第10話『お願い』

「ポッポッポッ、いやはや本当に参りましたねえ。これは、みなさんにお願いするしか手がないようですポ」

「お願いだと?」

「はいですポ。わたくし、これから飛んできた方へ戻ってみようと思っているのですが、土地勘もないことですし――いえ、仮にあったとしても、すっかり忘れてしまっているようなので、ぜひともみなさんに案内していただきたいんですポ」

「どうしてオレたちがそんなことしなきゃならねえんだよ!」

「ポッポッポッ、それはもちろん、わたくしが落としたという記憶を探しに行くためですポ。どこかに記憶のカケラでも落ちていれば、なにかを思い出すかもしれないですポ」

「バーロー! なんでオレたちがそこまでしなきゃならねえってんだよ!」

「ポーッポッポッポッ! よくぞ聞いてくださいました。それはズバリ! わたくしの記憶を取り戻すためですポ!」

「こ、この野郎ッ――」

「デン助さん!」


 ずっと黙っていたゴン太が真剣な顔をしてデン助を押しとどめた。


「なんでえ!」

「案内してあげようよ」

「なに!?」


 デン助が怖い顔でにらむ。一瞬ひるんだゴン太だったが、モジモジしながらも先を続けた。


「ポ、ポッポ屋さんがあんな風になっちゃったのは、もしかしたら、ボクのせいもあるのかもしれないし、それに、ボクもまたひとりになるのはイヤだし……だから……」

「ちょいと待ちねえ」


 デン助はひとつ頷いて、ギョロッとした目を閉じた。


「ゴンの字よ、めえさんの気持ちはわかった。けどよ、こいつはそんなに難しい話じゃねえ」


 デン助が目を開けてポッポ屋を指さした。


「いいかい? なにもオレたちが案内しなくたって、あいつはこの沼の向こう側だろうとどこだろうと、自分で飛んで行って見てこられるじゃねえか。土地勘なんかなくなって、心配することはねえんだよ」


 ゴン太は「あ、そっか」という顔をしてポッポ屋を見た。

ゴン太とデン助を交互に見ていたポッポ屋がここで口を開いた。


「ポッポッポッ、デン助どのとおっしゃいましたか?」

「おう」

「なかなか面白いことをおっしゃいますポ」

「あん?」


 デン助がギョロ目で睨めつける。


「わたくしがなぜここに落ちてきたのか、あなたまで記憶を失ってもらっては困りますポ」

「なにが言いてんでえ……」


 デン助が低い声で気色ばむ。


「あーーーーーーーーーッ!?」


 ゴン太が突然大声を出し、凄んでいたデン助が驚く。


「な、なんでえゴンの字! ビックリするじゃねえか!」

「ごめんなさい! でもボク、わかっちゃったんだよ!」

「なにがよ?」

「ポッポ屋さん……飛べないんだよ……」

「はあ?」

「きっと、飛び方まで忘れちゃったんだよ!」

「ポッポッポッポッ、ズバリ、ご名答でございますポ!」


 ポッポ屋が羽根を広げて、ゴン太を褒め称えた。ゴン太は「エヘヘ」と照れている。


「いやあ、お恥ずかしい話でございますポ。羽ばたき方にも、きっとコツがあったんでございましょうねえ」


 そうい言いながら羽をバサッバサッと振ってみせるポッポ屋。確かに、いっこうに浮き上がる気配はなかった。

バサバサッ! バサバサッ!


「ええい、やかましい!」


 堪忍袋の尾が切れたようにデン助が怒鳴った。


「これは失礼クルポッポ。しかし、これで納得していただけましたでしょうか。わたくしを案内しなければならない理由が?」


 デン助は、納得するどころかむしろ頭に血がのぼっていた。しかし、ゴン太の顔を見ると、案の定、うるんだ瞳で見つめ返してきていた。

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