参の章 学校ノ怪談 十不思議編

一の話

 ~ ねえ、知ってる? 不思議の話、不思議な不気味なお話を。

学校にだけ伝わってる秘密の不思議話。 そう、十不思議を。 ~






秋華あきかは次の日の放課後、二階建ての文化部部室棟にあるオカルト研究部の部室の前まで来ていた。 

が、そこで思い悩んでいた。

教室にいる時にお話ししたかったんだけど、すぐいなくなっちゃって。 ここまで来てはみたけど。

秋華は戸に手を近づけては戻し、近づけては戻しを何度か繰り返す。

はたから見る者がいれば、イライラするであろうその行為。

それは当然見ていた者はイライラし、そして行動する。


「もーーー! 開けるんなら早く開けてよーー!!」


ガラリとオカ研の部室の戸が開き、その開けた人物、坂下さかした 恵夢めぐむがそう叫ぶのは当然かも知れない。


「せっかく七霧ななきりちゃんが戸を開けたら、キス顔のあたしとご対面っ! って演出考えてたのにぃ!」


と、地団駄を踏むほどのくやしさを見せる。


「え? え? あ、ご、ごめんなさい?」


「まあ、誤ってもらうほどの事じゃないけど。 じゃあやり直しね? 開ける所から!」


そう言って戸を閉めようと……


「あ! ま、まってくださいっ!?」


秋華は慌てて止める。

その慌てるさまを見てニヤリと笑うと、改めて秋華に向き直り。


「なーんてね! とりあえず、ようこそっ! 我らがオカルト研究部へっ!」


満面の笑顔で秋華を迎えるのだった。



オカ研の中は、おおよそ教室の半分ほどであろうか? 中央に長机がコの字に並べてあり、その上にPCが二台据えてあり、そこにパイプイスがまばらに置いてある。 残りのイスは隅にまとめてあった。

壁際にはロッカーが3つ並べて置いてあり、その隣にスチールキャビネットが並べていて資料らしき書類の束が収納されている。

このスチールキャビネットは入口をはさんで右側に並んでおり、この部屋はとても綺麗に整頓されている。


「適当に座ってて」


そう言うと、奥の窓際にある流しにあった電気ケトルでお湯を沸かし出した。


「なにか飲む? 紅茶とかコーヒーとかあるよ」


「え? あ、お、お構いなく。」


そう言われた恵夢は眉をしかめ秋華に言う。


「遠慮とかしちゃだめだよ?」


「ああ、いえ、そう言う訳じゃ……」


恵夢はケトルの電源を落とし、秋華の側にイスを引き寄せ座ると、ならばと話しだす。


「じゃあ、七霧ちゃんがここに来た理由を聞きたいなーなんて」


そう聞かれた秋華はオズオズと答える。 今だ不安であるのだが。


「あ、あのオカ研に入れてもらえたらなぁって」


それを聞いた恵夢は満面の笑顔で頷く。


「おっけぇ! おっけぇ! 歓迎するよ七霧ちゃん」


そう言われてやっと緊張が解けホッと息を吐く。


生憎あいにく、今日は活動日じゃないんだけど活動内容聞いてく?」


その方がいいだろうか? どっちにしろ見回りの時間までまだあるのだ。


「お、お願いします」


恵夢は一度席を立ち、壁際にあるロッカーからノートPCを持ってくると秋華の前に置きそれを立ち上げる。

そしてそのまま学校のHPにあるオカ研のコーナーを開いて見せた。


「これがウチのコーナーね。 一応ここのPCからじゃないと管理画面にいけないようにしてあるから」


学校側からでは、いじれないようにしてるんだよ、と自慢げに胸を逸らす恵夢。

だから、ノート含めPCはここで使って欲しいと言われた。


「まあ据え付けPC持ってくやつなんていないけどね」


そう言って恵夢は笑った。


「うちの部では、主に学校内のオカルト的な噂なんかを集めて、あれば資料や関係者なんかから証言を聞いたりして、それを元に記事にしてこのHPのコーナー、オカルト情報局にUPする、と言うのが大体の流れね」


どう? 簡単でしょ、と恵夢は笑う。

意外にしっかりとした活動をしていると秋華は思った。

こういうのは憶測か、デタラメのまま記事にするものだと思っていた。

そういった秋華の考えを予想していたのか、恵夢はスススッと秋華に近づき、いきなり首元にしがみ付くように抱き着いた。


「ひゃああぁっ!?」


「いかん、いかんぞー、秋っち、あ、もう部員だから秋っちって呼ぶね? うちがそんな三流スポーツ紙みたいな真似、このあたしがさせる訳ないでしょー?」


首にしがみ付いたまま、うんうんと頷く恵夢に秋華は引きはがす事も出来ずオタオタしていた。

そもそも部員だから秋っちとは? などと考えてしまい次の恵夢の行動の対応が遅れた。

恵夢はその姿を見て、ういやつじゃ。 などと言ってそっと顔を近づけ……


秋華の耳に息を吹きかけた。


「ひゃんっ!?」


「あはははは! 秋っち最高っ! いいよいいよー!」


そのあんまりな態度にさすがの秋華もむくれたが、ふと気になった事を聞いた。


「あの…… そう言えばオカ研って何人くらいいるんですか?」


恵夢はしばし沈黙し、そして口を開いた。


「秋っち入れて3人! 実は今、部から同好会への降格のピンチッ! なんだよねぇ」


まいったよね? アッハッハッハ。 とその内容の割にはお気楽な様子であった。








明日からの部活の予定を聞き終えて、秋華は部室を退出した。

恵夢はまだやる事があるそうだった。

そのまま部室棟を出て、本棟の建物に入ってすぐに、前川まえかわ先生にバッタリと出会った。


「おう、おつかれ」


前川は、気楽な様子で左手を軽く挙げ挨拶をしてきた。


「あ、前川先生、こ、こんにちは。 お疲れ様です」


「そうだ。 七霧、お前オカ研に入ったんだって?」


いきなり、先ほど入ったばかり部活の事を言われ目を白黒させる。

そんな秋華を見て、苦笑しながら説明した。


「ああ、オカ研については職員室でもよく話題になるんだ。 それもあって静流しずるから七霧が入部するようだと聞いててな」


犯人は静流だったようだ。


「本当に助かったよ、なにせこっちから人員を入れるのは難しかったからなぁ」


いきなり礼を言われ、秋華は意味もなく焦ってしまう。


「い、い、い、いえ。 そんな……」


焦りの為か、照れの為か。 秋華の頬がみるみる赤くなっていく。

そんな秋華の様子を見て、前川は無意識に手を、その手を秋華の頭に置き、そっと撫でた。


「ふえっ!?」


その声に前川はハッとして慌てて手を放した。


「あ! あ、いやすまん。 ついな?」


「あ、い、いえ。 そのし、失礼しますっ!」


そう言うと秋華は、そそくさと前川から離れていった。

前川はその後ろ姿をしばらく見ていたが、その姿が廊下の曲がり角に消えると、ジッと秋華を撫でた手の平を見る。

その手の平を見ながら、昨日の事を思い出していた。





「おまえは…… 空音そらね!」


そこに居たのは、かつての教え子であった七霧ななきり 空音そらねだった。

学生の時は長い髪をポニーテールにしていたものだが、今はショートにしていてシャープな印象を与える。

とても美人ではあるが、どことなく抜き身の刃物を思わせる雰囲気は男を遠ざける要因の一つだろう。


「お久しぶり前川先生。 やっぱりタバコやめれないの?」


空音にそう言われバツが悪そうな顔をする。


「ああ、いや、2年前まではやめてたんだがな」


「ふぅん、まあいいや。」


空音から聞いた事だが、さほど興味なさそうに生返事を返すとクルリと背中を向ける。


「お、おいっ!?」


久しぶりの再会であるのにもう帰るのか? そう思った前川が焦って呼び止める。


「場所変えましょ? ここ、くっさい!」


職員室をはさんで右手に校長室があり、その反対側が生徒指導室になっている。

前川はそこに空音を案内した。


「へえ、ここ初めて入ったわ」


「お前は優等生だったからな。」


二人は適当に座ると、空音はレディースジーンズに包まれた長い脚を組み替えてから口を開いた。


「で? 学校の調子はどうなの? 具体的に言うとアレの封印状態だけど」


前川は呆れたようにため息を吐くとその質問に答える。


「ハアッ、お前な? まあいい。 封印は現在は異常なし。 しかし現場はイレギュラーだらけだ」


空音は片眉を跳ね上げると、なにも言わず続きを促した。


「今だ封印が解けるまで3ヶ月あるってのに、なぜか受肉した悪霊、つまり呪霊が現れた」


「呪霊、ね。 他には?」


「他にもあるぞ。 人手不足にオカ研の独立、委員会からの返答もなんか遅いし…… ああ、後【眷属】が現れた」


さすがにその事は予想外だったのか、空音は思わず前川の顔を凝視した。

前川は、してやったりという表情を浮かべたが、すぐにマジメな表情に戻した。


「【眷属】…… 被害は?」


【眷属】がこんな時期に、それも校舎に現れたのならその被害は相当な物だろう。

最悪、死者が出ているかもしれない。

そう思った空音だったが、前川は気楽な表情で返答を返した。


「ゼロ、だ。 さかきさんがすぐ駆けつけてくれたしな」


空音は知らず止めていた息をゆっくりと吐きだす。

そう言えば榊さんがいた。 彼なら【眷属】を倒す事も可能だろう。 いや、彼の持つあの霊木れいぼくで出来た杖があれば、か。


「で、だな。 その受肉した霊や、【眷属】は二件共に、七霧 秋華の前に現れているんだ」


それを聞いた空音は無表情でなんの反応も示さなかった。

ただ一言。 そう、とだけ。


「先生ありがと。 私行くわ。 所用を済ませないとね。 それが終わったら私も参加させて貰うから」


「お、おい待てよ。 七霧には会っていかないのか?」


空音は、それに答えることなく指導室の戸を開けながら振り返らず、静かに前川に問いかける。


「先生、秋との事後悔してる?」


「……すると、思うか?」


その前川の答えにクスリと笑うと、今度こそ空音は出て行った。










空音が、しつこい監視の目をなんとか掻い潜ってセーフハウスの一つに帰り着いたのは、もう深夜の事だった。

部屋に入ってすぐにソファーに倒れ込み、そして体に震えが走る。


……出会った。 出会ってしまった! 私にはわかる。 秋華は”アレ”と出会ってしまったのだ。

【眷属】が秋華の前に現れたのも、”アレ”との間に”道”を開くためだろう。

しかしそうだとすれば、そろそろ秋華に、あの現象が起きるハズ。

辛いだろう。 優しい、母親に似て心優しい秋華に耐えれるか?

そこまで考えて、空音は皮肉げに顔を歪めた。

なに一丁前に心配してるのよ、秋華をあの学校に送り込めばそうなる事は判っていた事じゃない。

全ては計画の為。

自分が望んで、あの子を巻き込む。 わずか6歳でしかない彼女を……

空音はソファーから起き上がり、冷蔵庫からミネラルウォーターを取りだし、煽るように飲む。


「そう全ては計画の為。 私は秋華を…… 地獄に、落とすっ!」





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