第9話『ポッポッポッ』



「べ、べらぼうめえ! おちょくるのもいい加減にしやがれってんだ!」

「デン助さんてば!」

「ポッポッポッポッ、質問を変えた方がよさそうですね。それでは……ここは一体どこでしょう?」

「はあ?」


 デン助とゴン太が顔を見合わせた。


「ポッポッポッ、いやはや弱りました。これではどこに向かえばいいのやら。……それにしてもひどいにおいでクルポッポ」


 鳩はクチバシのあたりを羽で押さえながらあたりをうろつき、時折、なにかを確かめるように地面をつついてはほじくり返していた。

その挙動不審な鳩の様子に、デン助とゴン太が同時にハッとする。


「おめえ、まさか!?」

「……ポ?」

「デン助さん! あの鳩さん、ボクにぶつかったのが悪かったんじゃない!? ひょっとして頭にぶつかっちゃったのかも……ボク、すごい石頭だし、どうしよう?」


 今にも一雨きそうな顔でゴン太がデン助を見る。デン助はふうとひと息ついて腕を組み、鳩に呼びかけた。


「よう、ポッポ屋!」

「ポッポ屋? それがわたくしの名前でございますか?」

「そうじゃねえよ! とりあえず、名前くらいなきゃ話が進まねえから、オレがつけてやったんでえ!」

「ポッポッポッ、いいですねえ、ポッポ屋。気に入りましたよ」

 デン助の雷がまた落ちそうになる気配を感じて、ゴン太が割って入る。

「え、ええと、ポッポ屋さん?」

「ズバリ! わたくしのことですね?」

「う、うん。あのね、たぶんなんだけど、ポッポ屋さんの記憶、どこかに落っこっちゃったんじゃないかな?」

「ポー、記憶がですか?」


 まるで他人ごとのようにつぶやく。


「うん、もしかしたら、ボクのせいかもしれないんだけど……なにか覚えていることはない?」

「そうでございますねえ」


 ポッポ屋が、どこを見ているかわからない黒い目をしばしばさせる。思い出そうと努力しているようだった。


「……あ、そういえば、なにかとても大きな音を聞いたような気がするですポ」

「(デン助さん!? さっきの銃声のことかな?)」


 ゴン太がデン助に耳打ちする。デン助は鳩から目を離さないまま黙って頷いた。


「それから……ああ、駄目ですポ。そこからは頭が真っ白になっておりますポ」

「するってえと、その大きな音を聞く前のことは、まったく覚えてねえってんだな?」

「ポ? そういうことになるんですか?」

「オレが聞いてんだよ!」

「ポッポッポッ、つまりわたくしは、あの音のせいで記憶をどこかに落としてしまったと、こういうわけですね? なるほどなるほど……」


 鳩が考え込んでしまったところで、デン助がゴン太に言った。


「おい、ゴンの字、ポッポ屋が記憶を忘れたのはおめえのせいじゃねえようだぜ?」

「う、うん。でも……」

「ま、ちょいと血の巡りが悪いのは、確かに打ち所が悪かったのかもしれねえがな」


 そう聞くと、やはり悪いことをしたみたいに、ゴン太は申し訳ない気持ちになった。

考え込んでいたポッポ屋が、なにかを思いついたように突然しゃべり出した。

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