。
「言ってみな、そのプランBってヤツを。聞くだけは聞いてやろうじゃねえか」
「デン助さん!」
ゴン太が目を輝かせながらデン助に飛びつき、犬のようにペロペロと顔中なめまくった。
「おいよせ! ゴンの字、息ができねえ!」
カエルにじゃれつくオオカミという珍妙な光景をじっと見たあと、ポッポ屋がはるか遠くを見るようなまなざしで言った。
「では、単刀直入に申し上げますポ」
じゃれついていた二匹が静かになる。
「ゴンの字さんとおっしゃいましたね?」
「え? あ、ボク、ゴン太です!」
急に自分に水を向けられて驚いたゴン太が、しどろもどろにこたえた。
「では、ゴン太どの。この沼の向こう岸まで行ってきてもらえますでしょうか?」
「え! ボクが!?」
「ご覧のとおり、向こう岸以外は、ほとんど山に囲まれておりますポ。平坦な道のりとはいえないでしょうが、オオカミのゴン太どのなら、けして無理な話ではないですポ」
ゴン太がどっと汗をかきつつ、ポッポ屋のしめした方に目を向ける。淡く頼りない陽の光の下、沼のあぶくから放出されるガスで、向こう岸はかすんで見えた。
「到着しだい、ひととおり周囲の様子を見ていただいて、あとは戻って、状況報告していただくだけで結構ですポ。記憶というのは、なにかひとつキッカケさえつかめれば芋づる式に出てくるそうですからね。ひょっとすると――」
「却下だな」
デン助がポッポ屋の話を打ち切った。
「ポ?」
切なげにうつむいているゴン太をチラッと見やってから、デン助が続けた。
「ポッポ屋が知らねえのも無理はねえが、ゴンの字はな、そもそもこの沼地に迷い込んできた〝迷いオオカミ〟なんだよ」
「迷いオオカミ?」
「ボ、ボク、その、すごい方向音痴で、今日もそれでここに来ちゃって、だから……」
ゴン太が申し訳なさそうにみじろぎする。
「そうだったんですか。知らなかったとはいえ、失礼しましたクルポッポ」
「ご、ごめんなさい」
どこにいても、役に立つことができない自分を責め、ふさぎ込むゴン太。デン助がポンポンと水かきのついた手のひらで軽く叩き、ゴン太を慰める。
ポッポ屋はさして失望した様子もなく、黒目をクルクルと回転させて言い放った。
「では、プランCにいきましょう」
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