後編

アレスは自分の上にある重みで目覚める。その重さの正体はスースーと寝息を立てるディアーナだと気づく。アレスはその身を反転させ体を起こす。ディアーナを起こさぬようにそっと寝かせる。

アレスは。ディアーナはどう見ても10代だ。そんな少女をいくら煽られたとはいえ、犯して貪りつくすように抱いたのだ。これはもう責任を取って妻に迎えるしかない。


「うん…。」


ディアーナが寝返りを打ち、その睫毛が震える。どうやら覚醒が近いようだ。


「起きたか?」

「あ…。」

「気分はどうだ?」

「だ、大丈夫です。」

「そうか…。」

「アレス様?」

「す、すまん。」

「え?」

「その、い、いくら煽られたとはいえ、其方の純潔を奪ってしまったわけで…。」

「あ…。」

「どう詫びてよいのやら…。」

「アレス様は…。」

「ん?」

「アレス様は気持ちよかったですか?」

「へ?」

「私との行為は気持ちよかったですか?」

「それは、この状況を見れば一目瞭然というか…。」

「そうですか…。 よかった。」


ディアーナは満面の笑みを浮かべていた。その様子にアレスは混乱した。そして、次の言葉に思考が止まる。


「じゃ、私のことお嫁さんにしてくださいますよね。」

「は?」

「ヤだ、忘れちゃったんですか?」

「な、何を?」

「10年前、約束してくださいましたよね?」

「10年前?」


アレスはそう言われてやっと思い出した。そう、10年前彼女と同じ銀髪の幼女から求婚されたのだ。当時24歳だったアレスはそれをあしらう為にこういった。


「強くていい女になって俺を気持ちよくさせてくれるようになったらな。」


その時は『気持ちよくさせる』の意味なんて分かるわけないからとたかをくくっていたのでそのまま捨て置き、忘れていた。だが、言われた本人はそれをしっかり覚えてたようで…。


「ま、まさか、お前…。」

「はい、ルーカス・ロンバルディーニの娘のディアーナです。」


アレスはもう頭を巨大な岩石で打ち付けられたぐらいの衝撃を受けた。だが、目の前の少女はそれはそれは嬉しそうに満面の笑みを浮かべている。


「もう、ティナのおかげです。

 あ、ティナっていうのは私の幼馴染の侍女なんですけどね。

 彼女に色々教えてもらったんです。」

「色々って?」

「はい、これで『殿方の気持ちよくなること』を勉強しました。」


ベッドの下から出してきたのは男なら誰もが世話になったであろう『エロ本』の数々だった。恐る恐る手に取ると事細かに指南されていた。


「アレス様の好みの女性になるべく体を磨き上げました。」


そこからはディアーナの10年間の努力を延々聞かされる羽目に。どうやら彼女は情事のイロハをこれらのエロ本で身に着けたらしい。で、同時にアレスの好みがどういう女性かということを徹底的に調べ上げたそうだ。そして、自身の『女』を磨いたのだとか。だが、それは同時に他の男たちの目に留まるという諸刃の剣であった。そこで、月の神殿の巫女になることを願い出たのだという。


「何でまた…。」

「月の女神は処女神ですから。」

「ああ、はるほど。」


そう、月の女神は処女神でその神殿に上がる『月の巫女』は彼の女神の代弁者としての役割を追う。故に『乙女』であることを要求される。だからこそ、男から言い寄られることを防ぐにはうってつけだった。そのおかげで、アレスは彼女の初めてを美味しく頂くことができたわけだが。


「副産物的に叔父の謀反に巻き込まれずに済みました。」

「そう、だったのか…。」

「なので、私には両親居ません。」

「はい?」

「だ・か・ら、私をお嫁さんに貰っても反対する人なんていませんよ。」

「いや、それは…。」

「むしろ、民の多くは私を娶ってロンバルディーニの王になってほしいと思ってます。」

「おい。」

「だから、私をお嫁さんにしてください。」

「そ、それは…。」

「あ、ひょっとして…。」

「…………。」

「やっぱり、アレしないとダメ、とか?」

「アレ?」

「強い女は上に乗っかるのが得意なんですよね?」

「は?」

「私、頑張りますから。」

「いやいや、それ、まちが…。」


アレスが訂正しようとしたが、ディアーナの熱烈な口付けに阻まれ言葉を紡げない。それどころか、そのまま押し倒されて、乗っかられてしまった。

あどけない少女だと思っていたら妖艶な大人の女の表情を見せる。もう、理性で踏みとどまるのが馬鹿らしく思え、そこからは本能の赴くままに振る舞う。

余りに良すぎて歯止めが効かず、抱き潰して眠りにつく。そんな日が三日も続いた。


「こんなに頑張ってもお嫁さんにはしてくれないんですね…。」

「ディアーナ、それは違う。」

「アレス様。」

「ディアーナが良すぎて言葉が出ないだけだ。」

「ホントに?」

「ホントだ。」

「じゃ、お嫁さんにしてくれる?」

「勿論だ。」

「やったー!」

「デ、ディアーナ?!」


ディアーナは喜びのあまり、抱きついてアレスにキスの雨を降らせる。

それに煽られるアレス。そのままなし崩し的に盛ってしまった。


****************************************************************


――――――――翌日――――――――


「アレス様、温泉は如何でしたか?」

「あ、ああ…。」

「その割にはげっそりしてませんか?」

「それは…。」


そこまで言いかけたところで、グイッと腕を引っ張られる。それは満面の笑みを振りまくディアーナ。


「アレス様、こちらの方は?」

「俺の副官のカルロスだ。」

「はじめまして。 私はディアーナと申します。」

「ディアーナ様ですか…。」

「はい、今日からアレス様のお嫁さんです。」

「は?」

「で・す・か・ら!! 今日から私がアレス様の奥さんです。」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」


その場にいた全員が盛大に驚く。それはもう城がひっくり返るかの言うような大騒ぎとなった。何せ『黒の軍神』と恐れられてきたアレスがどう見ても16~17の少女を嫁にしたというのだから…。


「お、幼妻…。」


誰かがボソッと呟いた。それが一気に広がり、結果二人の婚礼を速めることになった。


その後、アレスとディアーナは盛大な式を挙げたつと同時にアレスはロンバルディーニの国王に即位し、善政を敷く。

ディアーナとの間には3男5女をもうけて大家族に。つまりは毎夜ベッドで搾り取られたアレスなのでした。


【おしまい】

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軍神と月の巫女 氷室 龍 @groove-0406

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